ボランティアは大切だろうけど
「ちょっと変なモノが敷地の除霊中に出てきたんですが・・・それを消したせいでどなたか体調を崩されたかも知れません。
私はそういう体調不良にも対応できるので、もしもそんな方がまだ敷地内で休まれているなら、さっと診ましょうか?」
残りの敷地の浄化を終え、所長の所に行って碧が親切そうに提案した。
ちなみに、呪詛モドキは結局更にもう1つ出てきたので、3つ分の呪詛返し。自然発生的なモノでもここまでいけばかなりキツイ筈だから、帰宅せずにどこか保健室か入居者なら自室で寝ている可能性が高いと私は読んでいる。
「あ、お願いできますか?
ボランティアで来ていただいている木島さんが倒れてしまって。
まだ起き上がれていないようで、救急車を呼ぶべきか、迷っていたところなんです」
所長が嬉しそうに碧の方へ笑いかけた。
ボランティアかい。
確かに正社員よりもスクリーニングが緩そうだ。
この敷地が小学校だった頃から近くで猫を殺していて、ここに出入り出来る年齢になるまで自分の本質を隠し通せたって事は多分それなりに知能が高そうだから、給料が安くて有名な介護士として働いているよりは入居者かと思っていたのだが・・・流石に高齢者施設の入居者になるほどの年ではないらしい。
「ボランティアってどんな人がやっているんですか?」
定年退職して暇なシルバー人材しか思い浮かばないが。
「以前は子供が大きくなって時間に余裕のできた主婦の方とか、定年退職したけどまだ元気な方とかが多かったんですけど、最近はフリーランスや在宅で働いていて時間が自由になった方が社会的貢献をしたいと声を掛けてくれるケースも増えましたね。
木島さんもフリーランスでIT関係の仕事をしてらっしゃるそうですが、週に3日ほど来てくれています」
へぇぇ。
フリーランスね。
オンラインのやり取りで済みそうなIT関連の仕事なんて、色々な意味で都合がいいんだろう。
「木島さんはどんなボランティアをしているんですか?」
保健室へ歩きながら何気ない風を装って尋ねる。
「彼は高齢者を車椅子に乗せて敷地内の散歩に連れて行ってくれたり、部屋で本の読み聞かせをやってくれたりしているんです。
認知症が進んでしまった入居者の相手も進んで対応してくれるんで、スタッフには有り難がられる人ですね」
スタッフには、ねぇ。
所長さん本人は微妙なのかな?
だとしたら人を見る目があるのかも。
多分、認知症が進んだ人の相手を進んでやるのって、そう言う相手だったら痛めつけて文句を言われても他の人が真剣に受け取らない事が多いからだろう。
認知症が進むと被害妄想的に色々盗まれたとか殴られたとかなんて言いがかりをつける様になる高齢者が多いらしいし。
とは言え、ボケちゃった老人を痛めつけるだけで連続殺人鬼傾向のある異常人格者が満足するとも思えないけど。
しっかし。
なんかやたらと私らって人殺しの好きな人間にぶち当たってない??
まあ、悪霊とか穢れが溜まっているところに呼ばれて行くからそうなり易いんだろうけど。
現代日本は前世と違って平和で穏当な社会だと思っていたのに、それが上っ面だけの嘘みたいに思えて悲しくなる。
どんな人間の集団にも殺しや人を貶めるのが好きな者はいるし、殆どの学校で虐めが問題になっている現実を鑑みるに人間の攻撃性って日本でも実はそこそこあるのだろう。
現代日本が平和に見えるのは殺しが好きな人間が上手い事それを隠しているからで、私らがそう言うのによく行き当たっちゃうのは死霊や穢れと言う、一般的な悪人には消せない痕跡から発生する問題を対処する仕事をしているからなんだろうなぁ。
「こちらです」
保健室と書かれた部屋のベッドには、30代ぐらいの男性が気持ち悪げに顔を顰めて寝ていた。
う〜ん、穢れだらけだねぇ。
今回返された呪詛以外にも本人の悪意とか、害した人間の恨みとかがへばり付いて、ヘドロみたいに汚れている。
死霊も取り憑いているし。
これって殺された被害者なんだろうなぁ。
高齢者が3人程に、若い女性と中年の女性が一人ずつ。
やっぱ猫だけでは満足できずに人間の殺しまで手を出しているっぽい。
介護施設は人手不足で大変だと言う話なのに、ボランティアで来た人間が高齢者を虐待してこっそり殺していたなんて話が明らかになったら、ボランティアの受け入れとかが厳しくスクリーニングされる様になってますます人手不足が悪化しそう。
とは言え、ヤバい人間が弱者である高齢者に簡単にアクセス出来る状況は是正する必要があるからねぇ。
政府には頑張って予算の無駄を省いてそこら辺の問題に対処してもらわねば。




