詐欺?真実?
「白龍さまはカルマってはっきり視えるんですか?」
午後の祈祷は特に面倒な事も無く問題なく家に帰れた。
夕食当番だった私は準備をしながら、源之助相手に尻尾を振って遊んでいた白龍さまにふと思いついて日中に疑問に思った事を尋ねた。
『あれは魂の周りに漂う匂いの様なモノだからなぁ。
濃厚になるとはっきり分かるし、気付いたら魂に定着しているが、そうなるまではぼんやりと漂っている感じだから、感じられるがはっきりとどの方向にどの程度あるかを見極めるのは難しいな』
ふいっと尻尾を上げて源之助の前足を器用に避けた白龍さまが答えてくれた。
そっかぁ。
匂いねぇ。
あれってマジで漠然としたものだから、数値化は無理だよね。
最近はそれなりに調べる方法があるらしいけど、結局検査用の素材に付着した匂いの元になる何かの粒子の数とかを測るとかそんな感じだったよね?
どう考えても白龍さまの感覚に当て嵌めるのは無理だろう。
「あれ、カルマって善と悪と言うか、プラスとマイナスみたいなはっきり二極に分かれたモノじゃないんですか?」
そっとブラッシングをしようと源之助に近づいてきていた碧が口を挟んできた。
『カルマとは業じゃ。
どうしようもなく邪な業もあるが、大抵はその存在の生き方の積み重ねの様なものじゃから単純に正とか負とかに評価出来るものではあるまい?
ただ、負に偏るとそれに引き摺られて転生する際により下位な存在になりやすいだけじゃ』
あれ?
「存在のクラスが影響されるだけなんですか?
じゃあ、人間として生まれる場合、平和で豊かな国の裕福な家庭に生まれるか、紛争地域の難民に生まれるかとかはカルマとは関係ない?」
同じ人間に生まれるにしても、どう言う環境に生まれるかで滅茶苦茶人生の生きやすさは変わるんだけど。
これには因果応報は関係しないの??
『詳しくは観察していないから知らんが・・・そこに関与しているモノが居るとしたら儂クラスでも分からぬ程に超絶した存在となるの』
白龍さまがふりっと尻尾を動かして源之助のおでこをそっと擽りながら応じた。
そっかぁ。
氏神さまとか神族とかだったら白龍さまも顔見知りが多いらしいが、そう言う存在は生き物の生まれ変わりに一々関わっていない、と。
そんでもって転生した先の存在が何になるかはカルマが影響する化学反応に近い様なシステムで、カルマのレベルの影響で同じ『人間』として何処かの世界に生まれたとしても、それが運がいいと言える様な環境になるか否かに関しては偶然の可能性が高いのかぁ。
人間を見守ってくれる神様の存在なんて信じていなかったけど、生まれの良し悪しが完全に運に左右されている可能性が高いのはちょっと切ないなぁ。
まあ不幸な状況に生まれても自業自得じゃなかったって言うのはちょっと慰めになる気もするが。
「ちなみにどうして急にカルマの事なんて興味を持ったの?」
そっと源之助の脇腹をブラッシングしながら碧が聞いてきた。
「いやぁ、今日あのジジイに『もうすぐ死にそうなら善行を積んだらどうです』みたいな事を言ったじゃん?
ただ単にお金を寄付するだけでカルマが改善するなら、一枚買ったら幾ら分の寄付になってカルマがこれだけ改善しますよ〜って言う免罪符もどきが爆売れしそうだなぁと思って」
免罪符なんてふざけた教会の詐欺手段だと嘲笑していたんだけど、寄付でカルマが改善するなら実益がある代物になる。
「その為にはカルマを調べる手段が必要、と」
碧がそっと源之助にブラシを当てる。
「そ〜。
まあ、カルマが来世に影響するって現象自体が証明のしようが無いから詐欺扱いされそうだけど、金持ちで悪どい事をしてきた認識のある老害とかはバンバン買いそうじゃない?」
もしもカルマを計測できたら、死が近い高齢者は子や孫に財産を残すよりはガンガン寄付してカルマを改善しようとするだろう。
「なんかこう、銀行口座とかにハッキングして寄付とかの資金の動きを調べられる手段があったら、巨額なカルマ詐欺が横行しそう」
碧が笑いながら言った。
「確かに!!
どうせ悪事を働いてきた様な老害連中だったら自分で何かするんじゃなくって金で済まそうとするだろうから、資金移動に連動して動く『カルマ測定器』みたいのをでっち上げて、ついでにカルマ改善効率の良い寄付先を紹介しますって言うのとセットで売り込んだらボロ儲け出来そう」
しかも詐欺だって証明は難しいからね。
ある意味、オレオレ詐欺よりもよっぽど摘発しにくいんじゃない?
「う〜ん、実は公になってないだけで、そう言うのに近い詐欺は今でもあるんじゃない?
つうか、怪しげな新興宗教って実質それだろうし」
碧がちょっと首を傾げながら言った。
確かに。
まあ、宗教そのものが基本的に自分たちの言う通りにすれば救われますよって唆しているとも言えるんだから、カルマ詐欺に近いよね。
と言うか、カルマが実在するんだから、善行を推奨する事で救われるって言う宗教の教えは完全に嘘ではないとも言えなくもないし。
そんな事を話していたら、電話が鳴った。
おや。
退魔協会の着信音じゃん。




