尻尾は必要?
「ねえ。やっぱり源之助に魔力を込めて禁止事項を言い聞かせない?」
シロちゃんの尻尾に力一杯噛み付いている源之助を見ながら碧に再度提案する。
碧や私がそばにいる時は、源之助がケーブルの匂いを嗅ぎ始めたりカーテンをよじ登ろうとし始めたりしたらオモチャを振って気を逸らす。
いない時はシロちゃんが体を差し込んで止めていたのだが・・・いくら止めても源之助が諦めないので、とうとうシロちゃんは尻尾を振って気を逸らす事にしたのだ。
自己犠牲精神だねぇ。
かなり強化してあった尻尾だが、既にちょっとボロくなって来ている。
一体どれだけ噛んでいるんだ、源之助。
日中は碧と私がかなりの時間を割いて遊んでいるのに、強化したシロちゃんの尻尾をボロく出来るだけの時間があるなんて、不思議すぎる。
子猫って1日の殆どの時間を寝て過ごしているんじゃなかったの??
「家族を魔力で洗脳するのはイヤ」
碧が頑固に首を横に振る。
「洗脳って程のことでもないと思うんだけどねぇ。
しょうがない、シロちゃんの尻尾をもう少し強化しておこう。
ちなみに、尻尾がボロボロになったら新しい躯体にシロちゃんを移す?それともボロボロのままもう少し放置する?
使い魔だから尻尾が無くても問題はないし、そのまま放置して鼻や耳を代わりに齧らせてそっちがダメになってから躯体を新調しても問題はないよ」
私の言葉に、シロちゃんが微妙に悲しげな顔をした。
ぬいぐるみなんだけど、使い魔化しているせいか意外と表情が豊かなんだよねぇ。
「犬にとって尻尾が無いなんてストレスでしょ?
新しいぬいぐるみを買っておくよ。
シロちゃん、同じのがいい?それとも色違いとかタイプ違いのを試したい?」
碧がシロちゃんに尋ねる。
『今のと同じ躯体があるならそれが良いが・・・尻尾が無くても動けるという話だから、儂の役割を果たせるならば無くても大丈夫だぞ?』
シロちゃんが健気に言う。
「源之助に強制力を使わないのは私の我儘なんだから、シロちゃんの尻尾を確保するのも私の責任よ!
同じぬいぐるみを確保しておくから、心配しないで」
碧がシロちゃんをわしゃわしゃと撫でながら言い聞かせる。
「シロちゃんを撫でるより、源之助を引き離してあげたら?
そしたら尻尾を強化しておくから」
二人(一人と一匹?)に声を掛ける。
「そうね。
源之助〜。
お姉ちゃんと遊ぼ〜」
猫撫で声を出しながら碧が源之助の視界に入る様にオモチャを振る。
お母ちゃんじゃなくってお姉ちゃんなんだ。
まあ、まだ女子大生だもんね。
『おばちゃん』程の破壊力はないが、『お母ちゃん』もちょっと微妙だ。
猫の母親役だったら別に良いんじゃないかと言う気もするが。
「シロちゃん、ちょっとこっち来て」
碧の使い魔なので碧の魔力を込めれば全体的な強化が出来るが、部分的強化だけだったら私の魔力でも問題は無い。だからここは慣れている私がやる方が早いだろう。
ついでに噛んだら興奮状態が落ち着いて眠くなる術を仕込んでおくか。
術だけじゃなくって、噛み癖のある猫用のスプレーでもネットで探して買ってみるかな?
みかんの匂いとかって嫌いらしいから、そう言う香りのスプレーでも良いかもだが・・・源之助がシロちゃんを嫌って避ける様になったら子守りとしての任務に差し支えるかもだからなぁ。
つうか、猫って本当にみかんの匂いが嫌いなのかね?
グレープフルーツを昨晩食べた時は気にせずに近寄ってきたけど、グレープフルーツとみかんって匂いは似てないの??
酸っぱい匂いが嫌いなのだとしたら、グレープフルーツの方がみかんよりよっぽど酸っぱいと思うんだが。
真夏なのでみかんを入手できないから確認できないが、考えてみたらコタツでみかんを楽しむつもりだったけど源之助が嫌がるかなぁ?
まあ、代わりにコタツでアイスクリームという選択肢もあるか。
そんな事を考えながら、シロちゃんの尻尾の強化と源之助対策を仕込み終わる。
『ありがとうな』
う〜ん。
源之助が寝ている間にクルミと一緒にタブレットで動画を見ているシロちゃんだが、どうも最近クルミがスイスの山で暮らす少女のアニメに嵌まったせいか、ますます言動がジジくさくなってきた。
2頭身とまでは言わないが何処となく子犬っぽいハスキー犬のぬいぐるみがお爺さん的な話し方をするのって、ちょっと違和感があるんだけど。
今度お爺さん犬のぬいぐるみでも探してみるかなぁ・・・。