警報装置?
「なんか、どっかの映画プロダクション会社か監督にファンタジーの実写撮影をしませんかって売り込みたくなるような風景だね」
熊手と塵取りが勝手に動いて刈り取られた草を箱に適当に集めていくのを見ながら碧が言った。
ぎっしり詰め込まれたら乾燥しにくくなるのでふわっと集める程度でいいと言ってあるせいか、碧が10メートルおきぐらいに置いた段ボールに草が大雑把に積み上がって小山になっていく。
後で適当に溢れた分を回収すれば良いだろう。
少なくとも地面から刈る手間は省けた上に、かなり良い感じに纏めてもらえたので作業量は大分と減った。
魔力は多めに渡したけど、どうせ諏訪に遊びに来ている間は退魔関連の仕事をする気は無いから魔力がすっからかんになっても構わないし。
腰痛と筋肉痛の襲来が確実な作業を自分でするより、ずっと良い。
「昔だったら実写版の撮影費節約って事で売り込めたかもだけど、今じゃあCGで手軽に出来そうだから大したお金にならないんじゃ無い?」
聖域じゃ無いと魔力的に厳しいから、どちらにせよ撮影の背景を修正する必要があるので結局はCGの世話になるだろうし。
流石に聖域を大々的に改造して映画のロケに使えるような感じに変えるのは白龍さまが嫌がるだろう。
費用的にも馬鹿にならないだろうし。
それに何と言っても車道が直通していないのだ。
最寄りの駐車場からここまで道具を人力で持ち込むだけでも大変だろう。
映画の撮影ってなんかこうぎゅい〜んと動く映画監督用の椅子も設置する必要がありそうだし。
野原で戦ってばっかりな時代劇みたのだったら聖域をそのまま使えるだろうが、それにファンタジーな実写は必要ない。
「今じゃあ生成AIで政治家のフェイク動画とかも作れるらしいし、言われてみれば食器や箒や熊手を動かす程度の実写版映像も簡単に作れそうだね。
それに考えてみたら、凛が使い魔の霊を使って物を動かせるってあまり知られない方が無難だろうし、駄目かぁ」
碧が肩を竦めながら言った。
昔からの旧家の式神は物理的に物を動かすのにはあまり向いていないらしいからねぇ。
私の使い魔が色々と使い勝手が良いって知れ渡るのはあまり良い事だとは思えない。
まあ、聖域内だったら他の退魔師の式神も色々と活動出来そうだけど。
でも聖域の場所をあまりオープンにしない方が無難だよね。
白龍さまが居れば侵入者なんてあっさり撃退できるだろうが、いつも碧と一緒に東京にいる白龍さまが侵入者がいる度にこっちへ来て撃退するのは面倒だろう。
碧の護身が疎かになりかねないし。
「・・・ちなみにこの使い魔達って納得して作業してくれてるの?
それとも魔力で縛って働かせてるの?」
笑いながら熊手と塵取りのコミカルな動き(と失敗)を見ていた碧がふと尋ねてきた。
「ちょっとした目新しいアクティビティって事で今は楽しんでるよ?
霊になったらそよ風以上の強度で物を動かすのは至難の業だから、塵取りと熊手を動かすのも目新しいみたいね。
ついでに支払いに魔力を渡すからそれはそれで後で色々遊ぶのに使えるだろうし」
一応、人里やハイキングしている人の側では使わないように制約は科すつもりだけど。
森や山の中でしか使えないにしても、それなりに楽しく遊べる筈だ。
魔力で無理やり縛って働かせる事も可能だが、元奴隷モドキだった身としては他者に隷属を強いたくないし、動物程度の霊に無理強いをすると魂の劣化が早くなるしね。
「良い感じに作業してくれているみたいだし、そろそろ私らは美帆ちゃんの温泉に行こうか?」
碧が提案してきた。
「だね。
汗でかなりベタベタした感じになったし、腰が凝ったわ〜」
屈まないで済む筈な取っ手の長い草刈り機なんだけど、やっぱ何故か腕や肩だけでなく腰も凝るんだよねぇ。
使い方が悪いのかね?
「そう言えばさ、シロちゃんみたいに赤ちゃんをあやしたり見守る使い魔って作れないかなぁ?
もうそろそろ樹ちゃんが動き始める頃でしょ?」
碧が聞いてきた。
「いや、流石にそんなに機能のいい使い魔なんぞ作ったらそれこそバレたら大騒ぎになるんじゃない??
魔力の補填も必要だし。
せいぜい、あの霊泉がある部屋の桶か何かにちょっと霊を憑けて、誰かが溺れ死にそうになったら倒れて音を立てさせるぐらいの事ぐらいしか出来ないよ」
霊泉の所はちょっと魔素が濃いので、数ヶ月に一度私らが温泉に入りに来るときに補填する程度で保つ・・・かも知れない。
まあ、あそこで桶が倒れたり転がって何かにぶつかったところで、ちゃんと誰かの耳に入って様子を見に来るかは五分五分な気がするが。
「う〜ん、浴場に防犯カメラを設置するのは問題だろうけど、一番危ないところなんだから警報を発せられるシステムは欲しいよねぇ。
ちょっと試してみてくれる?」
碧が言った。
樹くんが勝手に温泉に入りに行くのはまだまだ先だと思うが・・・ハイハイしてうっかり侵入した場合の事を心配しているのかね?
猫が扉を開けるって話は時折聞くが、流石に湯場への扉はハイハイしている赤ちゃんに開けられないと思うけど。
まあ、社員さんの誰かが死んじゃっても後味悪いし、一応何か出来ないか、試してみるか。




