大規模案件再び？
『長期滞在な依頼があるのですが、お願いする事は可能でしょうか？』
退魔協会から依頼の電話が掛かってきたと思ったら、ちょっと意外なことを言われた。
「学業に集中したいので、依頼は基本的に日帰り、例外として週末に一泊2日程度と言ってあったと思いますが？」
碧がバッサリと切って返した。
諏訪に滞在して源之助を実家に預けておけるならまだしも、それ以外の場合だったら長期依頼は有り得ないよね。
大学を卒業した後はどんな言い訳を使うかはちょっと悩ましいところだけど。
枕が変わると眠れないとか、ダニとかのアレルギーが酷いからホテルに宿泊は避けたいとかって感じの言い訳は白魔術師と黒魔術師のペアだと使えないのがちょっと痛い。
まあ、退魔協会に依頼を強制する権限は基本的には無いんだけどね〜。
年に何回かの藤山家へのノルマはあるけど、あれだってある程度は交渉できる。
だから『泊まり掛けな依頼はやらない』って言えば強制はできない筈なんだけど・・・それなりに通りのいい建前が無いと、実際のところは色々難しいだろう。
泊まり掛けの仕事をしたく無いのは誰もが同じだろうから。
依頼主の金でホテルや旅館に泊まって美味しい食事を楽しむのを喜ぶ退魔師も少しはいるだろうが、結婚していたりしたら基本的に出張が多すぎると家族生活に支障をきたすからねぇ。
育児や家事に貢献しない男だったら妻としては出張で居ない方が良いと思っているかもだけど、退魔師本人は不便だと感じているだろうし。
・・・それとも家の事をもっと手伝えと言う妻の圧力から解放されて清々すると感じる？
いや、そんな弱気な人間だったら最初から家事の手伝いをするか。
そして結婚の有無は別に、ペット持ちだって困るだろう。
そう考えると、マジで中で生活できるぐらいしっかりしたキャンピングカーを入手すべき？
だがアメリカとかならまだしも、日本じゃあそんな大きなキャンピングカーの運転が大変そうだ。
もっとも大型トラックが街中を走れるんだから、慣れればキャンピングカーもある程度は何とかなるんだろうけど。
大型トラックの運転免許とかが必要になって面倒そうだが。
それはさておき。
依頼だ。
『実は、以前参加いただいた大規模緊急依頼があった某県の医療施設の廃墟をやっと取り壊すことになりまして。
県に依頼された業者が下見に行ったところ、また悪霊が蔓延っている事が判明したので除霊をお願い致したく』
碧の言葉をスルーして職員が続ける。
この位の強引さが無いと不人気な泊まり掛け依頼は捌けないのかね？
「また緊急依頼にすればどうですか？」
碧が返す。
『そこまで急ぎではありませんので。
前回快適生活ラボに担当して頂いた範囲は未だに悪霊が少ないようなので、それを見込んで他の部分の再除霊を依頼したいと思いまして』
職員が応じた。
あ〜。
他の部分から悪霊が流れ込んできて後からクレームをつけられたら面倒だからって結界を張っておいたのが、想定以上に長持ちしたのかな？
もしくは単に残った碧の魔力の気配を悪霊が嫌ったのか。
どちらにせよ、迷惑だな。
「折角前回綺麗にしたのに、なんだってまた悪霊が湧くまで放置していたんですか？」
取り壊す予定が無かったならまだしも、実際に取り壊すならばさっさと綺麗になった時にやれば良かったのに。
『予算や契約の問題で遅れたんです。
と言うか、元々は取り壊しの準備が済んでから除霊を依頼する筈だったのが、某政治家のスタンドプレーのせいで電力会社がお金を出して除霊させたので。あの時点で取り壊しを出来れば一番良かったのですが予算が立っていなかったし、業者のスケジュールも当時は一杯だったので出来なかったそうです。
予定が狂って県の方も不要だろうと他に流用した積み立てておいた予算がやはり必要と言う事になって、色々と皺寄せが出ているようですね』
職員がぶっちゃけた。
つうか、政治家のスタンドプレーも問題だろうが、それに忖度して大金を払って大型緊急依頼を退魔協会に出した奴も悪いんだろう。
半ば公的機関である電力会社からの資金だとしたら、周り回ったら住民からの電気料金だよ？
しかもそれで『除霊を頼む必要が無くなった！！』って県の方がはっちゃけて無駄遣いしちゃったんだったら・・・自治体の予算なんて、半分ぐらいは国からの補助金でもある事を考えると、私の住んでいる県じゃ無いけどウチらから集めている税金も使われていると考えられるんだから、他県だとしても予算の無駄遣いはやめて欲しい。
まあ、無駄遣いじゃ無いかもだけど。
でも、今になって『皺寄せ』なんて話が出ているのを見ると、安易に人気取りな支出に流用したんじゃ無いかと思えるんだよね〜。
「ちなみに、悪霊が居なかったらあの敷地の取り壊しにどのくらい時間が掛かるんです？
一棟ごとに解体工事のタイミングに合わせて日帰りか一泊2日で除霊していくのならば依頼を毎回受けるのも吝かではありません。
どうせ全部一気に除霊したところで、いざ解体しようとしたらまた悪霊が沸いてますよ」
碧が提案した。
そうだよねぇ。
あそこまで何度も行くのは面倒だけど、そこら辺が許容できる妥協案かなぁ。
