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10 聖竜城での動き1

 聖竜城にある王太子妃室にて、公爵令嬢ベアトリスは侍女達に囲まれながらベッドの上で卵を温めていた。


「お嬢様。卵のご様子はいかがでしょうか?」

「うるさいわね! 集中できないから出て行って!」


 しかし、卵を授かったばかりの幸せな娘とは思えないほど、ベアトリスはピリピリとしており、侍女に当たり散らしていた。


 それというのも、天から授かった時よりも卵の温度が低くなっている。その事実を、彼女は誰にも打ち明けられずにいた。

 これはきっと、(つがい)であるオリヴァーが近くにいないせいだと、昨日からずっと自分に言い聞かせている。


 そして、オリヴァーが一度も王太子妃室を訪れないことに対しても、いら立ちを抱えていた。

 卵さえ手に入ればオリヴァーの気持ちにも変化があるだろうと思い、ベアトリスは半ば無理やり、卵を授かる儀式に彼を引きずり出した。

 幸い卵は授かったので、彼もベアトリスを嫌ってはいないはず。それなのにオリヴァーは、卵を見にすらこないのだ。



 そこへ部屋の扉をノックする音が聞こえてきて、ベアトリスはついに彼が来たと期待の眼差しを向ける。

 しかし、部屋に入ってきたのは父であるモンターユ公爵だった。


「ベアトリス。様子はどうだね?」


 優しく尋ねる父の顔を目にして、ベアトリスは涙腺が緩みそうになる。それを隠すように、侍女達に部屋から出て行くよう怒鳴り散らしてから、父にすがりついた。


「……お父様! 昨日よりも卵が冷めている気がするの!」

「卵は一人で温めるものではない。王太子殿下と協力しなさい」

「オリヴァー殿下は、一度もお部屋に来てくれませんわ!」

「私からよくお伝えしておくから。根気強く卵を温めなさい」


 公爵はそう言って娘を慰めてから、部屋を出てため息をついた。

 あの卵は、ベアトリスのものではないかもしれない。公爵は初めから、その可能性について考えていた。


 かつて王家は、オリヴァーとクローディアを婚約させるつもりで動いていた。王太子妃候補として出遅れたことに、公爵は悔しさを感じていたのでよく覚えている。

 しかし、クローディアは聖女の力が発現したため、婚約話は白紙となった。その隙に公爵は、ベアトリスとの婚約を推し進めた。


 竜人族は生涯で一人しか愛さないが、まだ幼い子供ならばいくらでもチャンスはある。公爵はそう思っていたが、もしかしたらすでに手遅れだったのかもしれない。

 だが相手は筆頭聖女。もしそれが事実だとしても、聖職者との間に授かった卵だとは公にできるはずがない。

 どちらにせよオリヴァーは、ベアトリスと結婚するしかないのだ。


「結婚式の日取りを早く、会議にかけなければならないな」


 他の者達が疑念を持つ前に、先手を打たねば。公爵はそう思いながら会議場へと向かった。





 

 定例会議に出席するのは王族の男性達と、各家門の当主。そして神殿からの代表として、教皇とクリス枢機卿。いつもこの面々で会議がおこなわれている。


 辺りを見回して、クリスは出席者を確認した。王族席に座っている者達は皆、黒竜の仮面を付けている。この国では当たり前のことだが、改めて見ると異様な光景だとクリスは思った。


 この仮面が使用されるようになったのは、黒竜に変化できるものが王族の中で生まれにくくなってきてからだ。王族としての権威を守るために、使用され始めたのだと聞く。

 今現在で黒竜に変化できるのは、オリヴァー王太子のみ。

 今の王は国王と呼ばれているが、彼が即位した日には『竜王』と呼ばれることになる。



「昨日の儀式においてトラブルがあったと聞く。モンターユ公爵、詳しく説明してもらおうか」


 会議が始まり、まず初めに国王が議題に上げたのは、オリヴァーとベアトリスの儀式について。


 昨日のモンターユ公爵との話し合いは、結局まとまらずに終わっている。

 公爵はどう説明するのかと心配しながらクリスは見守ったが、案の定。報告書を読み上げるために立ち上がった公爵は、クローディアに全面的な責任があるかのような説明をおこなった。


 それに対して反論したい気持ちでいっぱいになるクリスだが、ここで下手な発言をしてしまえばまた疑いを掛けられてしまう。歯がゆい気持ちで、成り行きを見守った。


「竜神様にも、何かお考えがあったのだろう。筆頭聖女をあまり責めるな」


 しかし、国王の返答はクローディアを擁護するもの。

 クローディアに厳しい罰を与えてもらおうと思っていたモンターユ公爵は、じわりと汗が滲み焦りの色を見せた。

 かつて国王が、クローディアを可愛がっていたことも知っているので、余計に気持ちが焦る。


「しかし……」

「して、クリス枢機卿。筆頭聖女は今、どうしておる?」

「教皇聖下のご判断により、筆頭聖女様は聖女から除名され、追放されました。先ほど彼女の旅立ちを見送ったところでございます……」

「なんと愚かな……!」


 国王は仮面の上から、こめかみ辺りを押さえた。普段は表情が読み取れず、何を考えているのかよく解らないが、今は呆れているのだと誰の目からも見て取れた。


 それから国王は、公爵へと顔を向ける。仮面の下が怒りに満ちているであろうことは、想像に難くない。この場にいるほとんどの者が、同じ気持ちだったのだから。

 クローディアは国にとって、宝のような存在。その彼女を追放などあってはならないことだ。


「モンターユ公爵、そなたの差し金か!」

「決してそのようなことは! 聖下が勝手に……」


 公爵としても、クローディアの除名までは望んでいなかった。彼女がいなければ、国の安全が守られないことくらいは知っている。


 しかし、その言葉に意を唱えて立ち上がったのは教皇だった。


「公爵! ワシに責任を押し付けるおつもりですか! 聖女の力よりも、モンターユ騎士団のほうが優れているとおっしゃったのは、あなたでしょう!」

「それとこれとは、話が別だ!」


 普通の聖女一人ならば騎士団でも補えるだろうが、クローディアは特別な存在。教皇はなぜそんなことも解らないのかと、公爵は歯をギリギリと噛み合わせた。


「モンターユ公爵、教皇聖下。二人にはそれ相応の責任を取っていただくぞ」


 国王は二人に、厳しく対処してくれるようだ。

 これ以上クローディアには被害は及ばないと思ったクリスは、安堵のため息をつく。

 それから国王は、こう付け足した。


「クリス枢機卿。神殿側は任せたぞ」


 国王の言わんとすることは、クリスにはすぐに理解できた。クリス自身も同じ事をしようとしていたからだ。

 教皇は神殿のトップではあるが、それを任命するのも解任させることができるのも、五人いる枢機卿による多数決。

 今回は必ずや全会一致で、教皇の解任を要求することができるはずだ。


「お任せくださいませ。国王陛下」


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