そう言えば凍るんだったっけ
「水垢離って想像以上に気持ちが良いんだねぇ〜」
タオルで水着の水分を叩き取り、服を着る。
しまったな。
今日の分の作業は終わっているから、ズボンじゃなくってワンピースっぽい緩い服を着替え用に持ってくるべきだった。
ズボンじゃあこの暑さでも下の水着は乾かないだろう。
とは言え、ワンピースなんて・・・あったっけ?
セパレートな方がトップをスカートとズボン両方に使えるから、ワンピースってあまり買おうと思わないんだよなぁ。
まあ良いや。
この水垢離を定期的にするなら、何か乾きやすそうな服をそのうち買おう。
「夏は特に良いよね〜。
残念ながら受験勉強のラストスパート時は冬だからちょっと寒すぎてダメだけど」
碧が頷きながら自分の荷物も纏め始めた。
「あ〜、やっぱ霊水でも冬に浴びたら風邪ひく?」
新年に水垢離をする神事って良くテレビでも見るが、あれをやって後で風邪を引いたとか肺炎になったなんてニュースは聞かない。
単に縁起が悪いとメディア側が忖度しているのか、それともパパッと冷たい水に入った後にしっかり体を温めているのか、もしくは霊験あらたかな水垢離って風邪をひきにくいのか。
どれなんだろ?
「う〜ん、流石に受験本番前にそれを試す猛者は居ないから、知らないなぁ。
でも、風邪をひかないにしても真冬の寒い最中に濡れた髪の毛で家まで歩くのは嫌じゃん」
碧が答える。
確かに。
それこそ焚き火のそばか雑草の保管場所でポータブルな暖房器具を使えば体を暖かくして下着を含めて乾いた服に着替えられるが、髪の毛を乾かすのは難しそうだ。
焚き火で髪の毛を乾かそうなんてしたら想定外なちりちりパーマになりそうだし。
そう考えると、いくらスッキリするとは言っても受験本番前に体調を崩すリスクは冒せないか。
大学受験が終わった今となっては無理に寒い時期に水垢離する必要も無いし。
霊験あらたかな水だと風邪をひくのか否かはちょっと興味はあるけど、自分で実験するのは嫌かな。
「こう、新年の神事で湖に入ったりしないの?」
何と言っても諏訪神社って諏訪湖が御神体なんじゃ無かったっけ?
実際には白龍さまが別に居るけど、神話的にはここの龍神さまは諏訪湖の具現化した神様なんじゃ無いの?
「いや、氷が張る上にひび割れて一部穴が開いてたりするんだよ?
水に入るのは危険すぎでしょ」
碧が苦笑いしながら応じた。
「そっか。
御神渡りだっけ?
そっちの男神様と女神様の話と白龍さまの関係がよく分からないんで忘れてた」
なんかこう、大昔の権力争いで大和の方から押し出された先祖に関する伝説からでっち上げた神さまと、大きな湖の化身としての龍神と、偶然諏訪湖の側にあった境界門を使っていた白龍さまの存在がごっちゃになって意味不明なカオスになっている感じだが、神社的にはどう考えているんだろ?
まあ、下手に聞いて鼻で笑っちゃったら失礼だから、タッチしないでおこう。
宗教って論理だけの話じゃ無いからねぇ。
「でもそう考えると、湖が凍るほど寒い時期だったらこの小川も凍ってるか」
もしくはしゃりしゃり氷混じりな水が流れてくるのかも。
「最近は温暖化で諏訪湖が凍らない年も増えたんだよねぇ。
小川も完全に凍り付くことは滅多に無いけど、それでも死ぬほど冷たいから、水垢離する物好きは居ないね」
氷が上から流れ落ちてきたら怪我をするかもだしね。
昔流行ったアクション映画では、冬に家の外で戦っていた主人公が室外機か何かから生えていた氷柱をへし折ってそれで悪役の目を突いていたシーンがあった。
あれって目潰しの永久版だと思ってたけど、考えてみたらそのまま脳まで貫かれて悪役は死んだ想定なのかな?
水垢離だったら氷柱が上から流れ落ちてきても硬い頭蓋骨にぶつかるからコブができる程度だと思うし、氷柱が流れ落ちてくるなんて事はほぼ無いと思うが・・・出っ張った岩とかに氷柱が出来てそれが折れて水に落ちて流れてくる可能性だってゼロでは無いから、寒さで肺炎にならないにしても冬の水垢離は危険だね。
「まあいいや。
この後は蔵の符を見せて貰って良いんだね?」
魔力が抜けてもう使えなくなった符は碧がラミネートしなかったのもあるらしいので、それらを見せてもらって魔法陣のデータベースに入れようと言う話になってるんだよね。
使えない符って魔力が抜けているんじゃなくって不良品な可能性もあるけど。
まあ、色々とデータがあるに越した事はないっしょ。