召喚
長距離召喚は初めてなので、お風呂に入って寝る準備が終わってからハネナガを召喚する事にした。
ちなみに、今日は聖域で水垢離したので佳さんの温泉には行っていない。
どんなに暑い日でも入れば温泉って気持ちがいいのだが、暑いと行く前の準備が億劫になるんだよねぇ。
だから碧も今日は家族と話す事が色々あるしと言う事で、明日だけにしようとなったのだ。
「今って泊まりがけの仕事を基本的に長期休暇時期以外は断っているけど、大学を卒業したらそう言う案件が増えるのかな?」
寝る前のストレッチをしながら碧に尋ねる。
「あ〜。
家庭持ちも泊まりがけの出張は嫌がるから、独身で身軽な連中に地方の依頼が集中しがちだって聞くね〜。
流石に船に乗って行くような1泊2日以上掛かるようなのはそれ程は無いとは思うけど」
ちょっと顔を顰めながら碧が応じる。
「そっかぁ。
そうなるとやっぱり東京に住む方が良さげだね」
「どっか他に希望があるの?」
碧がちょっと首を傾げて尋ねてきた。
「いやさぁ、佳さんの温泉や聖域の水垢離が凄く気持ちいいから、諏訪に住むのもありかな〜と思ったけど、諏訪から地方ってなると交通の便が悪くって東京なら一泊二日な場所でも厳しくなりそうじゃん?」
お守り素材ゲットに隔月ぐらいで来る分はある意味仕事と割り切れるので今程度だったらそれ程苦には感じないのだが、気持ちが良いだけの水垢離や温泉に気軽に来るって言うのはやはり近所に住んで無いと面倒だ。
「確かに。
仕事に源之助を連れて行くのもやっぱそれなりに難しそうだしねぇ。
今日みたいに暑い時期に車に閉じ決めていたら絶対に熱中症で体調を崩すでしょ。
夜しか一緒に居られないのにその為に源之助を狭いバンに1日閉じ込めるぐらいだったら、始発で来て終電で帰る方が良い気がする」
折角遠出するなら、温泉とか旅館の夕食とかも偶には楽しみたいけどね〜。
「まあ、そう考えると卒業後も東京に住むにして、諏訪に車で来やすい場所を選ぶか。
今のマンションも悪く無いけど、更に便利な所があるか調べておいても良いかもね」
今のマンションは広さも交通の便的にも悪くは無いが、何年も住んだら飽きるとか、周囲の状況が悪い方に変化するとか言った可能性はある。
「バンを買って備え付けの車庫にしまえる家をゲットすると言う選択肢も考える余地はあるしね。
仕事はまだしも、諏訪に来る分は源之助同伴で問題ないし」
碧が頷く。
ある意味、ガッツリ収入が入るようになったら諏訪にセカンドハウスを持つみたいな感じで、仕事があまりない時期はそっちに住むのもありかも?
退魔の仕事に季節的な繁忙期があるのかは知らないけど。
「まあ、まだまだ先の話だけどね。
そんじゃあちょっとハネナガを喚ぶね」
窓を細く開けて床に胡座をかいて座り、集中する。
この家って長年藤山家の人間が住んできたせいかちょっと自然な結界ちっくな感じになっているから、締め切っていると使い魔でも霊を喚び難いんだよね。
目を閉じて精神を集中させ、ハネナガとの繋がりを辿っていく。
霊との繋がりって物理とは違うから、東京と諏訪みたいに離れていてもちゃんと繋がるんだよね。
だから出先でも家に源之助を残している時はチュー助とかシロちゃんとリンクできるんだし。
『ちょっとこちらで仕事をお願いしたいんだけど、来てくれる?』
『久しぶりだな。
まあ、構わんが・・・夜はあまり役には立たんぞ?』
一応承諾の念が来たので、使い魔契約のリンクを使ってハネナガを召喚した。
「あっちの境界門がある場所を囲った結界を認識できる?」
聖域の方を指して膝の上に現れたハネナガに尋ねる。
『うむ。
凄まじい気だな。
あの中に入ると変質してしまいそうな気がするぞ?』
・・・カラスの霊の使い魔が濃厚な魔素で変質すると、どうなるんだろ?
ちょっと気になったが、下手に霊格が上がって維持に必要な魔力が上がっても困るので、変な実験は提案しないでおこう。
「あの結界の中には入らず、結界とその周辺にある金網の間に誰か人間が迷い込んで居ないか、明日の朝になって日が登ったら確認してくれない?
見つかったら近場の道からどうやってそこに辿り着けば良いのか確認してから私に教えて頂戴」
活動用に魔力を提供しながらお願いする。
『ふむ。
こんな山の中の活動というのは初めてだが、面白そうだな。
了解した』
徐に頷きながらハネナガが応じる。
「あ、ちなみに私が起きる前に見つかっても、起きるまで待っていて。
まあ、何らかの理由でその迷い込んだ人間が死にそうだったら起こしてくれて良いけど」
流石に寝ている間に1、2時間の差で死なれたら気不味いだろう。
夜中に死んだ場合は自業自得ってやつだ。