殺菌は?
碧が辿り着いた時には白龍さまはいつものミニチュアサイズに戻っていて、地面にげっそりとやつれた男性と女性が転がっていた。
どっちも死体って言われてもおかしくない状態だったが、どうやら女性の方に微かに息があるっぽい。
「誰かポカリスエットでも持っていますか?!
もしくは救急用の点滴があるなら持ってきて下さい!」
碧が声を上げている。
衰弱しすぎている時って回復術で出来ることって確かあまりないんだよね。
死なないように多少生命力を貸して、内臓とかがシャットダウンしないようにしてあげる事ぐらいは可能らしいが、人間は他人の生命力で生きていける生物じゃあないから生きるエネルギーそのものが足りなければそのうち死ぬ。
とは言え、水分補給さえ出来れば人間って二週間ぐらいは死なないってどっかで読んだ気がするから、まだ生きているって事は水をゲット出来たのかな?
とは言え、男の方は死んでるが。
有毒な物でも食べたか、頭でも打ったのか。
汚いし窶れているが腐臭はしないからまだ死んでそれ程経っていないのに、残念。
とは言え、女性の方も辛うじて生きてる程度なので水さえあれば二週間死なないって言う情報が本当なのだとしたら、食料がなかったってだけじゃ無い問題があったっぽいな。
どうやら退魔協会の職員の誰かが気を利かせて救急車か看護師を手配していたのか、白衣を来た男性が奥の方から現れて女性の首や目を調べた後に腕を拭いて点滴の針を突き刺している。
碧はそれで満足したのか、すっと立ち上がってこちらにきた。
・・・異世界から連れてきた人間に皆で触れているけど、雑菌とかカビの胞子とか、ヤバいのを持ち込んで無いのかな?
碧がいれば私らは大丈夫だろうが、新種の菌がここからばら撒かれたりしたらヤバいと思うんだが。
境界門って殺菌効果みたいな都合の良い効果があったりしないよね・・・?
退魔協会の職員もこちらへ近づいて来た。
そう言えば、白龍さまから何があったのか聞きたいよね。
「どうもありがとうございました。
あちらはどんな感じだったか教えて頂けますか?」
職員が姿を現したままだった白龍さまに丁寧に頭を下げてお礼を言ってから尋ねる。
『それ程魔素の濃く無い世界だったから、直ぐに死なずに済んだようだな。
境界門のそばに泉があってその水を飲んでいたようだ』
白龍さまが答える。
「ちなみにその世界って人間や魔物が居そうでしたか?」
普通に泉があるような世界だったら魔素は地球より濃いだろう。
だとしたら人間や魔物が居てもおかしくない筈。
『どちらも居るんじゃないか?
もっとも境界門は魔物も通常だったら避けるからの。
お陰で食われずに済んだんじゃろ』
へぇぇ。
境界門って魔物は避けるんだ?
まあ、下手に通ったら魔素が濃くても薄くても命に関わるもんね。
境界門を避ける本能があっても不思議はない。
「ちなみに、こっちに変な虫とか菌とかって入ってきてないか、分かります?」
碧が白龍さまに尋ねた。
お。
そこは碧も気になってたんだ。
『流石に体内の菌を全て殺したら本人も殺しかねないからどうしようも無いが、体外の微細な命は全て排除して来たから大丈夫ではないか?
あの二人が何か菌に感染していたら危険かも知れぬが』
おお〜。
流石白龍さま。
「ちなみに碧って発病する前でも何かに感染してたら分かったりするの?」
碧に聞いてみる。
流石にあんだけボロボロになってるのにレベル4とやらなエボラ熱レベルの隔離施設に放り込まれたらあの女性が可哀想だ。
「そうねぇ、全く免疫がない菌に感染してたら凄い勢いで菌が増える筈だから、分かるかな?」
碧がちょっと首を傾げながら言った。
まあ、その程度で満足しないとだよね。
古来から時折境界門を超えて人や魔物が入って来ているんだから、異世界の菌が入ったとしても人類を滅亡させちゃうような強さではきっと無いんでしょう。
でも。
「ちなみにあの男性が死んでいたのは何が原因か分かる?」
水があったなら普通の脱水で死んだんでは無いはず。
露骨に首の骨が折れてたとか内臓がはみ出てたとかも無かったから、ヤバい菌なんじゃないの?
死体だって感染源になるよね
「彼は脱水症候で死んだっぽかったから、変なものを食べて下痢になったんじゃ無いかな?
菌に感染しなくても、体に合わない何かを食べただけでも下痢って起きるから」
碧が応じる。
「藤山さん。
被害者の女性が何かの菌に侵されていないか確認するのと、彼女を覚醒させて何が起きたかを聞くのを手伝っていただけませんか?」
職員が碧に頼みこんできた。
確かに男性の死因次第ではすぐさま密封バッグにでも入れて焼却すべきだよねぇ。
折角遺骸だけでも戻ったのに、即座に焼却では家族が怒るだろうからそれが必要か否かの確認は重要だ。