使い魔虐待?
「源之助〜!!
ただいま〜!!!」
スピード違反にも渋滞にも捕まる事なく無事に駅まで辿り着いてレンタカーを返し、予約した新幹線に乗った私たちは午後早くに帰宅できた。
そして碧はまたもは玄関を通った瞬間に荷物を投げ出して源之助のいる(と思われる)リビングへ突進。
そう言えば、昔の近所の知り合いは帰宅したら猫が入り口まで出迎えにきてくれるって言っていたけど、源之助はそんな様子はないなぁ。
独りぼっちで寂しい思いをさせないとダメなのかね?
それとももう少し大人になったら身につくスキルなのか。
まあ、少なくとも大声を出して駆け寄ってくる碧から逃げないだけ、碧に懐いているんだろう。
子猫に大声をあげて駆け寄ったら普通の人間が相手だったらほぼ確実に逃げてるよ?
そんな事になったら碧が物凄いショックを受けるだろうが。
ちなみに旅行好きだった知り合いによると、一泊二日ならまだしも一週間ぐらい旅行に行くと、忘れられるのかもしくは捨てられたと見切りをつけられるのか、帰宅後に対応が冷たいらしい。
まあ、碧だったら源之助と一週間も離れるような仕事は絶対に断るだろう。
旅行も自発的には行かないだろうし。
犬だったら一緒にペット可なペンションや旅館を見つけて温泉旅行に行くと言うのもありだったかもしれないが、猫はインドア引き篭もり派らしいからなぁ。
旅行に連れて行くのは無理だろう。
「ただいまシロちゃん、炎華。
留守番中は問題なかった?」
碧の鞄を彼女の部屋の入り口に置き、リビングへ行って留守番組に声を掛ける。
『源之助が元気すぎて、シロちゃんのエネルギー切れになりそうだったので私が大分と遊ぶ羽目になりました〜。
この調子だと、シロちゃんに使う核をもっと大きくしないと足りないかもですね〜』
炎華がのんびりと答えた。
流石に幻獣なだけあって、元気一杯な子猫の相手をしても疲れてはいないらしい。
とは言え。
シロちゃんに使った魔石モドキはかなり大きかったんだけどなぁ。
碧は家を出る前にガッツリ霊力を込めていたし、一晩ちょっとだったら余裕だと思ったんだが・・・源之助が成長してきて体力がついたせいで付き合うのが大変なようだ。
1歳から1歳半ぐらいになったら落ち着くらしいが、まだまだ先だなぁ。
「ありがとう炎華、シロちゃん。
凛、シロちゃんの核のグレードアップって出来る?」
源之助を抱き上げて鼻キスしながら碧が振り返った。
「う〜ん、補助動力源としてもう一つ良さげな魔石モドキを埋め込む?
じゃなきゃ、もっと小さな鼠かボールみたいな躯体にシロちゃんの分体なり鼠の霊を憑けるなりして、効率的に源之助の注意を引くのもありかも?」
シロちゃんは源之助の悪戯を止められるよう、それなりのサイズなので動かすのにもエネルギーを使う。
もっと小さな、チョロチョロ動き回って源之助の注意を引く鼠サイズの使い魔を造ればエネルギー効率が良くなるだろう。
ちょくちょく噛まれる事になるだろうから、頑丈そうなボールが良いかな?
じゃなきゃ下が転がってある程度自走する様になってる鼠型オモチャとか。
「遊び道具として自律的に動き回る小さな使い魔も良いかも知れないけど、猫に噛みつかれて襲われるために造る使い魔なんて、使い魔虐待じゃない?
鼠の霊なんかでやったらトラウマで直ぐに自我崩壊しちゃいそうな気がするけど・・・?」
微妙そうな顔で碧が言った。
使い魔虐待。
う〜む。
人の霊を捕まえて使い魔にして色々尊厳を損ねるような行為をする死霊使いの行為は虐待だと言われることもあったが・・・鼠の霊を猫の遊び相手として使い魔化する事が虐待かと言う話はあまり出てこなかったなぁ。
人間の霊を使うということは回り回って自分がその立場になるかもと思うのか、死霊使いによる人間の霊の使い魔化は規制すべきだと言う主張はそこそこあったが、鼠の霊を虐待すべきでは無いと主張する人間は居なかった。
人間が転生したら鼠に生まれ変わる可能性がある事を考えると、霊はどれも虐待すべきでは無いと思うんだけどね。
そう考えると、鼠の霊を猫に襲い掛からせる為に使い魔化するのも可哀想か。
「じゃあ、シロちゃんの分体をボール型の躯体に憑ける?
シロちゃんだったら分体が噛みつかれてもそれほど精神的にショックでは無い・・・よね?
それともやっぱりちょっと辛い?」
元は犬なのだ。大らかに遊んでやっているという気分になれると思うのだが。
それとも分体でも噛みつかれまくると微妙な気分になるのだろうか?
『効率よく源之助をあやせるなら、いくら噛まれても構わんよ』
シロちゃんがおっとりと答えた。
「そう?
じゃあ、取り敢えず分体を作ってみるけど、辛かったら言ってね?」
碧がシロちゃんを撫でながら言う。
使い魔って躯体を撫でられると気持ちが良いのかね?
良いのだとしたら噛みつかれるのも不快かも知れないから、シロちゃんが平気だと言っても虐待になるかもだなぁ。
よく注意しておこう。