トラウマになっていそう
「私も付いていきたいけど、危険ですよねぇ・・・」
境界門の前にきた碧が呟く。
藤山家の諏訪神社にある鳥居はそれなりに大きいので修繕費もそれなりだと思うのだが、大物政治家か事業家のどちらかにとっては大した出費では無かったのか、1時間ちょっと待っていたらあっさり契約書と共に正式なお願いが来た。
『うむ。
多少魔素が濃い程度なら結界で守ってやれるが、流石に空気がない世界だったり溶岩の中だった場合は難しいからのう。
人間は脆すぎるから、やめた方が良いだろう』
白龍さまがちょっと申し訳なさげに応じた。
「ちなみに、境界門の向こうにカメラとかを入れてみましたか?」
退魔協会の職員に尋ねる。
有線で繋いだカメラで映像を取り込み、更に10秒ごとにでもカメラ本体に映像を記録して引き戻したら向こうの様子が分かるのでは無いだろうか。
「残念ながら有線で情報は何も流れて来ず、カメラを引き戻せなかった上に10分後ぐらいに金属製の棒も崩壊してしまいましたので向こう側の様子は不明です」
職員のそばにいた技師っぽい人が教えてくれた。
そう言えば、この境界門は多分一方向に向かって力が掛かっているタイプなんだっけ。
カメラを引き戻せるなら通った人も帰ってこれた可能性は高いよね。
魔力視が出来ない人間には境界門が視えないかも知れないが、取り敢えず通ってきた場所を手当たり次第に歩けば境界門に触れた筈。
何日も行方不明になるなら、生きていたらその位は既に試しただろう。
『まあ、取り敢えず何か見つからんか、探してみる』
そう言って白龍さまがトポンと境界門の中へ入っていった。
あれ、そう言えば巨大化しなかったな。
門自体が小さくて白龍さまの本体サイズだと通れないのかな?
それとも省エネの為?
さて。一応周辺はさらっとしか探さないって話なので10分か20分程度で帰ってくるかと思うんだけど、どうなるかな?
考えてみたら、それこそ向こう側が溶岩だったりした場合、戻ってくる時にこっちに溶岩が流れ込んだりする?
微妙に危険な気がするが・・・まあ、白龍さまが何とかしてくれるだろう。
でも。
「境界門の向こうが海の中だったり溶岩の中だったりしたら、帰りにおまけが流れ込むかも知れないから、一応門の裏側に移動しとかない?」
碧に声をかける。
「確かに。
幻獣や魔物が一緒に通ってくる程度ならうちらでなんとか出来るけど、自然の脅威に霊力は効かないもんね」
碧が頷き、そそくさと境界門の裏側へと移動した。
私たちのやり取りを聞いていた職員も目を丸くしていたが、気がついたらさりげなく荷物を纏めて移動していた。
結局残ったのは何やら偉そうで煩いおっさんとオバサン数人。
紹介されていないから知らないけど、職員達の雑談から察するにどうやら大物政治家と事業家は忙しくて来る暇は無かったらしく、親族の腰巾着が何人か派遣されたらしい。
自分の荷物を動かした職員が何やら言いに行ったが、どうやら来客用に設置されたテントから出るのを嫌がっているのか、偉そうな人達は大声で『何も起きないかも知れないんだろう』とか『確実なんだろうな』なんて言っているのが風に乗って聞こえてくる。
たかが20メートル程度動いて暫く立っているぐらい、自分の命に危険が及ぶかも知れないのだったら確実性のない『一応の為』でもやれば良いのに。
どうやら大物政治家と事業家は金は出す気はあっても本当に神隠しとか境界門があるとは信じていないようだ。
マジで信じていたら、死体確認の為だとしてももう少しまともな人間を寄越すだろう。
そんな事を考えていたら、突然境界門がブワッと広がり、白龍さまの巨体が現れた。
「お。
どうやら海や溶岩の中では無かったっぽい?」
横に移動しながら碧が言った。
「だね〜。
しかも・・・死体も見つかったっぽい?!」
何やら白龍さまの足に物体が握られている。
「いや、ギリ死んでない!!」
碧が慌てて白龍さまの方に駆け寄った。
あ。
本当だ、意識はないけど生きた精神がある。
でも一人だけだね。
4日間強も異世界で生き残るとは、大したもんだ。
トラウマになってないと良いけど。