異世界転移か・・・
流石にヤバい細菌がここから広がっても困るので、碧は今回は大人しく退魔協会の職員のお願いを聞くことにした。
と言う事で女性が寝かされているテントへ来た。
「・・・見慣れない菌が勢いよく増えてる様子は無いですね。
ついでに男性の方も確認しましょう」
碧が提案する。
おや。
死体になっても菌って増えるの?
まあ、ペットボトルのお茶とかだって砂糖入りだったりすると雑菌が1日でガッツリ増えるから、暑い時期だと朝に開封して口をつけたのを夜まで放置して飲むと食中毒のリスクがありとかどっかで読んだ気がする。そう考えると今の時期だったら冷やしていない遺体の中で菌が増え続けても不思議は無いか。
人間の免疫システムって死んだら即時シャットダウンするのかなぁ?
菌が増えるのに、それを食うマクロファージは死んじゃってるとしたら死体の中で凄い勢いで過去に感染した菌が増えそうだけど。
それこそ水疱瘡か何かの菌って体の中に潜み続けるから歳をとって免疫力が下がると帯状疱疹になるんだよね?
私って確か水疱瘡はワクチンを打っただけで実際に罹ったことは無いから、大量の水疱瘡ウィルスとかに晒されるとやばく無い??
腰が引けた状態で付いて行き、職員に案内された車ではエンジンを掛けたままクーラーをガンガン効かせ、ドラマとかで見る遺体袋っぽい物体が氷と一緒に後部座席に置いてあった。
腐らせないように苦労してるんだねぇ。
遺体を発見する可能性は境界門じゃなくてもあったんだから、もっとしっかりとした準備をしておけばよかったのに。
点滴を準備していたのは中々良かったが、生きているという楽天的な見通しの対処だけでなく、死んでいたという不幸なケースの準備もしておくべきだったね。
まあ、それはさておき。
碧が微妙に顔を顰めながら車の中に身を乗り出し、遺体袋に手を乗せる。
暫くしてから体を起こしてウェットティッシュを取り出して手を拭いた。
「大丈夫そうですね。
胃と腸が酷い炎症を起こしていますが、何かの菌にやられたと言うよりもアレルギーや毒反応っぽいので、異世界の肉か植物が体に合わなくて下痢になって脱水症状で亡くなったのだと思います」
あ〜。
前世で普通に植物や肉を食べていたし、見た目は極端に地球の人種と変わっている感じはしなかったから、異世界の素材を食べるのがそこまで危険だとは思わなかったけど・・・ダメなのかぁ。
偶然トリカブトみたいに毒性が強い植物を口にした可能性もあるけど。
しっかし、異世界の肉や植物が毒だとしたら、境界門をうっかり通ってしまった人は餓死一択って事なのね。
どっかの雪山に墜落した飛行機の生き残りの話じゃ無いけど、一緒に落ちた人が死んだんだったら暫くその遺体を食べるっていうのも短期的に生き残るという意味ではありかもだけど、精神的なトラウマ的には無しだろうし、死んでなかったのを殺して食うなんて言うのはますます無理だろうし、なんともキツいねぇ。
「じゃあ、女性の方に行きましょうか。
何か食べていたんだったら胃洗浄した方が良いかもですし」
職員が碧に声を掛ける。
「そうですね」
頷きながら碧が職員の後を続く。
ふと、遺体袋の周辺を視るが、霊は憑いていなかった。
死霊って死んで暫くは死体のそばに漂っている事が多いんだが・・・境界門を超えられなかったのかな?
せめて魂になってこっちに戻れたら良いのにと思ったが、まあ魂の転生は別に世界軸を関係なくランダムに起きるっぽいからあんまり関係ないか。
碧達が入って行ったテントに数歩遅れて入ったら、ちょうど看護師らしき人が外へ出てくるところだった。
人払いしたのかな?
まあ、変な動画をネットに上げられたりしたら困るもんね。
誰かがこちらに注意を払って居ないか、確認する術を一応展開してみる。
ちょっとした軽い好奇心程度の関心はあるが、それ以上の意思はないっぽい。
まあ、この術って遠隔で盗聴とかしていた場合に上手く発見できるのか分からないから、絶対じゃあ無いんだけどね。
「何が起きたのか、教えて貰えますか?」
碧が意識を覚醒させたらしき女性にお茶を出しながら、退魔協会の職員が尋ねる。
・・・考えてみたら、行方不明者の聞き取りって警察がするんじゃ無いんだ?
神隠し関連だったら退魔協会の管轄になるのかな?
「彰人さんにちょっとしたハイキングに誘われたのですが・・・やたらと歩き回っていてそろそろ帰ろうと言おうかと考えていた時に・・・突然変な膜みたいのに突っ込んだと思ったら凄い力で何かに引き寄せられたんです。
一瞬気を失ったと思うんですが、気がついたら見たこともない森の中にいて・・・彰人さんが、『やった!異世界転移だ、チートだぜ!!』と叫んでいました」
お茶を飲みながらゆっくり、つっかえつっかえ女性が言った。
おい。
男の方は確信犯かい!!