報告と追跡要請
「今回受けた依頼の呪詛返しを行ったところ、依頼人の離婚係争中な妻が狂化の呪詛の依頼人であると確定しました。
他人への暴力衝動を生み出す危険な呪詛ですので、可能ならば呪師を追跡して対処して下さい」
田端氏に電話して、今回の呪詛の話を伝える。
基本的に呪詛は返してしまうとどこから呪詛を掛けられたのかの痕跡が被害者側からは消えてしまう為、呪詛を掛けた人間を見つけたいならば呪詛返しを待たなければならない上、その追跡依頼分の追加報酬を呪詛返しとは別に退魔協会に払う必要がある。
しかもそこまで手間と金を掛けても、呪詛の依頼が初回だったら『まさか気休め以上の効果があると思わなかった』ディフェンスで呪詛の依頼主は法的には罰せられない事が多い。
呪詛が活きている間なら時間をかければ呪師まで辿れる事も多いものの、呪詛返しの相手が呪師なのではなく、呪詛の依頼主が呪詛を掛けるのを呪師がサポートする形だった場合だと呪師まで辿るのはかなり難しい。
因果の繋がりがかなり薄いので、呪師がそれなりに隠す処理をしていたら辿れない事の方が多いのだ。
今回みたいに呪詛返しの転嫁まで組み込まれた呪詛だったら呪師が直接掛けている事も多いんだけどねぇ。
どうやら最近の呪師や仲介人の大量逮捕で呪師も用心深くなっているらしい。
もしくはライバルが減って呪師が自分の好きな条件を依頼主へ押し付けられる状況になったのか。
お陰で呪詛の依頼主から呪師へ辿れる痕跡は多分捨て垢であろう連絡先しかないとは思うが・・・まあ、警察が何か見つけられる可能性もゼロでは無いので、一応田端氏に連絡したのだ。
『太田氏の呪詛返しですか。
・・・この依頼は呪詛の依頼主を探す契約ではありませんでしたが?』
何やらデータを確認した田端氏が、通話アプリの画面の中でちょっと首を傾げながら聞き返してくる。
「呪詛返しの前に大雑把な方向だけ知らせて、心当たりがあるかと聞いたら離婚係争中の妻かも、と言う話になりまして。
狂化の呪詛は呪詛返しをされた人間が周囲の人間へ襲いかかる可能性が高い危険な呪詛なので、周囲の人間の安全確保が出来るならばした方がいいと思って聞いたんですよ。心当たりががあるとの事なので一応安全の為にその奥様の元へ弁護士と護衛を送り込んだ上で返したら、見事に当たりでした」
普通に苦しむだけの呪詛だったら返してそれで終わりにしたんだけどねぇ。
狂化の呪詛なんて、もしも返された相手が車を運転していたりしたら歩道を歩いている子供を車で薙ぎ倒す様な無差別殺人をする可能性とかもあるから、一応出来る事はしたかったんだよね。
まあ、狂化していたらまともに車の運転なんて出来ない可能性も高いから、偶然車を運転していて、視界内に人間を見掛けたんじゃない限り車を使った無差別殺人をするのは難しかっただろうとは思うけど。
最近では高齢者の暴走車とか、ブラックな労働環境で睡眠不足なトラック運転手の居眠り運転とか、色々と怖い車の事故の話が多いからねぇ。
そう言うのは出来る限り減らせる方が良い。
そうじゃなくても気の狂った様な女性が街中で手当たり次第に人に襲いかかるって言うのも嫌だし。
それが迂闊な退魔師のせいだなんて悪評が流れても困る。
ある意味、退魔師や呪詛の存在があまり信じられていない現代日本だから呪詛返しで惨事が起きても悪評が立ちにくいのは有難いっちゃあ有難いが、カルマ値的には防げる悲劇は防ぐべきだろう。
『分かりました。
呪師の方がトカゲの尻尾切りをする前に何か掴めないか、至急捜査しましょう』
田端氏が頷き、太田氏の奥さんの実家の住所を聞いて通話を切った。
「何か見つかると思う?」
碧が聞いた。
「まあ、無理じゃ無い?
離婚でこんな呪詛を使うような女なんて、リピート客になるかもだけどやり過ぎて失敗する可能性も高そうだから、絶対に自分に辿れないように捨て垢を2つぐらい間に置いてるんじゃないかね」
やっぱ安心な客はもっと私情を挟まないビジネスな客だろう。
まあ、ビジネスで呪詛を使うような事業家もどうかとは思うけど。
前世では呪詛って弱者の報復か、裏社会のビジネス武器って感じだったけど、現代日本では金持ちの私情に基づく逆恨みちっくなのが多い感じだねぇ。
外国だとどうなんだろ?




