疲労回復が一番?
深く息を吸い込み、周辺へ知覚を広げてここら辺に居着いている霊を一体ずつマーキングしていく。
滅多に居ないけど、通り掛かりの誰かの守護霊とかを巻き込んで除霊しちゃったら悪いからね。
未練があって成仏しなかった霊は早いところ昇天した方が良いのだが、格が高い霊が子孫の守護霊っぽい事をしている場合でも、ごく稀に散歩っぽい感じでふらついている事があるみたいなんだよねぇ。
子孫が寝ている間とか、デートで海辺に来て彼女(もしくは彼氏)といちゃついている時とかなんかにちょっと散策に出ているのでは無いかと勝手に想像している。
そう言う守護霊モドキな珍しい霊をうっかり祓っちゃったら悪いし、格が高い霊を祓おうとすると魔力が沢山必要だしなので、しっかり除霊対象をマーキングして区分けしておく方が無難なのだ。
自治体の方でここに来るメインな道路の修理工事をスケジュールして通行止めにしてくれたおかげで、今日は誰も来ていない。
比較的人気なスポットらしいから幸いなことだった。
お陰でウチらはかなり辺鄙な脇道を使う羽目になったが。
まあ、諸々の作業も観光客っぽい雰囲気で景色を見入っていると誤魔化すのも可能だけど、霊感がある人間とかだったら何かを感じるかもだから誰もいないに越したことはない。
下手に携帯で動画とか撮られたら何が映るか分かったもんじゃないし。
一応、単なる魔法陣は携帯のカメラには映らないようだが、除霊とか浄化では力を多めに込めるからね。
準備ができたので、魔法陣に魔力を流し込んで除霊する。
どの霊も特に抵抗することなく天へと消えていった。
自殺霊は拗らせる事が多いから、タダでさえ自殺というカルマ的にマイナスなことをしちゃったのに、更に祟って他の人まで自殺に誘い込んでいたら来世が大変な事になる。
あまり罪を犯さずに昇天できて、良かったね〜。
本当なら碧に送って貰えれば更に良かったんだろうけど、ここら辺一帯の浄化と合わせると必要な魔力が多くなり過ぎるので我慢してもらいたい。
・・・考えてみたら、どれかの霊に紐付けしておいて、後で召喚して自殺した霊は昇天後にどうなるのか聞けたら興味深かったかも。
あまり覚えていない可能性は高いが、少なくとも死んだ記憶が全く無いそこら辺の宗教家相手に問答するよりは意味のある行為だろう。
ちょっと失敗したかな〜。
まあ、興味本位に霊を召喚するのはあまり褒められた行為ではないし、親族以外の召喚は違法行為らしいから、間に合うタイミングで思いつかなくて良かったと考える事にしよう。
除霊が終わり、ふうっと息を吐いたら今度は碧がすっと前に出てきて祝詞を詠いあげ始めた。
マジでこの祝詞で発揮される碧の力って綺麗だよねぇ。
これを魔石とか魔道具に閉じ込めて再現できないのが本当に残念だ。
「はい終わり。
どのくらい保つか判らないけど。
考えてみたら、人避け結界みたいので崖の縁に近づきたくなくなる効果を付与できないかな?
極弱いのだったら聖域の石とかを動力源にしたら暫く効かない?
折角こんなに綺麗な場所なのに、自殺に使われて悪名が付くのは残念だよ」
碧が提案してきた。
「う〜ん、アイディアそのものは賛成だけど実際にやるのは難しいかな。
自殺を考える様な極限状態って個人差が大きいから、どの方法だったら効くって言う様な普遍的な解が無いんだよねぇ。
人が寄らないようにしたら人気がない事に安心しちゃう人もいれば、恐怖感を感じる様にするとそれで却って振り切れちゃう人も居たりするし、落ち着く作用を付与させると鬱の人なんかは更に落ち込んだりする事もあるしで、『こうすれば自殺防止出来る』って言う対処方法が無いらしいんだよね」
それこそ強力な認識阻害結界で崖があるって見えないようにしたら飛び降りようとする人は居なくなるだろうが、一般の観光客や景色が好きなローカルの人にも見えなくなるのは困るだろう。
「あ〜成程。
個別対応じゃ無いとダメなのか」
碧が残念そうに言った。
「前世では黒魔術ってカウンセラーっぽい使い方もしたから、一通り理論は教わったんだけど・・・要は安易に一般論的な対応をするぐらいなら手を出すなって言う感じだったからねぇ。
相手を見ないで事前に設置するタイプの対応では無理だね」
まだ碧が白魔術で疲労回復の結界でも設置出来たらそっちの方が良いかも。
大抵の自殺を考えている人間って何かの悩みに囚われて碌に食事も睡眠もとれずにふらふらな状態になって視野狭窄状態に陥っている事が多いらしいからね。
少し肉体的疲労がマシになったら、一歩下がって状況を見直す余裕が出来る・・・かも知れない。
取り敢えず確実にウチらに出来る事と言えば、依頼完了の報告の際に退魔協会経由でお地蔵様でも設置してはどうかと提案する程度だね。