契約の方法
「お母さんの遺産がそれなりにあるって事は母方もそれなりの旧家?
だったら退魔師とか退魔協会の事を知っているんじゃないかな。
それだったら父親から呪詛の身代わりに使われていたって説明も信じてもらえると思うから、まずはさっさと電話で連絡して迎えに来てもらったらどう?
その上で、適当にオープンに言える理由をでっち上げて親権を祖父母に移す交渉をして貰ったらいいと思う」
碧が机の上で充電している携帯を指差しながら提案した。
そっか、成功した事業家がついでに死んでもラッキーと思う程の遺産があるなら、確かに良い家の娘さんっぽいよね。
もしかしたら成り上がりの事業家が格を上げる為に旧家の娘と結婚したのかも?
旧家だったら父親よりも退魔師の事をよく知っていそう。
下手をしたら退魔師の事を教えたのが奥さんだった可能性もあるよね。
まあ、旧家の娘と結婚できる程成功していたんだったらその過程で退魔師業界の事も知った可能性が高そうだけど。
呪詛の身代わりに使って血族が殆ど残っていないって事は、それなりの年数を人に恨まれるような行為を繰り返してきたって訳だし。
一体どうやって呪詛を身代わりさせる方法を知ったのか、興味がある。
もしかして、本人に黒魔術の適性があって呪詛の研究を色々とやってきているのかな?
身代わりの術そのものは呪詛返しの転嫁のとそれなりに近い感じだったから、呪詛返しの転嫁を工夫している間に見出した可能性もある。
・・・事業家が呪詛を多用しているとしたらそれはそれで嫌だが。
呪詛を掛けるのは違法なんだけど、証拠の入手が難しそう。
と言うか、呪詛をかけられるなら、退魔協会に頼まなくても返せそうか。
だとしたら父親が呪師であるって事は無いのかな?
もしかして、退魔協会が気が付いていない(もしくは公表していない)だけで、呪詛の身代わりって既知の技術なのだろうか。
知りたいが、知ったところで何か出来る訳でも無いからなぁ。
前世と違ってどれだけ危険な技術を持っていても、国が人を殺して知識を消す事は出来ないのだ。
知識を持つ人間を探す事で下手に知識の情報を広める方が危険だろう。
私だったら記憶を消すのは一応可能だが・・・迂闊にそんな事をして回ったら、人の記憶に干渉出来る能力があるって直ぐに退魔協会や国にバレるだろう。
白龍さまの天罰デフェンスが本気になった国や大組織に対してどの程度の抑止力になるか、あまり試したく無いから迂闊な行動は避けるのが正解だと思う。
「こう、隠しインクか何かで契約書に身代わりになる事を約束するような文言を混ぜる事って可能ですか?」
寒気がするかの様に両腕を摩りながら香奈さんが聞いてきた。
「可能かもだけど、父親に虐待されていたから本人の前で署名するのは嫌だって言って、署名は他人にやらせれば良いと思うわ。
実印を作って登録しておいてそれで捺印すれば、署名は弁護士が代わりにしていたって法律文書としては有効よ。
法的文書と違って判子は血判でもしない限り呪詛関連の効果は無い筈だから、現代日本の文書だったら大丈夫でしょう」
碧が答える。
その点、判子文化な日本って便利だよね。
欧米みたいに署名文化だと他人に代わりにサインさせる訳にいかないから、中々危険そうだ。
電子署名だったらそこら辺も何とかなりそうだから、そっちが広がれば将来的には隠し文言入りの契約書で意図しない呪術的契約を結ばされる人が減りそう?
まあ、自分で自分の名前を書く署名って言う行為が約束する意思を伝えやすいってだけで、約束する意思があれば判子でもヤバいかもだけど。
「一応、父親との関係を切る事が契約の意図だって強く考えながら捺印する方が良いでしょうね。
父親を守るとか、言う事を聞くとか考えながら捺印すると判子でもそう言う方向の約束が交わされる可能性はあると思う」
日本人って判子で契約する意識が強いからね。
私からしてみたら、100円ショップで赤の他人が買えちゃう判子で契約を結べるなんてあり得んだろって記憶が覚醒してからは思う様になったけど、15歳になるまでは署名よりも判子の方が契約書とかでは信頼できると思っていたもんねぇ。
前世では、個人の紋章を掘った印章指輪で自分の魔力で溶かした特殊な蝋に押した判子以外は魔術師の契約として公式には認められなかったから、意外とあっさり署名して魔術契約に囚われた人間は多かったなぁ。
私にかけられた制約魔術だって大元はそれだったし。
まあ、子供は幾らでも言いくるめられるからねぇ。
魔術の適性検査前の子供にはそう言う制約魔術等のかかり方とかを教えないのが社会の決まりだったし。
取り敢えず。
香奈さんは無事に父親から逃れられる事を期待しておこう。
血族がほぼ全滅する程恨みを買いまくっているんだったら、他に身代わりが居ないとなったら意外と早く自滅するかもだし。
ちょっと悪い方向に乞うご期待って感じだね。




