埋まっていたら気付かないよねぇ
「随分と新しそうな所だね」
仙台駅からレンタカーで来た依頼先は、真新しく見える高齢者用の施設だった。
今までの依頼で行った場所って廃業した病院とか工場とか、江戸時代からの旧家の家とかが多かったので、この汚れもなくてオシャレっぽい建物はかなり想定外だ。
「高齢者用の介護施設って最近になってから沢山作るようになったから、実際新しいんじゃない?」
碧が応じながら入り口の方へ進む。
送られてきた資料だと、元々は小学校だった場所を高齢者施設に変えたらしいが・・・何だってそんな所に悪霊が出るんだ?
確かに何やら空気が悪いし土地も穢れているっぽいが。
「ようこそ、早くから有難うございます」
所長らしき人が受付まで迎えに出て来てくれて、我々を会議室っぽい所へ案内した。
「ここって元々小学校だった場所ですよね?
子供が実はこっそり殺されていたとかなのですか?」
碧が気掛かりそうに尋ねる。
小学校で悪霊が出るような苛めなり殺人なりが行われていたのだったら、刑事事件として捜査する必要があるから除霊する前に警察の捜査に協力する必要がある。
とは言え、小学生の霊では犯人を識別する為の知識も微妙だろうし、大分と昔の事件だろうから捜査が実を結ぶ可能性はかなり低そうだが。
「いえ、この施設は小学校を建て替えて作ったんですが、敷地を拡張する為に学校の横にあった土地も市から買い取ってそこにもこの建物が掛かっているんです。
今回の問題が起きて地域の歴史研究家や寺社などに調べて貰ったところ、どうもその拡張した部分が江戸時代の初期に流れが変わるまでは川辺だったらしく、橋を掛ける為にどうも人柱を捧げる慣習があったらしく・・・」
ちょっと言いにくそうに所長さんが話し始める。
「人柱って家族の世話を見てもらう事でそれなりに本人も納得してなる事が多い筈ですが」
碧がちょっと首を傾げながら言う。
確かに、川の神様なり水神様なりに祈りの証として何よりも大切な『同胞の命』を捧げるのに、犠牲者が怨みを撒き散らしていたんじゃあ却って神さまの怒りを買いそうだ。
そうじゃ無くても手間暇かけて作るインフラが怨念で使えなくなったら時間も資源も無駄になる。
口減しの人員を使うにしても、それなりに条件は取り繕って本人が怨霊化しないようにする筈だよね。
「どうもかなりの暴れ川で、殆ど毎年の様に橋が流されていたせいで村も最後の方はかなりおざなりになっていた様で。
最終的には何やら大嵐の際に上流の方で大きな土砂崩れが起きて川の流れが変わったとかで、橋の必要が無くなったそうなのですが。
取り敢えず最後の嵐の後に今までの犠牲者を労る意味で慰霊碑を作ったらしいのですが、どうもそれが時の流れの中で土の中に埋もれて・・・工事の際に元川辺の岩と一緒に砕かれて砂利等と一緒に埋められてしまった様なのです」
確かに、川の流域が変わって橋が必要なくなったら今までの人柱への慰霊もおざなりになって忘れられるよねぇ。
忘れられた犠牲者の霊を慰める為の慰霊碑が砕かれて砂利やコンクリと一緒に埋められたのはちょっと可哀想だが、工事側にしてはそんなものはあるなんて知らなかったんだろうし。
「この施設がオープンして、居住者の方が入られる様になって・・・高齢者が多いので亡くなる方がでるのは避けられない自然な流れなのですが、元気に敷地の中で散歩に出ていたような方が急に体調を崩したり塞ぎ込んだりする事が妙に多く。
我々も一体どうしてなのかと頭を抱えていたら、とあるご婦人を見舞いに来ていらした方に、ここはどうも空気が穢れているから祓った方がいいとこっそり仰って頂きまして。
藁にもすがる思いで依頼を出してみたんです」
よくみたら、所長さんも目の下の隈が酷いね。
新しい施設なのに入ってきた高齢者の死亡率が高いのは、困るんだろう。
まあ、高齢者用施設では居住者が全然亡くならないのはそれはそれで問題になるんだろうが、死者数が『自然』と思えない様な状況なのだろう。
穢れが酷いと働いている職員にもストレスになっているだろうし。
「分かりました。
慰霊碑がある場所で除霊をする方が確実なのですが、敷地全体を探してそれっぽい場所で穢れを祓いましょう」
碧がそう言って、立ち上がった。
まあ、元川辺だった辺を探してそれっぽい場所が見つからなかったら、敷地を何ヶ所かに区切って片っ端から全部清めれば何とかなるだろう。
多分。