バリアゲートは便利
藤山家では、玄関に入ってすぐのリビングへ行く側の廊下にででんと天井まで続く猫用ゲートが設置されていた。
うぇぇ?!
源之助の為に設置したの??
それとも碧の実家もペットを飼うことにしたのだろうか。
「いらっしゃ〜い!
源之助ちゃんがいつ遊びに来ても良いように、猫用ゲートを家の中に設置したから、部屋に閉じ込めなくても大丈夫になったのよ〜!」
そっとキャリーケースの中の源之助に微笑みかけながら、我々を出迎えてくれた碧ママが教えてくれた。
おおう。
猫ってあまり旅行が好きって訳じゃあないから、そうそう連れてくる予定は無かったんだが。
やっぱ娘が猫を理由にあまり帰って来ないと寂しいのかね?
・・・もっと私も実家へ顔を出すべき??
源之助は比較的図太いし、大雑把とは言えクルミ経由で意思疎通が出来るお陰でドライブも極端にはストレスじゃ無いみたいだから、取り敢えずこれからはもっと同伴できるかもだね。
数ヶ月に一度は聖域の雑草を刈りに来るんだから、その際に無理して一泊2日にせず、これなら源之助を連れてもうちょっと長めでのんびりとした訪問に出来そうだ。
実家に関しては・・・今度それとなく聞いてみるか。
親が寂しいからってそれに絶対に付き合わなきゃいけないとは思わないが、学費も生活費も出してもらっているのだ。
少しは親の希望に沿うよう心掛けても良いだろう。
「玄関と裏口と台所近辺を隔離したんだ?
確かにこれで人が出入りしても源之助が迷い出ちゃわなそうだね?
ついでに、勝手に家の中のプライベートな部分に入ってくる人が減りそう」
碧が1階を見てまわりながら言った。
「そうなのよ!
年寄りだけじゃなくて若い人でも、ウチだったらプライバシーなんて無視して良いと思っているのか『ちょっと調味料を借りに来た』とか言う人でも平気でリビングとかダイニングに出てくるから家の中を常に客が来れる状態にしておかなきゃいけないし、うっかりリラックスも出来ないしだったんだけど、バリアゲートがあると意外とそれを開けて入って来ようとしないの!
凄く良いわ〜」
ニコニコしながら碧ママがいった。
あ〜。
氏子さん達と色々地域の行事なんかで炊き出しチックな事をする際に、そう言うのは社務所の方の設備を使っているが足りない物とかがあると母屋の方に借りに来るって話を以前聞いたが、その際にズカズカと家の中にも入られるんだよね〜とも碧が昔苦笑しながら言っていたね。
バリアゲートでプライベートスペースを区切っておくと、そう言う図々しい連中もプライベートな部分へ入って来にくくなるのか。
碧ママも神社の宮司の妻としてしょうがないと我慢していたようだが、やはり嫌だったんだね。
田舎の人なんかだったら家に鍵を掛けないぐらいプライバシー意識がないって聞いた事があるけど、それは昔の話だし諏訪はそこまで田舎じゃないのかな?
お洒落で切れ者な碧ママが田舎出身じゃない可能性も高そうだし。
・・・田舎出身だと野暮ったいとは限らないけど。
「1週間、お世話になります。
こちらは近所のお菓子屋さんで売っている菓子です。美味しかったので、どうぞ良かったら食べてみて下さい」
こう言う時って『つまらない物ですが』って言うのが日本の伝統的な言い回しなんだと思うけど、何分覚醒前はそんな礼儀正しくお土産を持って行くような付き合いは無く(と言うか、基本的に母親がお土産を渡していた)、覚醒後は前世では『つまらない物』を貴族とかに渡したら侮辱するのか?!って事で大問題に発展しかねなかった社会だったので、イマイチ折角お金を払って買って来たお土産を『つまらない物』って自分で言うのは嫌なんだよね。
「あらありがとう。
後でお茶を入れるから、皆で一緒に食べましょう。
今回は上の客間を掃除してお布団を敷いておいたから、そちらを使って頂戴?
碧の部屋に一緒に寝るのも一晩や二晩ならまだしも、1週間もはちょっと疲れるでしょう」
碧ママがお土産を受け取りながら言ってくれた。
お?
この家って大きいからスペアな部屋が上にもあるのは知っていたけど、前回までは態々そこを使わずに碧の部屋に寝てたんだよね。
最初の方は源之助がうっかり迷子にならないように部屋に閉じ込めたし。
源之助が家中を自由に動き回れるなら、無理に碧の部屋に寝なくても良いか。
「ありがとうございます。
じゃあ、上に荷物を置いて来ますね」
源之助も最初は碧の部屋にいつものトイレやベッドと一緒に連れ込んで、落ち着いてから家の探検をさせれば良いだろうし。
見た目は自律的に動き回るぬいぐるみなシロちゃんは連れて来てないので、代わりに源之助の首輪にピンバッジ型クルミを引っ付けてある。
一応家全体を炎華に見張るよう車を降りる際に碧が頼んでいたし、なんかの弾みに源之助が逃げ出しちゃっても何とかなるだろう。
・・・炎華か白龍さまに聖域を涼しくしてもらうのって可能かなぁ?
マンションの部屋だったらいつも炎華が良い感じな温度にキープしてくれるんだけど、やっぱ聖域サイズだと無理かね?
真昼間はまだしも、夕方になったら山の上の方からでも涼しい風を吹かせてもらうとか、熱を地面から吸収して貰うとか、頼めたら良いんだけど・・・。




