平凡は痛いかも
「こちらにある35番、41番、あちらの4番、あと28番が重度の穢れもしくは悪霊憑きです。
一番酷かった3番は既に祓いました。
もしかしたら多少の穢れが憑いている作品が他にもあるかも知れませんが、それらも清める前に確定する必要がありますか?」
一番ヘビーに瘴気を出していた掛け軸を浄化して少しマシになった部屋を歩き回り、残りの絵画を一通り確認した私達は職員に声を掛けた。
さっきの角付き鬼影が浮かんでいた掛け軸はまだしも、他のはそれ程凄くはないから碧が一気に部屋を清めちゃう方が個々にやるより楽なんだけどなぁ。
恐る恐る部屋に入ってきた職員は、3番を見て深い溜め息を吐いて首を横に振った。
「圧倒的に存在感が変わりましたね・・・。
こう言った感じに違いが出るのでしたら、どれが浄化されたのか記録が無いとこれらを展示した際に元の絵を知っている人が『偽物とすり替えられたのかも』と言い出す可能性があるので、個別の確認が必要なんです」
なるほど。
存在感、ねぇ。
確かに美術品って線や色が綺麗とか動きがあるとかも重要そうだが、『何が良いのか分からないけど存在感がある』のも価値のある作品って見做す判断基準なのかも。
それこそ、私はピカソの絵なんぞ見ても何が良いのか全然分からないけど、確かにあれらもなんか目を惹く存在感はあると思う。
それが天才による美術の何かなのか、悪霊が憑いている事への無意識な警戒感なのかは物によるんだろうけど、作品の評価にその『目を惹く何か』が含まれるなら、それが無くなった場合の理由をちゃんと美術館側としては把握しておく必要はあるか。
なんだって浄化した作品を個別に知らせてくれと言われるのかと思ったけど、健康被害が出ない程度だったらマジで悪霊憑きのほうが市場価値は高いかもなんだねぇ。
「では、これら4点を別の部屋に持って行ってサクッと清めちゃって良いですか?
ここでやると他のも浄化しちゃいそうなんで」
碧が肩を竦めて代替案を挙げた。
まあ、全部私が一枚ずつ浄化しても良いんだけど、さっきの鬼影付きの浄化でだいぶ疲れた。
4枚もやったらそれ以上はちょっと厳しいかもだから、4枚まとめて碧にやって貰う方が無難だろう。
「分かりました。
では、今部屋を探しますので少々お待ちください」
職員が言って内線で誰かと話し始めた。
碧が見つかった4枚を別室で清めている間に私がこの部屋をもう一度見て回るって訳にはいかないかなぁ?
まあ、考えてみたら高額な美術品を外から呼んだ専門家とは言え見張りなしに一緒に野放しにする訳にはいかないか。
掛け軸なんかは巻いたら小さくなるんだから、こっそり持ってきた贋作とすり替えられる可能性があるもんね。
しかもすり替えた後に『これも悪霊憑きだったので祓っておきました』って言われたら絵に違和感を覚えてもそのせいかもってなるだろうし。
防犯カメラは多分どっかにあると思うが、死角が絶対にないとは思えないから用心は必要だよねぇ。
しょうがない。
案内された『別室』は保管場所の隣だった。
これって清めの祝詞が漏れてたら隣室の穢れを浄化しちゃうかもだなぁ。
「部屋に結界を張るね」
「うん、お願い」
碧が頷く。
結界を張り、碧が清めの祝詞をちゃちゃっと唱えたらあっという間に4枚の作品は綺麗になった。
・・・確かに存在感が薄れた感じだね〜。
穢れが染み込んでいただけのは薄汚れたのが綺麗になって陰が無くなった感じだけど、悪霊が憑いてたのは明らかに前よりも軽い感じになって、平凡な印象になった。
うっわぁ〜。
これって下手をしたら絵画に憑いた悪霊は祓わずに健康被害だけ何とかしてくれって言う依頼人がそのうち出てくるんじゃない??
美術館なんかだったらそう言う無茶を言ってきそうな気がする。
いや、でも美術館って貧乏なところが多いとも聞くから、悪霊を祓わないで健康被害を起こす穢れだけを一時的に祓うんじゃあ何度も退魔師に依頼を出す事になるから、高く付きますよ〜って言ったら諦めるかな?
まあ、お金になるんだったら依頼を繰り返してこられても嫌って訳じゃないし、美術館からの依頼だったら展示品をその度に見せてもらえるとしたらある意味お得かも?
そう考えると、無茶な依頼もちゃんとどうなるかを理解してクレームを付けないと契約するんだったらありかな。




