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やっちゃう?

「ねえ、契約書ってこんなんで良いものなの??」

青木氏に渡された業務委託契約書の写しを読み終わった私は碧に尋ねた。


ちなみに、嫁イビリ家主の物件は夜に確認しても特に問題は無く、無事契約した。

会社設立の手続きを終わらせて、法人契約にする為に青木氏と家主には数日待ってもらう事になったが・・・どうせ塩漬け物件である。

我々に貸せなければ退魔協会待ち(プラス退魔料金)なので、どこからも苦情は出なかった。


まあ、流石に資本金1万円の設立直後の会社では信用度は皆無なので、私と碧とで連帯保証人として署名を求められたが。


連帯保証人になると最悪の場合は賃貸契約を破棄出来ないのに支払い責任はずっと発生し続けると言う状況になりかね無い。

碧を信じてはいるものの、やはり怖かったから私の分はお金を払って保証会社に頼む事にした。


一応設立した会社の株のうち45%は持っているので会社の意思決定に関してそれなりの権利を有する筈だが、少数株主って重要な決定を反対して止める事は出来ても既存の契約(例えば事務所の賃貸契約)を破棄させる権利は無かったと思うんだよね。


つまり、碧が死んだり騙されたりして彼女の持分が変な人に移転した場合、マンションの賃貸契約を切れずにずるずるとマンションの建て替え時まで家賃を連帯保証人として払う羽目になる可能性だってゼロでは無い。


そうなったら将来に向けての債務に関しては流石になんらかの救済措置はあるとは思うが、面倒だ。

それよりは最初から金を払って連帯保証人契約を避ける方が良い。


それはさておき。

「これで良いのかってどう言う意味?」

碧が聞き返す。


「なんかこれって漠然と当たり前の事しか書いて無いから、私達を騙そうとしたり、詐欺行為を仕掛けようとするのを防いだりしないじゃ無い」

お金が関わる契約が、そんなのでいいのだろうか?


「不法行為はしないとは書いてあるよ?」

碧が契約書の最後の方に書いてあるオマケっぽい項目を指しながら指摘する。


「う〜ん。

前世の契約って実際に拘束力があったからねぇ。

ある意味、裁判に負けさえしなければ契約違反し放題な契約書って言うのに私が馴染めないだけなのかな?」

自分の不安を再分析して、呟く。


寒村時代は契約書なんてモノと縁が無かったから何も感じなかったが、現世の『凄腕弁護士を雇う金があればかなりなんとでも出来てしまう契約書』を見ても安心出来ない。


「え?

契約書って拘束力があるから交わすんでしょ?」

碧が首を傾げながら聞き返す。


「いや、拘束力って言っても、『腕のいい弁護士を雇って裁判で争う資金力があるなら強制出来るかも』ってだけでしょ?

笑っちゃうぐらい緩いじゃん」

経験豊富な不動産の親父どもなんて、学生の我々は絶対に訴えっこないと思って舐めて対応するだろう。

碧パパが抑止力になっているかもだが、青木氏はまだしも彼の知り合いになるとそこら辺も微妙だ。


「えっと・・・異世界だと契約ってもっと拘束力があるの?」

碧が恐る恐る尋ねる。


「そりゃあね。

隷属魔術だってある世界だよ?

契約魔術だってそれなりに強かったから、契約違反は実質不可能だったね」

だからこそ何も知らなかった私は実質奴隷レベルまで雁字搦めにされて、死後の世界に賭けるしか無いと言う状況に追い込まれたのだ。


「・・・もしかして、契約魔術って凛が使える黒魔術の分野?」

碧がワクワクした顔で聞いてくる。


「まあね。

でも、拘束力を持たせるには相手にも魔力の籠ったインクで署名させなきゃいけないから、一方的に知られずに契約で拘束するなんて出来ないよ?」

少なくとも、前世では基本的に誰でも魔力は認識出来た。だからよっぽどうっかりしていない限り、意図せずに契約魔術を交わすなんてことはなかった。


「青木氏なら、ウチに招いて契約書を交わすのは可能でしょ?

お洒落なガラスペンを買ったんで試してみませんかって誘ったら使うと思う」

碧が提案する。


う〜む。

確かに、青木氏を招いて・・・と言うのはありか。

だが、騙し討ちのような契約魔術で悪いカルマを蓄積するのも怖い。

とは言え、契約する相手がこちらを騙したり嵌めたりしないと言う保証が無いのはやっぱり微妙な気分だ。


「・・・やっちゃう?

契約書にちょっと学生らしいナイーブな文言で、悪意ある行為をしたり敢えて見逃したりしませんって約束させる程度だったら・・・それ程非道じゃ無いよね?」


碧がうんうんと頷く。

「ちなみに、そう言う行為をする気があるのに契約したらどうなるの?」


「正式な契約魔術を交わしたら、それに反する行為をしようとすると心臓が痛くなって身動きが取れなくなるの。

ちょっとした悪ふざけ程度だったら痛みに慣れてればそのまま実行出来るけど、やったら10日程度痛みが続くから、やる人はまずいなかったね。

もっと深刻な悪意だったら実行出来る前に痛みで気絶する事が多かったかな?」

前世で聞いた話では、娘の仇を殺すために契約魔術からくる安心感を逆手に取った女性がいたらしい。

彼女は無理矢理痛みを麻痺させる薬を使って復讐を成し遂げたが、その行為の結果として心臓麻痺を起こして死んだと聞く。

仇は殺せたので本人は満足だったのか、死顔は穏やかだったらしい。


こっちでそこまで深い悪意を持つ人間と契約を交わす事なんて無いと思いたいところだね。



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