質疑応答
「じゃあ、お父さんの霊を召喚するね。
質問事項は、
1)呪詛や身代わりの術関連の資料はどこにあるのか
2)身代わりの術以外に何か危険な術を生前に施したものが残っているのか
3)顧問弁護士に預けた資料及びこの部屋の隠し金庫にあった資料以外に香奈さんが受け継ぐべき情報はあるか
4)香奈さんの母親の死は自然死だったのか
で良いのね?」
「はい、お願いします」
2番目は私と碧が提案した質問。
そして4番目は香奈さんが知りたがった情報だった。
香奈さんへの父親の感情は向こうに愛があっても無くても微妙なところだったので、知らなくて良いと決めたらしい。だが、母親が殺されたのかだけは知りたいとの事だった。
そっかぁ。
血族じゃ無いから身代わりの術は使えないだろうけど、遺産目当てに殺した、もしくは父親を恨んだ誰かからの攻撃のとばっちりで亡くなった可能性はあるよね。
知ったところで何かが変わる訳ではないが、自分が身代わりの術に使われたと知って以来、もしかしたらと気になっていたのではっきり知りたいとの事だった。
と言う事で香奈さんを媒介に、父親の霊を召喚。
どうやらまだ昇天せずに彷徨っていたのか、あっさり直ぐに姿を現した。
「修司さん。
呪詛や身代わりの術関連の資料はどこなのか、教えて下さい」
現れた霊に命じる。
私が呼び出した霊の使役者なので実はもっと偉そうに命令形で話しても良いんだけど、霊の親族がいる場合って親なり子なりの霊へ命令形で話しかけると感情を逆撫でする事があるんで、基本的に丁寧に話す事にしている。
『我が一族が代々受け継いできた呪詛関連の知識は戦争で燃え落ちたらしい。
後継者だった曽祖父が戦場で死んだ為、高齢だった高祖父から祖父が受け継げたのは身代わりの術だけだったと聞く。
身代わりの術は口伝だったので資料はない』
あっさりと香奈さんの父親の霊が答えた。
へぇぇ。
それなりな陰陽師の家系だったらコネで徴集ぐらい避けられて戦争でも被害なしにすり抜けるかと思っていたが、そこまでは上手くいかなかったらしい。
しかも資料が全部失われたとは・・・。
もしかしたら裏の家業だったから京都ではなく依頼主が多い東京に本拠地があって、空襲で全部焼かれたのかも?
そう考えると、京都の旧家なんかは色々と昔からの資料が残っていそうだねぇ。
戦争末期に慌ただしく空襲に備えて疎開している最中に先祖代々の資料とかは持ち出せないだろうから、東京に移住していた陰陽師の家系は大部分の先祖からの資料を無くしていそうだ。
「香奈さんは術を継ぎたい?」
危険だしクソッタレな術だからこのまま失伝するのが一番だと思うが、一応先祖代々からの遺産と言う事で香奈さんに確認する。
「いえ、要りません。
誰かを犠牲にしなければ生き延びられないような生き方はしないつもりです」
キッパリと香奈さんが断って来た。
うんうん、それが良いよ。
一応父親からのとばっちりが来ても大丈夫な様に、後で碧が効果の高い神社を幾つか教えてあげるから。
「じゃあ修司さん、次の質問です。
何か誰かに危険が及ぶ様な術を生前に施していますか?」
身代わりの術以外は失ったって言うなら他は無さそうだけど、呪師に依頼した可能性はあるから聞いておかないと。
『連絡が取れる親族が死に絶えたから、香奈に身代わりの術を施したが、他は無い』
あっさり霊が答えた。
それなりに生前に感じていたところがあったら、こちらから聞かなくても召喚された霊は禁じていないと勝手に色々と自己弁明とかする事が多いんだけど、それも無いなぁ。
マジで子供を犠牲にしても良いと思っていたのか、それともそれなりに考えがあって自己完結しちゃっているせいで説明する必要性を感じないのか。
ちょっとモヤモヤする。
でもまあ、香奈さんが理由を聞かないと決めたのだ。
私が口出しする問題では無い。
「じゃあ、次に。
顧問弁護士に預けた資料及びこの部屋の隠し金庫にあった資料以外に香奈さんが受け継ぐべき情報はあるの?」
『財産の一覧は顧問弁護士に預けてある。
会社に関してはKRCファンドかカルヌ・ベンチャーあたりに売却提案したら良い値が付くかもしれんな。
騙されて損をしても、その他の資産で生きていくのに困らない程度はあるだろう』
へぇぇ。
隠し財産は無いんだ。
ちょっと意外。
呪詛とか身代わりの術みたいなグレーな術を使う様な人間だったら、絶対に何か隠していると思ったんだけど。
自分が死んだ後の事はそこまで拘りが無かったのかな?
「じゃあ、最後に。
香奈さんの母親の死は自然死だったの?」
あれ、そう言えば交通事故だったりしたら自然死って言わない??
考えてみたら香奈さんの母親の死因が何だったか、聞いてないわ。