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12 領地での出会い1

 五日の旅を終えたクローディアは、クリスの領地へと到着した。


「わぁ! 素敵な町だわ」


 町の入り口にて下車したクローディアは、辺りを見回して瞳を輝かせた。

 首都に比べるとかなりこじんまりとした町だが、どの店や家を見ても外観に気を遣っているようだし、街路樹や花壇なども綺麗に整えられている。

 クリスの性格を映し出したような、素敵な街並みだ。


「ディア様、本当に町長の家まで同行しなくてもよろしいのですか?」

「私の素性は知らせないほうが良いもの。クリス枢機卿の紹介状もあるし大丈夫よ」


 神官騎士達を連れていけば、クローディアが聖女だったことが知られてしまうかもしれない。クリスが書いてくれた紹介状にも、遠縁の娘だと説明されている。護衛はここまでにしてもらったほうが無難だとクローディアは判断した。


 神官騎士達は、クローディアが一人で暮らすことに最後まで心配してくれたが、クローディアはこれからの暮らしが楽しみで仕方ない。神官騎士や御者には、よくお礼を述べて彼らを見送った。


 しかし、神官騎士達が見えなくなると、クローディアは急に寂しさを感じる。皆が恋しいというよりは、一人になったことで卵の存在を思い出してしまったのだ。


(卵はオリヴァー様が温めているはずだもの。心配はいらないわよね)


 他人の卵がこれほど気になることをおかしく感じつつも、クローディアは卵が無事に孵化するようその場で竜神に祈りを捧げた。


「あれ……。筆頭聖女様?」


 そこへ急に話しかけられたので、クローディアは驚いてぱちりと瞳を開けた。

 目の前には二十代半ばくらいの男性。赤い髪と茶の瞳、そして茶色の立派な角は片方が欠けている。

 整った顔立ちではあるが、クリスのように品の良い雰囲気とは少し異なる。どちらかといえば野性的な魅力を感じる男性だ。


 そんな彼を見た瞬間、クローディアはまたも前世の記憶が思い出される。


(なぜこんなところに、攻略対象が……?)


 彼の名は、イアン。二十五歳。

 駆け落ちした貴族令息と庶民の娘との間に生まれたが、両親共に事故で亡くなってしまい彼は孤児院で育つ。

 貴族の血を引いていたおかげで竜に変化する能力を持っていたイアンは、庶民であるが聖竜城直属の騎士となることができた。

 しかし戦いで片方の角が折れてしまい。竜に変化することができなくなったイアンは、聖竜騎士団をやめることになる。


(けれど、ヒロインと出会ってモンターユ騎士団に入ったはずよね……?)


 それがゲーム開始時点での設定のはずだが、ここにいるイアンは騎士とは思えないラフな格好をしている。手には食材がぎっしりと詰まったカゴをさげ、この町に住んでいるような雰囲気。

 ヒロインは彼を、助けなかったのだろうか。


「あの……。どなたでしょうか?」


 ひとまず知らないふりをしてみると、イアンは騎士らしくきびきびとした態度で、クローディアの前に片膝をついた。


「俺はイアンと申します。以前、聖竜騎士団の師団長をしておりましたので、筆頭聖女様を存じ上げております」

「師団長のイアンといえば、赤竜ですね」

「ご存知とは光栄です。筆頭聖女様」

「お会いできて嬉しいです。けれど、私はもう聖女ではないので、どうかお立ちくだい」


 クローディアがそう促すと、イアンは眉をひそめながらクローディアを仰ぎ見る。


「よろしければ、詳しく事情をお伺してもよろしいでしょうか」





 彼に勧められるままに、彼が店主をしているという食堂へとクローディアは案内された。

 店内は落ち着いた雰囲気で、壁にはオシャレな酒瓶が飾られている。食堂だと彼は教えてくれたが、お酒も提供するようなお店のようだ。今は営業時間ではないのか、お客は一人もいない。

 カウンター席を勧められクローディアが座っている間に、イアンは手早くジュースを用意して彼女の前へと置いた。


「この領地はブルーベリーがよく採れるんです。お口に合えばよろしいのですが」

「わぁ……! ありがとうございます」


 グラスに口を付けると、爽やかな酸味と甘さが口いっぱいに広がる。

 ジュースを飲むのは何年ぶりだろうか。クローディアは久しぶりの果物の甘さに、表情も甘く緩んだ。


「ブルーベリーは、甘酸っぱいのですね」


 クローディアがにこりとそう感想を述べると、イアンは驚いたように作業していた手を止める。


「初めてお飲みになりましたか?」

「はい。あっ……。ブルーベリージャムは食べたことがあるのですが……」


 もしかしたら子供の頃には飲んだことがあるかもしれないが、記憶がある限りでは初めての経験。

 世間知らずな発言をしてしまった気がしたクローディアは、恥ずかしくなりながらそう説明する。

 するとイアンは、「少々お待ちください」と言って、何かを作り始めた。


 厨房に備え付けられている扉から、食材を色々と取り出したイアンは、お皿にそれらを盛りつけていく。

 それが何なのかクローディアにはわからないが、とても美味しそうな見た目をしていた。


「こちらも試してみてください。プリンアラモードというデザートです」

「プリンアラモード?」

「今は埋まって見えませんが、中心部にプリンというデザートが乗っています。その周りを覆っている白いのが生クリーム。一番上に載っているのがチェリーで、こちらは木苺とぶどう。それから先ほどのジュースに使ったブルーベリーがこちらです」


 普段はこれほどてんこ盛りにはしないと笑いながら、イアンは丁寧に説明をしてくれる。

 先ほどのクローディアの発言で、聖女がどのような境遇に置かれているかを、イアンは瞬時に察したようだ。


「どうぞ、食べてみてください」


 そう促されたクローディアは、スプーンでブルーベリーと生クリームをすくって口へと運んだ。

 ジュースとはまた違うプリッとした果肉の食感と、中からあふれ出る甘酸っぱい果汁。

 そして、ふんわりと溶ける生クリームは懐かしさを感じた。


「美味しいです……」


 これを食べると、なぜか胸がいっぱいになる。

 イアンの優しさが詰まっているからだろうか。それとも、自由を手にした味だからだろうか。

 クローディアにはその両方に思えた。


 イアンに優しく見守られながら、プリンアラモードを完食したクローディア。

 心が満たされた感覚を味わいながら、彼が聞きたがっていたこれまでの経緯を話すことした。

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◆作者ページ◆

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