ウチの子になる?
「この仔、可愛いと思わない?!」
シルバーと黒の不思議な柄のアメショーの子猫をオモチャで器用に釣ってきた碧が私に話しかける。
「子猫はどれも可愛いけど・・・確かに美猫ね」
アメショーは個体によってはちょっと鼻ぺちゃなブサ可愛系の仔もいるようだが、この仔はすっきりほっそりした顔で私好みな美猫だ。
白龍さまが部屋の中を動き回っている際も、しっかり目に見えているようだったし。
同じ子猫でも『うん?なんかいる?』という感じに周りを見回す仔と、何にも気づかない鈍感な仔と、はっきり視認出来ている仔といた。
そして逃げようとする警戒心の強いタイプ、全然気にしないタイプ、じゃれつく強者タイプに分かれていたが、この仔はじゃれつき派だった。
ちなみに、猫は人間と違って歳を取っても擦れないのか、見えている猫の割合は子猫も成猫もほぼ同じっぽかったが、流石に無邪気に白龍さまに飛びつこうとするのは子猫だけだった。
まあ、ウチには向いてそう?
白龍さまもなんか楽しんでいるのか尻尾をふりふり子猫の前で動かしているし。
ちなみに炎華は興味なさ気に窓際で昼寝をしている。なんか、猫よりも猫らしい幻獣だ。
私の横でニコニコしながら猫を見ていたブリーダーさんに声をかける。
「ちなみに、この仔は食いしん坊ですか?」
性格に関してはこれから確認するが、食いしん坊と言うのは必ずしも性格とは関係ないのでブリーダーさんに聞く方が早いだろう。
食べ物に対する執着心が強いにしても、量に拘るか味に拘るかで食いしん坊と選り好み派とに分かれるだろうし。
「食いしん坊です」
苦笑しながらブリーダーさんが答えた。
やったね!
お代わりのおねだりを無視したり、煩すぎたらクルミに説得させるなりオモチャで気を逸らすのはそれ程難しく無いと思うが、餌を食べてくれないからとひたすら色々と買い揃えるのは出来れば避けたいところだからね〜。
食べられる餌を捨てるなんて、許し難い。
かと言って、最近ではあまり野良猫も見かけないから、野良猫が食べてくれると期待して近所に撒くと言う訳にもいかないだろう。
「猫は肥満になると、うっかり事故があったりして数日絶食するような羽目になった場合に急死しちゃう事があるんだって。
この仔は食いしん坊だって話だけど、ちゃんと体重制限に気を配っておねだりを拒否出来る?」
碧が猫の願いを無視できないタイプなんだったら例え大量の餌が無駄になろうと選り好み派のあまり食べない仔にした方が良い可能性もある。
「肝リピドーシスね。
分かってる。
大丈夫、いざとなったら奥の手で体重は減らせるから」
自信満々に碧が頷いた。
既に肥満猫に関するリスクについてはリサーチ済みだったらしい。
それより。
・・・もしかして、白魔術って体重削減も出来るの?!?!
ちょっと!!
出来るんだったら教えておいて欲しかった!!!
今まで我慢したスイーツがどれほどあったことか!!
思わず目を剥いて碧を凝視したが、本人は知らぬ顔で子猫と遊び続けていた。
これは後で要確認だね!
それはさておき。
「じゃあ、最終確認してみる?」
人間だって知り合って数時間で分かることなんて高が知れている。
猫の性格判断だって暫く遊んではっきり分かるものでもないだろう。
まあ、猫に求めるものってそこまで多く無いだろうからちょっとぐらい性格が想定と違ってても大きな問題はないだろうが。
「うん、お願い」
碧が頷いたので、そっと指を差し出して子猫のオデコに触れ、碧へ従魔契約の前段階のリンクを繋ぐ。
「ウチの子になる?」
碧が真剣に子猫の顔を見つめながら尋ねる。
子猫の注意を引くためにオモチャをチャラチャラ動かし続けているので、却ってその真剣さが可笑しいが。
「みゃう」
『なってあげても良いよ〜』
上から目線な答えが子猫から帰ってきた。
性格の方もさらっとチェックした限りでは好奇心旺盛で人が好きな元気一杯タイプっぽいので、最初は大変かも知れないが楽しく暮らせそうだ。
「この子にします!」
私が頷いたのを見て、碧がブリーダーさんに宣告した。
「分かりました。
ではこちらで手続きをしましょう。
昨日も言いましたように。成約記念に今食べさせているフードを400gお渡ししますので体重に合った量を日に2回か3回に分けてあげて下さい。
まあ、子猫の間はそう簡単に太ったりしないので、出しすぎて数日前の餌が残るなんて事にさえならなければあまり神経質に量を計らなくても大丈夫ですが」
ブリーダーさんが説明しながらひょいっと子猫を拾い上げて先程通った面接スペースの方へと移動する。
「基本的に朝に出して夕方まで残っていたフードは捨てた方が良いですか?」
碧が尋ねる。
「日中は完食する程度しか出さず、寝る前に少し多めに残るぐらい出すのがおすすめですね。
じゃないと早朝に起こされる可能性が高いので。
夜の間はケージに入れますか?
最近はそうする飼い主さんも多いんですよ」
成約記念とやらのフードとオモチャが入った箱を棚から出して碧の前に置きながらブリーダーさんが答える。
「いえ、ケージには入れないと思います。
やっぱり可哀想だし」
「夜中に出ているオモチャを誤食しちゃったりケーブルを齧って感電しちゃったりする事もありますので、そこら辺の事をちゃんと理解できるぐらいに育つ迄は片付けをしっかりとお願いしますね。
『まさかこのサイズのオモチャを食べないだろう』と思って出しっ放しにしていた40センチぐらいのヒラヒラが付いている猫じゃらしを食べて、大腸がズタズタになって死んじゃった子もいるので気を付けて下さい」
別の棚から書類を出してきたブリーダーさんが碧を真剣に見つめながら言う。
そんなサイズの猫じゃらしを食べるの???
基本的に、フードと水以外のものを口に入れようとしたら止めるよう、クルミか子守用使い魔に言っておかなきゃだね。