真相は?
「結局、太田さんと絵里さんの関係って何だったんだろうね?」
病院から出て、家へ帰るルートを携帯で検索して駅に向かいながら碧が呟いた。
「一応義理の兄妹関係以上ではないんだけど、絵里さんは太田氏の好みにかなり一致しているから母親から世話を頼まれた時に平常以上に親切だったみたいね」
記憶の中から視えた2人の関係を思い出しながら応じる。
「好み?」
微妙そうな顔で碧が聞き返す。
「手を出す気は無いし、本人的には意識してないみたいだったけど。
美人だから親切にするのは男性のよくある行動パターンでしょ?」
一口で美人と言っても、好みじゃ無い美人って言うのは却って一歩離れる反応も多いが、好みなタイプの美人だったら手を出そうと言う下心がなくても親切になるのが人間の男性の本能な気がする。
まあ、人によっては好みなタイプだと態と意地悪するガキなのもいるが。
「ふうん、じゃあ奥さんの勘も完全に見当違いって訳でも無かったのね」
碧が指摘した。
「とは言っても、好みの女性を目で追う程度の反応で殺され掛けちゃあ人類が死に絶えちゃうよ」
基本的に男の目は理性よりも本能に従うからねぇ。
一応親戚であるという言い訳も出来る相手に、ちょっと親身になる程度に目くじらを立てられても困るだろう。
「結局、本当に太田さんって不倫してなかったの?」
碧が好奇心を感じたのか重ねて聞いて来た。
「彼ってちょっと潔癖症の気があるみたいで、あまり人に触れるのも好きじゃ無いみたい?
だから精神的な意味でのよそ見は時折していたけど、肉体的には結婚してから一度もヤってはいないっぽいね」
男って機会があれば確実に据え膳は食う生き物だと思っていたから、私的にもちょっと意外だった。
あの奥さんとの結婚生活のせいでそうなったのか、元々の傾向なのかは知らんけど。
まあ、企業のトップともなればハニトラも良くありそうだから、常に用心は必要だしね〜。
しっかし、肉体的に関係を持っていなかったんだから太田氏に絵里さんの髪の毛とか付いていたって事もなかっただろうに。そうなると、奥さんはどうやって呪詛用の髪の毛(切った爪でも良いけど)を入手したんだろうね。
どこかグレーな興信所でも雇って盗ませたのかな?
『髪の毛を盗んでこい』なんて明らかに呪詛用なんだから、プロの業者として商売している興信所なんかには『まさか』ディフェンスは認めず、傷害罪の共犯として罰するべきじゃないかね?
と言うか、髪の毛を取ってこいって依頼を出された時点で『呪詛は違法行為ですよ』って知らせる注意義務でも法律で負わせれば良いのに。
まあ、法律を作る連中自体に呪詛を活用したい人間も多いだろうから、『まさか』ディフェンスを無効化する様な法律は絶対に作らないか。
「う〜ん、肉体的にヤってなくても精神的に妻の自分よりも他の女を優先したらそれって不倫と言うか、ちょっとした裏切りじゃ無い?」
碧が指摘した。
「優先の度合いにもよるけど、場合によってがそうかも。
とは言え、太田氏の優先順位って会社>>>息子>妻って感じだったから妻にとっての一番のライバルは会社だけどね。
妻の方もお金や『社長夫人である自分』が好きだったからそっちの『不倫相手』に関しては文句を言わなかったみたいだけど、内心では自分に対する優先順位に関して不満があったんかも?」
夫婦の関係に関してはそこまで深く読んでいないから、妻の心理的変遷に関しては知らないけどさ。
「どうせ奥さんの方だって優先順位は『自分』が断トツトップだったんでしょ?
お互い、配偶者に対する優先度が低い時点でお似合いだったのかもね」
碧が肩を竦めつつ言った。
「そうだね〜」
絵里さんにとってはいい迷惑だったんだろうけど。
「まあ、世の中自分の希望した進路に進める人ってそれなりに限られているっぽいんだから、その対価が暫くの間の体調不良だと思えば、極端に不公平って訳でも無いんじゃない?」
碧が指摘した。
「何か微妙に絵里さんに対して冷たくない?」
気のせい?
「・・・ああ言う地味っぽいけどよく見たら美人な人って意外と自分の顔を上手く使って世間を渡り歩いていると思うんだよねぇ。
まあ、単に私の知り合いの印象を勝手に重ねちゃってるだけで、絵里さんは全然そう言う人間じゃあ無いかもだけど」
碧がちょっと考えてから言った。
おや。
派手な美人でその美貌を上手く使って欲しいものを手に入れて来た人間って言うのはよく見る。前世の方が露骨だったけど、今世でも可愛い子はそれなりに得をしているし。
だが『よく見たら美人』系な美人で、自分を上手に見せて周囲の好意をそれとなく利用しているのも確かにいるよね。
絵里さんも・・・考えてみたら人の好意は断らずに利用するタイプだった気がする。
まあ、それが呪われる程の悪い事じゃあないんで、とばっちりを喰らったのは可哀想だけど。
ちゃんと太田氏が救助に駆けつけたんだから、無問題ってところだね。




