先は長い
「くわぁぁぁ〜。
良いわ〜」
遭難したアホなおっさんも無事保護され、無謀な山歩きで遭難して人に迷惑をかけた上に態々金網で囲まれた私有地へ不法侵入していた事を厳重注意されて帰ったので、私は碧と佳さんの温泉に来ていた。
ハネナガはおっさん発見のお礼にたっぷり魔力を渡したので、馴染みの無い田舎の山と町をフラフラと飛び回っている。
東京へ明日戻ったらもう一度あちらで召喚する事になっているので、今日は思う存分見慣れぬ諏訪の風景を楽しんでいるようだ。
ウチらは温泉を楽しんだらもう少し符を調べて、後は聖域の雑草をバンに積み込む予定。
肉体労働をしてから温泉に来るべきかとも思ったが、佳さん側の都合としては午後早くの方がいいとの話なので先に来ている。
暑い最中なのでそこまで楽しめないかと思っていたのだが、やはり良い。
温泉は極楽だ!!
「最近は温泉を使っている銭湯もあるらしいし、次の引越し先はそう言うのが近くにあるかを考慮しても良いかもねぇ」
碧がうっとりとお湯に浸かりながら言った。
「あ〜確かに。
それこそ、諏訪へのアクセスが良い場所を何ヶ所かピックアップして、その周辺にある温泉や銭湯を確認してから引越し先の地域を決めても良いかも」
まあ、霊泉が都内にある可能性は限りなく低いだろうが、それでも温泉の効果だけでも厳選する価値はありそう。
「そうだね、温泉って源泉によって効果に違いがあるらしいから、入り比べてみるのも重要だよね」
碧が頷く。
「そう言えばさ、藤山家の一族の人って退魔師として働いている人はどの位いるの?
佳さんなんて、違うよね?」
と言うか、退魔師では無いとは聞いてないけど、碧が仕事の話をしようとしないから違うんだろうと勝手に思っているんだが。
「え、佳さんも退魔師だよ?
妊娠したから今は完全に休職中だけど。
藤山家は大体適当にパート感覚で税金があまり掛からない程度にお小遣い稼ぎレベルで仕事をやる一族なの。
まあ、本家はノルマがあるけど。
だから私が卒業後に凛と一緒にフルタイムで退魔師になったら、かなり久しぶりの専業退魔師だよ」
碧が教えてくれた。
専業退魔師。
専業主婦っぽい響きがあるんだが。
退魔協会に嫁ぐ気はないぞ。
「なんで?
退魔師ってそれなりに儲かるんでしょ?」
と言うか、『パート』だったら残りは何をやるの??
「パート程度でも年収500万ぐらいになるからねぇ。
それ以上頑張ると税金とか社会保険料が高くなるから、イマイチ得るものがないって言うのが藤山家の人間の感性なんだよねぇ。
だから残りの時間で適当に趣味の自営業をやってる人が多いね。
若い間はゲームやバックパックの旅行に熱中する人も多いし」
なんと。
まあ、退魔師の依頼って多少は危険があるものの、単価は高いからねぇ。
「そう言えば、新聞で以前見た特集だと源泉徴収の所得税のほぼ半分を給与所得者のたった4%が払っているって話だから、確かに給料額が大きくなると引かれる額がグングン上がるみたいだよね。
そうなると、ある程度生活出来るだけ稼いだらあとの時間は好きな事をやる方が正解かぁ。
趣味を職業にすると辛いって言うけど、衣食住を別口でカバーしておいて、大きく赤字が出ない程度に趣味を仕事にするのも良い生き方かも」
所得が少ない間は生活が税金のせいで苦しくなりすぎない様に色んな控除がある。税率も累進課税なので、給料が増えれば増えるほど手元に残る金額の割合は減るのだ。
それこそ趣味の同人誌を作って売るとか、何かアクセサリーとかを作るのが好きだったら出来上がった物をネットで売るのだって良いだろう。
・・・そう考えると、私も何か趣味を見つけないとなぁ。
「そうそう。
私も何か趣味を見つけようかと思っているんだけど・・・まあ、まだ若いうちはガンガン稼いで貯金しても良いかなとも思っているんだ。
凛は何かやりたい事ある?」
「取り敢えずは無いんだよねぇ。
まあ、次の転生用に手軽に作れる何かを売るのもありかな〜とは思うけど、それが楽しいかと言うとそうでもないから、悩ましいなぁ」
次の人生で何が起きるかなんて、生まれ変わらなければ分からないのだ。
どうなるのか分からない来世の準備で楽しくもない作業をやりまくるのも、意味がないだろう。
「まあ、まだまだ若いんだから、のんびり考えよう」
「だね〜」