便利な道具
「ここが洞窟の入り口だな」
昼食後、もう1時間ほど歩いたところで赤木さんが大木の根の裏を回る感じで右に入って行った。
「おっと。
こんなところに穴があるとは」
杉浦氏が驚いた様に覗き込む。
基本的に緩い山を登る感じで来たのだが、所々木の根が凸凹な地形を作り出している。
一応霊視で悪霊や境界門が無いのは確認しつつ歩いてきたが、もしも誰かがちょっとした窪みの中で死んでいても悪臭が無ければ気づかないだろうと思うぐらいに窪みは彼方此方にある。
生きているならば生命エネルギーが霊視に引っ掛かるから分かるけど、悪霊化とか地縛霊化してない死体って言うのは臭い以外では見つけにくいからねぇ。
まあ、野垂れ死んですぐだったら霊が近くを漂っている可能性が高いから、風向きに左右される臭いがどうであれ見つけられる可能性が高いけど。
で、そんな素人丸出しな我々はあっさり洞窟の入り口を見逃していた(碧と杉浦氏の間にあったから、責任は二人にあり!)が、赤木さんに言われて自分たちが歩いてきた地点に目印として棒を刺し、洞窟の中に入ってみた。
「う〜ん、暗い」
入り口から2メートルぐらいは光が差し込むのだが、その奥は歩くのにも支障がある。
まあ、外の明るさに目が慣れているのが悪いのかもだが。
「帰りにどっかのカフェかなんかで充電出来ると良いんだけど・・・」
碧がそう呟きながら携帯を取り出し、カメラのフラッシュライトを点けて辺りを照らした。
私はクルミの目を共有して辺りをこっそり見回しながらゆっくり歩く。
バッグに吊るしたストラップなので視点がちょっとズレるし揺れるのだが、元が猫霊なせいか暗闇でも視えるんだよね。
まあ、単に霊にとって光は必要ないってだけなのかもだけど。
「随分と深いですね」
自分の携帯を取り出して足元を照らしながら蓮クンがコメントする。
「元々あった穴を補強して防空壕にした洞窟なんだ。
だから入り口の辺は所々コンクリートの跡が見えるし、柱もある。
奥の方は自然な洞窟なんであまり壁や天井に触らない方がいいぞ」
赤木さんが教えてくれた。
つうか、第二次世界大戦の終戦間際に慌てて作った防空壕だったら、補強の品質もたかが知れてるだろうから入り口付近もあまり壁や天井に触れない方が良いんじゃないかね?
それはさておき。
視野を共有して何とか歩いているのだが、何分視野の持ち主は元猫なクルミなので、狭い穴とか窪みにばかり注意が行きがちで歩きにくい。
『これを見て』とか『あの人を追いかけて』みたいな命令があったらそれに従ってくれるんだけど、『視界を共有させて』だけだと自分が興味がある物を優先して見るんだよねぇ。
虫っぽい生き物も動きがある度に興味津々で注視していて、かなり背筋がゾクゾクするんだけど〜。
『碧、G避けは起動中だよね??』
念話で確認する。
暗くてジメジメしたところって虫が多いんだよね。
幸い高さが足りないのか場所が悪いのか知らんけど蝙蝠はいないみたいなので、糞を食べる虫がいなくて極端に虫類だらけって訳ではないみたいだけど。
『勿論よ!!
蚊と蝿避けも完備してるわ』
碧から心強い返事が来た。
ムカデ避けもあったら更に心強いんだけど、都合よくムカデをゲットできなかったんだよねぇ。
碧の実家なんかに時折出没するらしいから、源之助を連れて行った時に捕獲してくれたら良いんだけどなぁ。
とは言え、根っからの都会っ子な源之助にムカデをキャッチ出来るのかは微妙に不明だが。
取り敢えず、碧の虫除け魔道具カードの有効範囲からは絶対に出ない様にしようと固く心に誓いながら周囲を見回す。
『うん?
ちょっと今の右下の方をもう一度見て』
クルミに頼む。
『ガッテンにゃ〜』
視点が右下の床の方に戻る。
「どうしたの?」
床にしゃがみ込んだ私に碧が聞いてきた。
「なんかここ、石が嵌められてるっぽい感じじゃない?」
凸凹で分かりにくいが、幅20センチに高さ10センチぐらいな四角い線が壁際にある様に見えたのだ。
「・・・確かに?」
携帯のライトで私が指で引っ張ろうとしている周りを照らしながら碧が言う。
イマイチ納得していないっぽいぞ。
指では上手く動かせないので、亜空間収納に入れてあったマイナスドライバーをバッグから出した様に見せて取り出し、隙間に差し込んでぐりぐりしてみる。
「ドライバーを仕事に持ち歩くべきなんですか?」
蓮くんが不思議そうに聞いてきた。
「部室の椅子がガタついていたのの修理にと思って鞄にいれて、そのまま出し忘れてたの」
と言う名目で持ってる自衛用の武器だ。
ペンより長いししっかりしていて何かをこじ開けるのに使える可能性がある上、見た目は無難だからね。
『うっかり入れたまま忘れてた』作戦だ。
ナイフと違ってこれなら過剰防衛にはなりにくいだろう。
さて。
石がジリジリと動き始めた。
後ろからムカデとかが出てこないと良いんだけど・・・。