鼠ゴーレムと自衛
「やっぱり自我のある霊だったら、例え鼠でもひたすら猫に追いかけられる為に使い魔にするのは可哀想だよ」
シロちゃんを撫でていた碧がため息を吐いた。
「下手にシロちゃんの分体を疲れさせて消耗するのも良くないし、鼠の霊じゃあ直ぐに摩耗しそうではあるか。
じゃあ、擬似魂を作って鼠型ゴーレムにでもしてみる?」
本当の魂と違って擬似魂は比較的単純なプログラムっぽい物だ。拡張性が無く、定義した事しかしないから源之助が飽きるのは早いんじゃ無いかと思うが・・・動けばそれなりに注意を引いてくれると期待しておこう。
「え??
ゴーレムなんて造れるの?!」
碧が目を丸くしてこちらに向いた。
「単純作業とかだったら対価を払って魂と契約するよりも、決まった行動を定義したゴーレムの方が安上がりだったから。
式神だって似たような物でしょ?」
前世では、霊がすぐに浄化してしまったり変に歪んだりする場所もあった。
そう言う場所は人間にも害があることが多く、単純作業にはある程度の期間で更新するゴーレムを使うことが多かったのだ。
また、魂だと扱い方次第で制御に抜け道が生じやすかったので、絶対に情報漏洩したくない状況なんかではゴーレムか・・・隷属契約で雁字搦めに制約した人間が使われることが多かった。
そう言うゴーレムや隷属契約を作る人間はどうするかと言う問題もあり・・・今思えば、それも黒魔術師が隷属状態で実質自由意思の認められない奴隷扱いにされていた理由の一つだったのだろう。
黒魔術師は権力者にとって便利すぎたのだ。
・・・考えてみたら、いくら碧が良い人で信頼できるとは言え、碧が信頼してうっかり情報を共有した人間が裏切らないとは限らない。
白龍さまがいるからこそ、碧はどんな状況になっても信頼を裏切らないだけの力がある。
だが、普通の人間は権力や金の力で追い詰められ続ければいつかは折れるのだ。
神様の『祟り』と言う後ろ盾が無い人間には、必要以上に情報を与えない方が本人の為でもあるだろう。
そう考えると、碧にも自分の出来ることを全て知らせない方が無難だ。
もう大分情報を共有しているし、仕事や事業を進める上で更に教える事になるだろうが、便利すぎる能力はグレードダウンして知らせておこう。
それに考えてみたら、この世界にだって黒魔術の適性がある人間はいるのだ。
だとしたら、政府や退魔協会に金なり隷属契約なりで縛られて協力している黒魔術師が居てもおかしくは無い。
と言うか、人間が人間である限り、誰かが絶対に黒魔術を悪用しているだろう。変な術を掛けられないように自衛手段は講じておくべきだ。
一応ある程度の準備は覚醒した時にやってあるが、あれから多少は魔力が増えたし、符も造れるようになった。
もう一度、自衛手段に関して見直しておくべきだな。
碧と一緒にいる事で利用価値があると退魔協会とかの注意も引いているだろうし。
自衛について考えていたら、碧が苦笑しながら先程の私の言葉に応じた。
「『式神』って言っても使い魔の躯体としているの以外は使い捨てに近いからねぇ。
猫のオモチャに使うには勿体無いよ」
「技術の方向性が違うのかな?
まあ、要は充電式電池で動く鼠のオモチャを電池でなく魔力で動かす感じ?
それ程大した技術じゃあ無かったんだけどね。
ロボット猫や犬よりも小さくて単純な事しか出来ないし、どの程度の魔力を保持できるかは使う魔石モドキによるね。
考えてみたら、魔物の核とかが無いから2時間程度しか動かないかも?
・・・ボール型にしたらエネルギー消費を抑えられるかなぁ」
幸い、このマンションはフローリングでラグも敷いていないので、ボールが動き回る際の運動エネルギーはあまり無駄にならないだろう。
源之助が蹴ったらそのまま動けばいいんだから、源之助が飽きたり見失ったりしてボールの動きが止まった時に源之助の注意を引くような動きをするようにプログラムすれば良いだけだ。
源之助が眠くなってきたら動きを止めるようにしたいが・・・そこまでの判断機能を組み込むのは難しそうだ。
源之助が眠そうになってきたらシロちゃんかクルミが手動で止められるようにでもしておくかな?
もしくは、源之助が悪戯を止めようとしない時に動かす形にするか。
取り敢えずは効率よく動き回る鼠型ゴーレムを造って、運用に関しては試行錯誤で良いか。




