恨まれまくってるねぇ。
7月1日に予約更新を間違えて2日分していました。
ですので一昨日2話更新されていたので両方読んだか、ご確認下さい。
「マジか。
この人、父親の身代わりで呪われてる〜」
親が子供の苦しみを肩代わりしたがるって言うのは良く聞くし、交通事故や事件に巻き込まれて親が致命傷を負った際に心臓を自分の子供に遺すなんて話もドラマや映画で時折見る設定だ。
だが、被保護者である子供がそこまで親を守りたがるってことはあまり無い。
成人した子供が老齢過ぎて臓器移植の候補になれない親に腎臓を一つ譲るぐらいならまだしも、まさか未成年な子供を自分へ向けられた呪詛の身代わりにする下衆が居るとは思わなかった。
まあ、前世の貴族社会では特に娘は政略結婚の道具として当主の所有物扱いされるケースも多かったけどさ。
そうなると、身代わりで呪詛を引き受ける術なんて前世でも知られていたら利用した下衆は多かったかも?
この術、そう考えると実は凄く高度だわ。
「へあ??」
驚きのあまり、碧が変な返事をしてきた。
「まだ高校生になったばかりって話だったよね、今回の被害者。
そんな未成年に命の危険があるような呪詛の肩代わりをさせてるの??
しかも呪詛返しの転嫁じゃなくって自分が恨まれて掛けられた呪詛を代わりに受けさせてるって事??」
執事に聞かせたら不味いと思ったのか、顰めた声で怒鳴りつつ碧が聞き返してくる。
「多分、本人に気付かれない様に何かの書類を署名させたんだろうねぇ。
娘を身代わりにする様な下衆だったら恨まれて当然な行動をしていそうな気がするから、本人的にはこれをやる必要が凄くあったんだろうね」
娘さんは呪詛から解放したいけど、呪詛は返すんじゃなくって最初に呪われるべき人間に送り込みたいぞ。
こんな下衆が呪われてるのは、自業自得なんじゃ無いかって気が凄くするし。
「身代わりに来ていた呪詛を元の呪詛対象に戻すのは呪詛返しにならないと思うよ」
溜め息を吐きながら碧が言った。
だよね〜。
身代わり契約をまず破棄させたいんだけど、どうしようかな。
呪詛の流れを追って細かく視ていったら、呪詛が変な契約に則ってこちらに流れてきているのが分かった。
「ある意味、この身代わり契約って呪詛の一種だよね。
本人を傷つけるんだから」
これを返せないか、頑張ってみよう。
「そうだね!
返してお嬢さんが元気になったら、父親が呪いに掛かって倒れても別の呪いだと思うかも?
祓ったせいで身代わり契約が完了しちゃって、その後にもう一度別の呪詛を掛けられたと思うよ、きっと。
そう思わないにしても、流石に未成年の娘に命に関わる身代わり契約を受けさせて、それを解除したなんてどうしてくれる!とか表立って非難は出来ないだろうし」
碧が頷いた。
うっし。
こんな酷い契約を準備しているのだ。
父親側は呪われる心当たりなんて山ほどあるだろうから、連続で呪われるのも不自然には思わないだろう。
呪詛が辛すぎて意識が朦朧とするかもだし。
身代わり契約を返そうと丁寧に娘さんに掛かっている呪詛を確認していたら、更にびっくりな事に気付いた。
「この子、三重に呪われてるわ。
何でもっと早く返しの依頼が来なかったんだろ?」
一つ一つの呪いは命に関わらない程度っぽい。
もしかして、身代わりさせた父親が死にそうになるまで退魔協会への支払いをケチったの??
一つは多少運が悪くなる程度の微細な呪詛。
歩くとあちこちに足の小指をぶつけまくったり、大切にしていたマグを落として割ったりと言った程度かな。
呪いって掛けた本人の意思も混じるから、軽い悪意なのか、逆恨みなのか、重大な喪失に根付く深い憎悪なのかと言った情報が多少は感じられるんだけど、これは軽い悪意って感じ。
悪人が別の悪人に仕掛ける軽い嫌がらせって感じかな?
転嫁の仕掛けは無いけど、返されてもすぐに消えるぐらいなあっさりした呪詛だ。
こんなのを気軽に送られるってどう言う人間関係を築いているんかね。
次の呪詛は体力が落ちて体が弱くなる呪いだった。
風邪にひきやすくなり、回復も遅れ、疲れも取れにくくなる。
これは何か深い恨みがあるっぽいが・・・誰かが死んだ様な取り返しが付かない喪失感は無い。
転嫁の仕組みも無いし、何か大事な財産とかを騙し取られた恨みで素人が手を出した呪詛って感じかな?
最後の呪詛は体調を崩して発熱すると共に悪夢を見て苦しむ呪いだった。
体調が悪くなる呪いと運が悪くなる呪いが重なって今すぐ死にそうなほど酷くなったが・・・そうでなくても触れるこちらが火傷しそうな激しい憎悪が滲み出ている感じで、誰かが命を掛けても良いぐらいに激情と共に呪っている。
呪詛返しされたら死ぬかもだけど、死んだら悪霊になって祟ってやるって考えてそうな自暴自棄さを感じるね。
転嫁の仕組みもなし。
最近は呪詛返しの転嫁が流行っているらしいのに、3つのどれにも無いとは意外だ。
取り敢えず。体調が悪くなる呪詛は返しておいて、残りの二つは父親に戻すかな?
流石に3つ全部を父親に移したらバレそうだ。
成人男性の体力だったら最後の呪詛でもちょっと重い目の風邪を引いた程度で済むだろうし、ここまで憎まれる様な事をやっている人間って図太くって悪夢も見ないか、見ても気にしない可能性が高い。
前世のクソッタレ王族も、悪夢系の呪詛は殆ど気付きもしない奴らが多かった。
偶にギャアギャア泣き叫ぶ根性なしもいたけど。
そんでもって呪詛の処理が終わったら、碧にお嬢さんの体調を良くしてもらってから覚醒させて変な契約に合意しない様に話をしないと。