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脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~  作者: 廻り


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35 聖竜城へ2


 広場へ到着したオリヴァーは、黒竜の姿へと変化した。

 黒竜は他の竜よりも身体が大きい。クリスの白竜を見慣れているクローディアでも、圧倒される迫力がある。


 幼い頃に見た幼体の黒竜とは異なり、成体は全身が鱗に覆われている。

 触れてみたい。

 他の者なら恐怖するのだろうが、クローディアは幼い頃と同じく好奇心が勝っていた。


「あの……、なでても良いですか?」

『どうぞ。もうぷにぷに(・・・・)ではありませんが』


 幼体の黒竜によろこんで触れていた頃を、彼も覚えているようだ。


「ふふ。鱗も素敵です」


 彼の鱗は黒曜石のように艶やがあり、すべすべの手触り。

 日の光を浴びて飛行していた彼は、言葉どおり光を反射して輝いていた。今は夜なので、その輝きを見られないのが少し残念だ。


『首の部分に乗ってください』


 オリヴァーは首の横に前足を置いて、登りやすくしてくれた。黒竜の首回りには、柔らかい毛がたっぷりと生えている。

 首によじ登るとそこは、雲にでも寝ころんでいるような極上の気持ちよさが広がっていた。


「オリヴァー様の毛は、ふかふかで気持ちいいです」

『落ちる心配はありませんから、寝ていても結構ですよ』


 竜の毛に包まれながら卵を温めることこそ、至上の幸せ。


 昔の竜人族はそんな言葉を残している。

 今ならクローディアにも、その気持ちがよくわかる。ここは、オリヴァーの優しさが凝縮されたような空間だ。


 オリヴァーは大きく翼を羽ばたかせながら、クローディアを落とさぬよう慎重に夜空へと舞い上がった。


「わぁぁ……!」


 みるみるうちに上昇する黒竜の上で、クローディアはその光景に瞳を輝かせる。


 地上の風景が見えなくなると、そこにはもう星空しかない。

 今まで見上げなければ見られなかった星が、横を向くだけで無数に広がっている。

 まるで自分達が、星の群れの中に紛れ込んでいるような気分だ。


 オリヴァーが星座の話をしなかった理由が、今ならわかりそう。

 彼が見ていた世界は、星と星を結んで楽しむ平面的なものではなく、星に囲まれる立体的な空間だったのだ。


「オリヴァー様が約束してくださった、夜空のお散歩って……」

『これです。幼い頃からずっと、この光景をディアに見せたかったんです。やっと夢が叶いました』

「言葉では表現できないほど素敵です。私……、お祭りではひどい断り方をしてしまいましたわ……」


 あの時は、卵のためには彼と距離を置くべきだとの思いに駆られていた。

 純粋に星空を見せてあげたい思ってくれた彼を、傷つけるような言い方になってしまった。


『あの時は、俺の伝え方に問題がありました。ディアを前にすると、気持ちばかりが焦ってしまって……。卵のことを考えれば、もっと慎重になるべきでした』


(そういえば。あの時オリヴァー様は、私にずっと傍にいてほしいと言ってくださったのよね)


 あの時はまるで、愛の告白のようで。卵の件さえなければ、クローディアは彼の気持ちを受け入れたかった。

 叶わなかった夢が叶うかもしれないと、想像せずにはいられなかった。


(あの時の彼の言葉はもう、無効なのよね……)


 彼が傷ついている姿を無視し続けてきたのは、他でもないクローディア自身だ。

 彼にはすでに、卵を孵化させる以上の気持ちはないように思える。

 



 それから何時間ほど経ったのだろうか。黒竜の毛に包まれてうとうとしていたクローディアは、オリヴァーの声で目を覚ました。 


『ディア、起きてください。そろそろ聖竜城に到着します』


 すでに飛行する高度はかなり下がっており、クローディアの目線でも聖竜城の塔を確認することができる。

 その塔の先端が、チカチカと光っていた。


「あの光はなんですか?」

『着地場所の合図を送って来ました。中庭に着地するようにだそうです』

「着地場ではないのですか?」


 中庭は正式な着地場ではない。聖竜城には城の横に立派な着地場が設けられている。なぜだろうと、クローディアは首を傾げる。


『事情があるようですね。とりあえず指示に従いましょう』


 オリヴァーは城の周りを旋回しながら中庭の上空まで寄せると、羽を上下に動かしながら静かに下降していく。

 地上が近づくにつれて、クローディアは気がついた。夜中にも関わらず、中庭は随分と明るい。それに大勢の人の気配も感じられる。


 黒竜が着地し、クローディアは彼の首から地上へと滑り降りた。

 そして辺りを見回した彼女は、思わず身構える。


(これはどういうこと……?)


 すぐに竜人の姿へと戻ったオリヴァーの顔を見てみると、彼もこの事態は想定外だったように目を見開いている。


 二人の目に映ったのは、城内に向かって敷かれている赤い絨毯と、その両脇を固める騎士団の列。

 彼の表情からも、いつもこのように出迎えられているようではなさそうだ。


 騎士達は皆、一様に下を向いている。おそらくオリヴァーの顔を見ないようにしているのだろう。

 一番手前にいた騎士が、下を向きながらこちらへと歩み寄ってきた。


「王太子殿下、仮面をどうぞ」

「ありがとうございます」


 オリヴァーは渡された黒竜の仮面を、慣れた手つきで装着する。その姿を見て、クローディアは現実に戻って来たような気分になる。


 クローディアの中ではすでに見慣れてしまった彼の顔。それは本来、気軽に見てはいけない。

 彼と素顔で接していられた期間は、本当に特別なものだったのだ。


 もう一生、彼の素顔を見ることはできないないのだろうか。こんなことなら、最後にしっかりと目に焼き付けておくべきだった。


 クローディアが後悔している間にも、騎士はなぜだか期待に満ちた表情で二人に敬礼をした。


「おかえりなさいませ、王太子殿下。そしてエメリ伯爵令嬢のご登城を、心から歓迎申し上げます」


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◆作者ページ◆

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