ご協力感謝です
「こちらの大西氏は呪詛の返しが転嫁されているようですし、本人がまだ若くて体力があり呪詛を掛けた人間を探すのに協力してもいいと言って下さっているので丁度良いでしょう」
呪詛返しの依頼があったと言う依頼主のところへ向かうミニバンの中で、同行している退魔協会の調査員の人が教えてくれた。
どうやら退魔協会が呪詛返し転嫁の研究用被害者を見つけるのに3日も掛かったのは、呪詛に掛かったかもと解呪を依頼してきた顧客が3日間現れなかったからではなく、狙った通りの被害者を見つけるのに3日掛かったかららしい。
調査員が呪詛の返しが転嫁される設定になっているかまで確認してから、呪詛を掛けた相手とそれの返しを転嫁される様に仕掛けられた人間を探すのに協力する体力と気力があって身動きが取れるタイプの呪詛を受けた依頼主を選んでいたらしい。
そっかぁ、手当たり次第に依頼人の所に私を連れて行く訳じゃあないんだ。
ちょっと電話での話し合いの内容を誤解していたわ。
確かに、呪詛の元になった紙人形か何かでも送りつけられていたらそれを使って動き回って三角測量して相手を見つけられるんだけど、最近はそんな露骨な証拠になり得る物を送り付ける呪詛は滅多に無いらしい。
呪詛を掛けた形代を被害者に直接触らせて掛けるタイプの呪詛の方が少ないコストで強力な呪詛になるんだけど、それを元に呪師を探せちゃうからそう言うのが可能だと呪師の方が言わなくなくなったのではとの話だ。
遠隔式な呪詛の場合だったら被害者本人に付き合ってもらわないと確実に呪詛を掛けた人間（もしくは転嫁されちゃった人間）を見つけるのは厳しい。
ベッドが中に設置してあるミニバンなので移動するのでそれ程追加で辛くなる事はないと思うが、確かにヨボヨボの老人だったり下痢ピー状態な被害者だったりしたら連れ回して呪詛を掛けた人間を探すのは難しいよね。
今回の依頼主に掛けられたのは、少なくとも下痢とか嘔吐が伴うタイプの呪詛では無いらしい。
しっかし。このミニバンのベッドも中々良いなぁ。
まあ、ちょっと一人分にスペースを取りすぎてて私と碧と源之助で使うには向かないけど。
これって退魔協会の車なのかね？
それともこう言うのをレンタルできるんだろうか？
それはさておき。
呪詛を掛けてきた加害者って被害者に聞けば自分を呪いそうな人間を相手の所在地から推測できる事もある。だがその加害者が転嫁する相手を探すのは大変そうなので、今回は私、碧と退魔協会の調査員、依頼主及び依頼主の秘書が一緒にミニバンで動き回る事になっているらしい。
なんでも、最近の秘書と言うのは色々と情報を探すスキルも必須らしい。
そんな事を教わっている間にミニバンがどこぞの大きめな建物に辿り着いた。
億ションっぽい所だが、タワーマンションではなく高級住宅地っぽいところにあるゆったりとした低層マンションで、ベランダにもお洒落そうな植木鉢とかが置いてあって素敵だ。
よく見ると、ベランダの区切りがかなり少ない。
そこそこ大きな建物なのに、一フロア2世帯か3世帯しかないんじゃない？？
あれって部屋の広さはどのくらいなんだろ？
でも、素敵そうだけど・・・ある意味、低層で良いんだったら戸建てに住めば？と言う気もしないでも無い。
まあ、庭の手入れとかゴミ捨てとかを人任せに出来るのは良いんだろうけど。
使用人が欲しくなくて、家事も必要最低限以上はやりたく無く、停電になったら家に帰れないような高いところに住みたく無い人はこう言う低層マンションに住むのかな？
考えてみたらタワーマンションって駅近な商業地区にある事が多い気がするし、静かな環境にある億ションだとこう言う感じになるのかな？
どっかで聞いた話によるとマンションって12階を越えると火事になった場合なんかに消防の梯子車も届かないらしいしね。
梯子車が来るのを待つよりはベランダの梯子から自分で降りる方が無難だろうけど、どちらにせよあまり高いところに住むのって安全じゃ無い気はするよねぇ。
碧の虫除けが無い生活だったら蚊が飛んで来ない高層に住む方が良いと言う説もあるけど。
風で舞い上がったりエレベーターに紛れ込んだりで高層マンションでも蚊の被害に遭う事はあるあるらいしけど、多分3階とかよりは20階の方がベランダで水を撒いている時に蚊に刺される確率は低そうだ。
そんなどうでも良いことを考えていたらミニバンが車寄せのところに泊まり、丁度そのタイミングでガラス張りの扉が開いて中から40歳ぐらいの男性がゆっくりと歩いて出てきた。
おお〜。
確かに呪詛を掛けられるにしちゃあ若そう？
祐一氏と同じで跡取り系で一族の人間に呪われたのか、それとも起業家でバリバリに成功して誰かの嫉妬を買ったのか。
でも、嫉妬程度で呪詛なんぞ掛けるかな。
ライバル起業家なんかを呪う人も居るんかね？
