流石!
「辛い・・・。
なんかこう、使い魔の霊を草刈り機とか鎌とかに取り憑かせて自動で草刈りをさせられないの?
聖域なら魔力が沢山あるから前世の魔術や魔道具が同じ様に使えるんでしょ?」
草刈り機を地面に置き、腰を伸ばした碧がペットボトルを手に取りながら聞いてきた。
「流石に電動草刈り機をそこら辺の動物霊に操作させるのは危険かなぁ。
ここでずっと見張っているならワンチャン可能かもだけど。
それに重い物を動かすのって実体がある系の使い魔の方が向いているんだよねぇ」
人間サイズのマネキンでもあればそれに霊を取り憑けて、良さげな感じに魔力の溜まった骨か石を魔石がわりに動力源として草刈り機を動かさせるのも可能かもだけど・・・マネキンをどこで入手すれば良いのか、想像もつかない。
鳥や猫みたいな動物だと二足歩行のマネキンの動かし方に慣れるのにも時間が掛かるし、人間の死霊は流石に使い魔にして扱き使い難い。
電動草刈り機に霊を直接取り憑かせるのはちょっと厳しいし。
電気と霊って必ずしも相性が良くないからか、変な誤作動を起こす事がありそう。
草刈り機が誤作動を起こして故障するだけならまだしも、霊の方が誤作動して生きた存在をなんでも切り刻もう!なんて動き始めたらヤバい。
聖域の側にあまり人は居ないけど、一族の誰かがちょっと散歩で歩いている可能性はあるし、周囲の森の動物を惨殺しちゃったらそれはそれで可哀想だし。
「じゃあ、白龍さまにウィンドカッターみたいなのでスパパーン!と草を切ってもらって、それを集めるのを熊手と塵取りに取り憑いてやって貰うって言うのは?」
碧が提案した。
え。
「白龍さまに草刈りを頼むの??」
一応碧の一族が代々祀ってきた神様なんでしょ?
「ちょくちょく過去にもやって貰ったし。
最初はうっかり崖まで切り崩しちゃって慌てて貼り戻した事もあるだけど、中学生になる頃は上手に草刈り出来るようになったんだよ」
碧がニッカリ笑いながら言った。
マジっすか。
崖を貼り戻すって何??
龍がスパンと切ったのを元に戻すと『貼り戻す』になるの?
その後も地震とかがあっても崖が崩れていないとしたら、『切って貼り戻した』のでもしっかりくっつくんだね。
それこそ関東・・・とまで言わなくても諏訪とかウチらの住んでいる範囲の周辺半径10キロぐらいの活断層を全部貼りつけちゃって、直下型地震だけでも起きないようにしてくんないかな?
・・・活断層って無理矢理ずれないようにしたらどんな弊害があるのか、知らないからヤバいかもだが。
『碧が走り回るのに雑草が邪魔だし虫が嫌じゃと文句を言っていたからの。
聖域内の虫を全部殺すよりはまだ穏やかじゃろ?
最近は頑張って機械を使って刈っているから何か拘りがあるのかと思っておったが、以前のようにスパンと草を刈って欲しいのかの?』
白龍さまがふわりと姿を表して苦笑じみた念話で碧に尋ねた。
ふむ。
「白龍さまが草刈りに駆り出されても構わないなら、頼むのもありかも。
スパーンと2メートル幅ぐらいで端から端まで刈って貰って、木製の熊手に動物霊を憑けて切られた草を幾つか出しておく箱に集めるよう頼んだら、かなりの労力節約になるかも?
やってみないと確証はないけど」
「良いですか?!」
碧が目を輝かせて白龍さまに尋ねる。
と言うか、今散々苦労して草を刈っているんだから、集めるのを手作業でやるにしても切る部分を白龍さまにやって貰えば大分と手間が省けるじゃん。
なんで最初から頼まなかったんだろ?
やっぱ大人になってきて、碧も氏神さまに草刈りを頼むのは不味いと思ったんかね?
子供だったら氏神さまだろうが身近な存在に助けを求めるのを躊躇しないのに、大人の常識を学んでくるとそんなお願い事を言い出しにくくなるのかも。
『構わんぞ。
2メートル幅で良いのか?
聖域全部を丸刈りにする事も出来るぞ?』
白龍さまが提案する。
「いえ、何か上手くいかなかった際に草がないと困るので、取り敢えず2メートル幅でお願いします。
毎日2メートルずつで1週間やれば十分素材が集まりますから」
と言うか、それ以上あっても草を干すのに使っているスペースに入り切らない。
一応半日天日干しした後は奥の洞窟に入れてゆっくり乾燥させていくのだが、洞窟のサイズはそんなに大きくないし・・・段ボール箱もそこまで無いだろう。
聖域全部の草を使うほどポーションなりお守りなりを作る気は無いし。
『分かった。
では行くぞ?』
そう言ったと思ったらふわっと風が流れ・・・私と碧が草刈りをしていた範囲の先が、崖まで綺麗に2メートルぐらいスパッと草が切れていた。
うわぁ。
突風すら感じなかったんだけど。
龍の風って怖いねぇ。
鎌鼬ってピュッと風が吹いて切れるのかと思っていたし、前世で知り合いが使っていたウィンドカッターはそれなりに余波で風が生じた。
完全に空気をコントロール出来ているとそう言う余剰エネルギーの無駄も起きないのかな?
さて。
碧が箱を出している間に、私は森でちょっと手伝ってくれる動物霊を探そうか。




