それぞれの嗜好
「やっぱ、バイクは止めよう。
バイク持ちな兄貴に聞いた所、夏は直射日光に灼かれて暑いし、冬は寒い上に山道とかは凍結して滑りやすくなったりするからかなり危険らしいし。
新幹線とか特急で行けるとこまで適当に移動して、レンタカーでそこから行く様にすればバイクで高速を飛ばすのと同じかそれより速いぐらいに移動できるんじゃない?」
兄貴との通話が終わった後、リビングに戻って碧に言った。
「あ〜。
確かに路面の凍結は二輪のバイクだと危険か。
電車とレンタカーの乗り継ぎとかの効率的なルート検索方法を探究しなくちゃだねぇ」
碧が溜め息を吐きつつ言った。
どうやらバイクは諦めてくれたらしい。
どちらにせよ、考えてみたら電車だったら新幹線なりに乗ってから1時間か2時間はのんびり出来るのに、バイクだったらしっかりその間も車体にしがみついていなきゃいけないんだから疲れるよね〜。
運動になるかもだけど、碧がいればダイエットはそこまで頑張らなくって良いんだし。
何よりも、交通事故で死ぬリスクは下げておきたい。
老後のヨボヨボになって呆ける間際だったら他の人を巻き込まずに交通事故で死ぬのも手っ取り早くて良い手だと思うけど、今の段階では早すぎるからね〜。
と言うか、死んでも惜しく無い老後に誰も巻き込まずに事故死するにしても、車の撤去とかの費用が掛かって自治体には良い迷惑かもだけど。
交通事故の車両撤去代とか、ガードレールの修理代とかって誰が出すんだろ?
事故を起こした人間が払うべきと言う気もするが、そうじゃない場合は税金を使って自治体が負担する事になるとしたらちょっと申し訳ない。
やっぱ自殺を考えるなら冬の公園かどっかのベンチで凍死が一番良いかと思うんだけど、発見者が子供にならない様に場所は選ばなきゃね。
家で下手に死ぬと死体の発見までに部屋が臭くなったり事故物件の悪評が立ったりで問題が起きそうだから、やっぱ適度に人目があるところが好ましい。
海とかへの飛び降り自殺は下手に水死体が海から上がったら発見者にはトラウマ物だろうし、死亡が確定するまで家やその他の資産を処分できなくてマンションの管理組合や自治体に迷惑が掛かるかもだし。
マジで高齢者がボケるとか不治の病になった時に、自分で好きな時期に人生を終わらせる選択肢を選べる世界になって欲しい。
日本じゃあそもそも尊厳死は法的に認められた権利じゃ無いし、海外でだって苦しくて痛みがある不治の病とかじゃなきゃ駄目って話だからねぇ。
そう言う条件だとしたら認知症って多分不可だよね。
でも、私としては苦しかろうが1年か2年ぐらいで死ねる病気より、10年近く体だけ生き残って醜態を晒しかねない認知症の方がさっさと死なせて欲しいんだけど。
マジで自分の老後はそこら辺をスッキリ終わらせたい。
考えてみたら、宗教によくある教えみたいに自殺がカルマ値に悪影響を及ぼすとしたら困るから、マジでちょうど良いタイミングで交通事故か癌か何かでサクッと死にたいなぁ。
まあ、それはさておき。
「そう言えばさ、碧っていつか戸建てに住みたいの?」
ふと気になって尋ねてみた。
まあ、碧とのハウスシェアが一生続くと決まった訳ではないし、急ぐ話ではないんだけどね。
「ん〜。
庭の世話とか大変そうだし、ゴミ捨てとかも不便だから、それこそ源之助を乗せて移動出来るバンを買うんじゃない限りはマンションで済ませたいかな〜」
碧が言った。
「お、良かった。
私もなんだよねぇ。
戸建てはゴミ出しが出来る時間帯が限られる上にごみ収集場の掃除当番も回ってくることが多いから避けたくって」
もしもいつの日か何かの拍子に結婚して子供ができたならば、子供が叫ぶのがやたらと好きな煩いタイプだったら考慮するかもだけど。
やっぱ24時間ゴミ出し可能で掃除当番も無いマンションに慣れると、戸建てに戻るのはかなり心理的ハードルが高い。
実家に暮らしていた時も、定期的に回ってくるゴミ置き場の掃除当番はマジで困った。
あれって共働きの場合はどうしろっつうねん!って感じなんだよねぇ。
私が学校から帰った時点で掃除されてなかったらやる事もあったけど、必ずしも都合が良い時間に来るとも限らなかったから母が仕事を遅らせれば確実って訳でも無かったし、タイミングが上手く合わずに掃除できなかった時なんかは時折近所のおばさんにちくりと嫌味を言われていたっぽい。
今だったら在宅勤務日を選べば何とかなるかもだけど、マジであれって面倒だ。
取り敢えずマンションで暮らしていくと言うので2人の嗜好が一致したから、このまま暫くハウスシェアを続けられそうだし、良かった。




