ダンジョンは・・・
「そう言えば、異なる世界が接触して融合してしまうような事ってあるんですか?」
白龍さまにふと思いついて尋ねてみる。
幻獣や氏神レベルの助けなしに自由に人間が行き来出来るような境界門の発生は限りなくゼロに近いようだが、ラノベによくある設定みたいな『他の世界に近付いた』とか『融合した』とかでダンジョンが発生しまくると言う様な事ってあり得るのだろうか?
魔素が豊かだった魔術師時代の前世でもダンジョンなんぞ無かったが、考えてみたら両方向に行き来が出来る境界門で向こう側が魔素が濃い場合はちょっとダンジョンに近い感じになりそうだ。
まあ、境界門の近くにいる魔物が弱く、徐々に強くなっていくなんて言う都合の良い設定や、ダンジョンそのものサイズが比較的限られて有限であると言う点がダンジョンの中が異世界側であると言う設定にそぐわないが。
『さて。
聞いた事は無いが・・・魔素の薄い世界が幻想界の様な世界に接合したらあっという間に取り込まれて吹き飛んで消えてしまうじゃろうから、気付かなかっただけの可能性もあるの』
あっさり白龍さまが言った。
取り込まれて消えちゃうんかぁ。
確かにエネルギー量が圧倒的に違う存在が直接接触したら、エネルギーが大きい方から小さい方に流れ込む奔流で一気に小さい方が消し飛びそうだよねぇ。
魔術がある世界でもダンジョンは無さそうと言うのは微かに残る厨二病な自分が残念に感じている気がしないでも無いが・・・まあ、回復師の碧はまだしも、黒魔術師の自分ではダンジョンで戦うのも難しいから、どうでも良い事か。
女性が冒険者になって、人の目が無く『魔物に襲われた』と言う理由で帰還しなくても不思議では無い空間に自発的に入っていくなんて自殺行為だし。
「そっかぁ。
境界門の向こうが実質ダンジョンみたいな感じかも?って思ったけど、無理なのね〜」
碧も境界門に関して似た様な想像をしていたのか、ちょっとがっかりした様に言った。
「考えてみたら、境界門に繋がった向こうが比較的問題なく人間が行動できる世界だったら、現地人が居る可能性が高いかも。
そうなると友好的に付き合えるにしても新しい言語を学ばなきゃだし、大変そう」
各世界にどう言う流れで似た様な人類が発生しているのか不明だが、魔術師時代の世界でも寒村時代の世界でも人間の見た目があまり地球と変わらなかったと言う事は、人類と言うのはそれなりに条件が合った世界には同じ感じに発生しているっぽい。
転生の魔法陣が見つかったあの古代文明みたいな超越的な文明が、あちこちの世界に余剰人口を移住させていたのか、神の様な存在が何らかの目的を持って種まき的に人類をばら撒いているのか、それとも全ての世界がパラレルワールドの様な物なのか、原因は不明だが。
地球には猿から進化した軌跡の化石があり、しかも人間の肉体が必ずしも生産にも生存にも最適では無いと言う説もあるのに、不思議だ。
以前読んだSF小説ではタコっぽい生物が宇宙を翔ける知的生命体として一番効率的だと書いてあるのもあったし、それこそスターウォーズやスタートレックの様なクラシックなSF映画に出てくる種族も地球の人類と何かと違いがあったのに。
同じ惑星内ですら黒人、白人、黄色人種とそれなりに見た目も骨格も変わるのだ。
星が違ったらもっと違った感じに進化しても不思議は無さげなので、似たり寄ったりな人間が各世界にいるのって自然発生的な進化では無さそう?
白龍さまに聞いたら何か知っているかな?
白龍さまとかその仲間に、人類が『種蒔き』されていたって聞かされるのもちょっと微妙なので尋ねていないが。
「ちなみに境界門ってどの位の距離を繋ぐんでしょうか?
世界と世界が近かったら、一方から漏れ出る魔素がもう一方の世界に魔素溜まりの様な物を作るかも?なんて気もしますが」
それこそ、魔素溜まりがダンジョンの様なモノになりそうだが・・・まあ、それでも少なくとも都合よく魔物を殺すとドロップアイテムが出るゲームの様なシステムにはならないだろうが。
ある意味、ドロップアイテムが出る様なダンジョンがあるとしたら、それは神レベルな存在が戯れで作った箱庭的な場所な可能性が高そうだ。
『位相が違う世界を繋ぐのが境界門じゃからのう。
距離と云う言葉は正しくないの。
位相が限りなく近くなった場合に世界の融合や魔素の流入が起きるのかと言うのだったら・・・知らんとしか答えられんな!』
あっさり白龍さまが答えた。
「そう言う事って興味は無いんですか?」
碧がちょっと残念そうに白龍さまに尋ねる。
『無いの。
色々と世界を見てきたが、融合したような世界や魔素が一方向へ流れている様な世界は見た事も聞いた事も無いから、あるとしても滅多に起きない現象なのではないか?』
白龍さまが応じる。
少なくともある日突然この世界がどっかと融合しそうになって社会に壊滅的なダメージが生じるなんて事は起きなそうと言うのは、まあちょっと安心だね。
後はどっかのアホが感知も出来ないのに境界門を探そうとして行方不明になったりしなければ良いだけだね〜。