出来なくは無いんだぁ・・・
「そう言えば、白龍さま。
氏神さまとか神族とか強力な幻獣って、何かやっちゃいけない決まり事とかってあるんですか?」
家に帰ってから源之助を尻尾で揶揄っていた白龍さまにふと尋ねる。
以前から、ちょっと気になってたんだよね〜。
前世の神殿にいる神様も、ほぼ人間のやる事に手を出さなかった。
だがあれは『面倒だから』と言うのが一番の理由、二番目の理由は要請を伝えておねだりを聞いてもらえる可能性がある愛し子を使って金を信者からふんだくる為に、周囲が勿体ぶって余程の事(金)でない限り世俗の事を神に訴えるのを良しとしなかったからだと神殿にいる友人に聞いたことがある。
つまり、強力な存在は自由であり、何かしでかしたからって謝る必要なんぞないのだ。
・・・多分。
『決まり事?
無いぞ。
まあ、他の氏神のお気に入りを殺しまくると色々と面倒な事になるから、お互い手出しは無用と言った暗黙の了解はあるが』
白龍さまがあっさり答えた。
やっぱそうなんだ。
まあ、そうだよねぇ。
そうなると、ラノベあるあるの『間違って殺しちゃった、ヤバいから秘密にする代わりにお詫びに色々スキルを付けて転生させるね!』も無いんだね。
「ちなみに、死んだ人間を助けて異世界に転生させるとかが出来る氏神さまって居るんですか?」
碧がついでに尋ねた。
確かにね〜。
つうか、死にかけた人間を癒すのって大多数の幻獣系氏神さまには無理じゃ無い?
神族系は癒しの権能っぽいのを振るっている神殿もあったけど、あれって殆どは単に白魔術師を集めていたからってだけな気がするし。
『死んだ後の転生プロセスに手を出すのは無理じゃの。
手を出すどころか転生先を見つけるのすら成功したことが無い。
とは言え、心臓が止まった瞬間に魂が体を離れる訳ではないから、直ぐに依代を作ってそこに魂を据え付ける事は可能な場合もあるの』
おっと。
依代に魂を入れるんかぁ。
「それって生きている様な感じに動く依代なんですか?」
『まあ、知能のほぼ無い眷属を作って形を人間に近く見せかけてそこに人間の魂を移植するのは可能じゃの。
とは言え、子供は出来んし老化も人間と同じ様にはせんだろうが』
へぇぇ。
眷属を作って魂を移植ねぇ。元からいた知能の無い眷属の魂はどうなるのか、ちょっと気になる。
知能が無くても本能的なレスポンスはありそうな気がするけど、どうなんだろう?
死にそうになって魂だけ救われて異世界に転生モドキな感じで生まれ変わったら、そこら辺のトカゲの如く蠅を見ると舌で捕まえて食べたくなる本能が生えてたなんて事になったらちょっと嫌だぞ。
まあ、それはさておき。
「それって愛し子が死にそうになったらそっちに入れ替えて命・・・とは言わなくても存在を継続させられたりしません?」
龍に孤独を感じる感性があるかは知らないが、お気に入りな人間が死んだら残念には感じるだろう。
だったら魂だけでも一緒にって思わなかったのかな?
『限られた命の存在は、下手に形を変えて残しても歪むからのう。
知り合いがお気に入りを転生させずにずっと側に置いていたのを見た事があるが、時の経過と共に魂が磨耗して最終的には粉々になって跡形もなく崩壊してしまったらしい。
儂が知っていた時でもかなり言動が不自然だったから、短期間ならまだしも長期的には魂を転生という形で休ませないのは不味いんじゃろう』
うっわぁ。
それって最終的には私も魂が粉々になる可能性高いって事??
15歳まで記憶がない状態で生きているお陰でかなり『生まれ変わった』感は強いけど、それでも過去の辛い記憶はある程度残っているからなぁ。
ヤバい??
まあ、どうしようもないんだし、摩耗してきたら粉々になって終わるのも救いなのかもだが。
微妙な情報だなぁ。
・・・あまり考えないでおこう。
「そう言えば、新しく作った体に魂を移植出来るんでしたら、好きな能力を付与出来たりするんですか?」
碧が尋ねる。
ああ〜。
神様ゴメンナサイ転生のスキル選びはラノベあるあるだよねぇ。
『儂が使える能力ならば眷属に付与する事もモノによっては可能だが、儂が使えぬ能力は無理じゃの。
どちらにせよ、魂に馴染みがない能力は器に付与しても使いこなせんじゃろ』
白龍さまが教えてくれた。
そうなると、退魔師じゃなかった人間が『殺しちゃったゴメンナサイ』な形で適当な器を与えられて別の世界に落とされても、魔術のスキルを渡したところで使いこなせる可能性はかなり低いのかぁ。
でも。
暇な神族や強い幻獣がいたら、眷属の器を作って適当に体から抜き取った魂を誘拐してそこに封じ込み、異世界に落としてどうなるか見物するのは可能っちゃあ可能なんだねぇ。
異世界言語理解的な能力を付与するのは無理だろうが、念話チックな能力で誤魔化すのかな?
念話って会話と違うし口にしていない内容を読み取ったら怪しまれるから上手く使いこなせる可能性はかなり低い気がするが。
まあ、害意を読み取れたら生存可能性は高まるかもだけど。
会話能力と似た様な物だとして念話を使いこなせるか否かが、現地人との第一次遭遇を生き残れるかを左右しそう。
寿命とか子作りとか、他にも色々と問題はありそうだけど。
「ちなみに、ゲームの世界とか、小説の世界ってあったりするんですかね?」
まあ、こちらの想像が世界を創るって言うよりは、存在する世界を夢とかで偶然同調して知った人間がシナリオライターになって類似した話やゲームを創るって流れになるんだろうけど。
もしくは前世の記憶の一部が夢に出て来るとか。
あの迷惑野郎みたいに。多分だけど。
『それは見た事はないの。
とは言え、どこかの世界のどこかの国での歴史の中の一瞬の出来事なんぞ、気付かなかっただけの事かも知れんから、あり得ないとは言い切れんが』
主人公がゲームの世界に転生したラノベアニメを先日私と碧が見ていたからか、白龍さまは『無い』と言った後に柔らかく可能性は否定しないと形を変えてくれた。
まあ、考えてみたら世界を救うとか、国の崩壊を止めるとか言ったゲームや小説って要は数年か長くて20年ってとこだもんねぇ。
少年時代に立ち上がって力をつけて戦い始めるとして、20年も経ったら体が思う様に動かなくなって戦えなくなる。
そう考えると、そんなヒロイックファンタジーもどきな出来事も白龍さまにとっては瞬きをする間もない様な一瞬だから気付かなくても不思議はない。
と言うか、考えてみたら白龍さまは現世に流行るゲームとか小説とか、殆ど知らないだろうし。
取り敢えず。
神様に決まり事なんぞ実質ないから人を殺そうと『ゴメンナサイ』はない、と。
ただし、単なる遊びとして魂を抜き出して別世界に移植するのは可能っちゃあ可能なのね。
・・・不可能な方が良かったかも。




