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44 結婚式


 その一ヶ月後。クローディアとオリヴァーの結婚式がおこなわれた。


 大神殿の儀式場には、純白のドレスに身を包んだクローディアと、正装のオリヴァー。

 そして、白い蝶ネクタイをつけた小さな黒竜は、二人の周りをパタパタと飛んでいる。


 乙女ゲームなら今は、ムービーとともにエンドロールが流れ始めているはずだ。


 三人でバージンロードを進むと、祭壇の前でクリスが迎えてくれた。


「ディア。とても綺麗ですよ。結婚おめでとうございます」


 クリスは、眩しそうに目を細めながらクローディアを見つめた。本当の家族と疎遠であるクローディアにとっては、クリスが兄のようなもの。そのクリスに晴れ姿を見せる日を迎えられたことに、感慨深い気持ちがこみ上げてくる。


「クリス様。今まで私の助けとなってくださり感謝しておりますわ」

「ディアの成長を見守る日々は、私にとっても幸福な日々でした。どうかこれからは三人で幸せになってください」

「はい。ありがとうございます」


 これまでのクリスとの暮らしを思い出して、クローディアは胸がいっぱいになる。その横で、オリヴァーが小さく咳ばらいをした。


「教皇聖下。このような日まで妻を誘惑するのはお止めいただけませんか?」


 今の会話のどの辺りに、誘惑要素があったのだろうか。クリスは疑問でいっぱいになる。


「オリヴァー様、緊張をほぐしてくださりありがとうございます」

「ディアにはいつも笑顔でいてほしいですから」


 二人のやり取りを見るに、今のは王太子流の冗談だったようだ。そう思いながら手を取り合う二人を見つめたクリスは、二人の腕に白竜石のブレスレットがはめられていることに気がつく。

 あの白竜石は露店でも売るような安価なもの。それをわざわざ結婚式にまで身に着けているとは。クリスはじわっと、心が熱くなる。


「お二人とも、そこまで私を慕ってくださっていたのですね。今日は必ず良い式にして見せます」


 なんだか感動した様子で式を始めるクリスを尻目に、クローディアとオリヴァーは顔を見合わせた。


「白竜石の意味を勘違いしたのでしょう」


 こそっとオリヴァーに耳打ちされ、クローディアは卵を授かった日のことを思い出す。あの日もクリスは、自分が相手なのではと勘違いをしていた。彼の勘違いはいつも心を和ませてくれる。


 こんな彼が教皇となったのだから、これからは大神殿も、この国も、ほんわかした雰囲気になりそうな予感がする。

 そんな国をいずれは、素敵な夫となるオリヴァーが治めることになるのだ。

 幸福な未来を感じずにはいられない。



 そうして、ゲームのエンディングのように式は始まり。クリスが見守る中、二人で誓いの言葉を述べた。

 そして、誓いの口づけをするために、オリヴァーは仮面を取る。

 あまりのイケメンぶりに参列者が驚く中、二人は口づけを交わした。

 参列者から惜しみない祝福を受け、ENDの文字が浮かぶ。

 そこでゲームは終了だ。


 クローディアはゲームと実際の式を照らし合わせながら、ドキドキしていた心をなでおろしつつ、会場を後にした。

 ヒロインがあのような発言をするものだから、少しだけ前世の世界へと戻ってしまうのではないかと心配していたが。大丈夫だったようだ。


「ディア。緊張していましたか?」

「ええ。少しだけ……。オリヴァー様は?」

「俺も緊張しました。本当にディアが俺の妻になってくれるか心配で……」


 心が通い合ってから知ったことだが、彼は些細なことでクローディアに嫌われたかもしれないと、常に心配するような人だ。

 どんなに安心する言葉をかけられても、その心配だけは尽きないのだという。


 そんな彼の心配がなくなった時が、クローディアにとっての本当のハッピーエンドなのかもしれないと、ふと彼女は思う。

 クローディアにとっての乙女ゲームは、まだまだ道半ば。これから第二章が始まったようなものだ。


「ディア。ずっと俺の傍にいてください。そうでなければ俺はまた、ディアを追って彷徨い続けてしまいます」


 憂いに満ちた表情で懇願する彼を見て、クローディアは乙女ゲームの設定を思い出す。

 クローディアが感じたように、この『竜たま』には続章があるようだ。

 続章のオリヴァーはひたすら激甘なのだとか。


(私、耐えられるかしら……)


 子育てしながら、まったり家族愛を育む展開を予想していたが。人生とは常に予定通りにはいかないものだ。

 彼とずっと両思いだったとは思いもよらなかったし、大神殿から追放されるなど考えもしていなかった。そして、前世で言うところのストーカーに王太子がなると、誰が想像しただろうか。


 これからの展開もクローディアにはまったく予想ができない。前世の記憶はいつも急に思い出すので、備えることができないのだ。

 先が見えないほうが、充実した人生を送るためには良いかもしれない。けれど、少しくらいはヒントがほしい時もある。


 今でもクローディアと子供のためならどのような無茶も辞さない彼が、これからどうなってしまうのか。

 確約された溺愛モードに、クローディアは身構えるのだった。



お読みくださりありがとうございました!

ブクマ・評価・いいね・誤字報告ありがとうございます。励みになりました!


(追記)

結婚式部分の加筆に伴い、43話が長すぎになってしまったので、一話追加させていただきました。

そして43と番外編の間に挟もうとして失敗しちゃいました。

時系列的にはこれで問題ないかと……(汗汗

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◆作者ページ◆

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