経済的効率
「しっかしさぁ、ネットってプライバシーを侵害されちゃうとか、変なサイトのリンクをクリックしたせいでPCがウィルスに汚染されるとかだけでなく、こんな罠みたいのもあるんだねぇ」
スイーツ食い放題でたっぷりケーキやムースやパイ諸々を食べて帰り、ちょっと苦しい腹を抱えてソファに身を投げ出していたら碧がしみじみとと言った感じに呟いた。
「だねぇ。
変なリンクにクリックしてヤバいプログラムをダウンロードしちゃうとか、クレジットカード情報を安易に入力して詐欺に遭うっていうのならまだある程度は自衛出来るけど、単なる綺麗な景色の紹介だと思って見て参考にしたら命に関わるなんて、怖すぎる」
思わず溜め息が漏れる。
恐ろしい事に、あの悪質なウェブサイトで紹介されていた絶景はどれも綺麗だったんだよねぇ。
普通にどっかに行こうかな〜と思っている時に見かけたら行き先として選んでも不思議はない程に。
それがお勧めルートに行ってみたら悪霊憑きになる上に下手したら自殺へ追い込まれるかもなんて、悪質すぎる。
「考えてみたらさぁ、買い物する時とかは口コミサイトで商品とか売っているショップの人気や苦情に関して調べるけど、旅行での行き先とかってあまりそう言うチェックはしなさそう。
ホテルやレストランなら口コミを調べるかもだけど、綺麗な風景の場所なんて変なサイトに誘導されたらマジでヤバいかも」
碧がそっとブラッシを取り出して、道を歩く人(多分)を出窓からじっと見つめている源之助の脇腹あたりに優しく当てながら言った。
「海外だったら下手したら人身売買組織とか、身代金目当ての誘拐犯とかに捕まりかねないかもね。
ウチらじゃ日本語かよくて英語のサイトのしか読めないから、海外の情報って限られちゃうだろうし」
最近は日本語への変換も翻訳プログラムでかなりスムーズに出来る様になったって聞くからねぇ。
適当に訳してバイトの学生やフリーターにでも最終チェックをさせたら案外と簡単に辺鄙な誰も行かない様な場所を良さげに紹介する日本語サイトが出来上がりそう。
口コミコメントみたいのも適当にでっち上げれば、比較チェックして調べたつもりになってノコノコと罠にハマりに行く日本人もそれなりに出てきそうだ。
「秘境っぽい人の少ない国立公園とか、『知る人ぞ知る隠れ家的レストラン』とか、試着室が必要な洋服の店とかだったら簡単に騒ぎを起こさずに誘拐出来そうだよねぇ。
日本人って本当の富裕層はそこまでいないだろうけど、数万円のスマホを狙って殺される様な国だったら数十万円程度なら簡単に払える家族がいる日本人なんて良いカモになりそう。
今だったら暗号資産で払わせれば手軽かつ安全にお金を受け取れそうだし」
銀行振込とかだったら足がつきやすいし、家族が現金を持ってこいなんて言ったら警察か大使館に相談されそうだが、数十万円をビットコインで払い込めば解放する程度だったら家族も『警察に言ったら殺す』と脅されれば被害を訴えないかも?
そう考えると、日本人がもっとお手軽な誘拐のターゲットになっていない方が不思議かも。
「う〜ん、でも人間を実際に誘拐して監禁したら、数日で解放しても何人かやれば捜査が入るからウェブサイトも拐う場所も刷新しなきゃでしょ?
1人あたり数十万円じゃああまりペイしないんじゃない?
遺体すら出てこないタイプの犯罪の方が効率的そう」
碧が怖い指摘をした。
殺人事件になれば警察も本気で調べるが、遺体がなければ行方不明、若者だったらどっかにしけこんでイチャイチャしているんだろうと暫くはまともに取り合って貰えない可能性もある。
確かにそう考えると、いくら殺さない方が見つかった際の処罰が緩くなるとは言え、殺しちゃう方が効率的なのかも。
「なんかますます海外旅行に行く気が失せた」
碧は数少ない実在する氏神さまの愛し子として国を出たら絶対に狙われるだろうし、以前ならどこにでもいる若い女ってだけだった私も今なら碧のハウスメイトって事で彼女を誘き出す餌として魅力的そうな気がする。
「なんかこのサイトをみたら国内旅行すらちょっと微妙に感じてきた」
溜め息を吐きながら碧が合意した。
うむ。
旅行は、秘境とか絶景とか知る人ぞ知る系には近寄らず、有名な温泉とか美術館とかに行く様にしよう!