大問題だよね
「今度は茨城の向こうの方かぁ。
ちょっと遠いし、バンを借りて源之助も一緒に連れて行ってどこかの温泉宿にでも泊まってみる?」
退魔協会からの依頼の電話が終わり、メールで届いた詳細を見ながら碧が提案してきた。
「夏休み中だし、ありかも?
・・・いや、考えてみたら今の時期だとエアコン稼働させ続けないと車の中が暑すぎて熱中症になるんじゃない?」
最近は夜になっても窓を開けると暑い風が吹き込んでくるせいで、夜通しリビングでクーラーをつけている。
お陰で寝る際に寝室のドアを閉められなくなったが、幸い源之助も育って大分と落ち着いてきたせいか朝は諦めて碧のベッドに飛び乗って丸くなって一緒に寝ているので、それ程は安眠妨害に遭っていない。
ベランダからくる風が暑いのって周囲の部屋の室外機のせいな気もするから、周りが開けた駐車場だったら大丈夫かも知れないが・・・駄目だったらヤバイだろう。
「車ってエンジン切ってエアコン使ったら直ぐにバッテリーが上がっちゃうよねぇ。
かと言って夜通しエンジンを動かしていたらガソリン代が凄いことになりそうだし、下手をしたら宿の人に注意されるかも知れないか。
じゃあ、頑張って日帰りだね!」
碧がタブレットで乗り換え案内のアプリを立ち上げながら言った。
まあ、青森だって日帰りで行けなくは無いのだ。
ちょっと時間が厳しいだろうが何とかなるだろう。
1日で終わらなければ通えば良いんだし。
宿泊費よりは交通費の方が安いだろう。
多分。
「そう言えばさ、ラノベなんかではアンデッドって回復ポーションで退治できるケースもあるけどどうなのかな?
私の力が悪霊に対して特効あるなら、同じような結果を齎すポーションも効きそうじゃない?」
タブレットを弄りながら碧が聞いてきた。
今度は呪詛返しじゃなくて悪霊祓いだから実験したいのかな?
「前世では聖水で作ったポーションはアンデッド対策に使えたけど、実は錬金術師製のポーション瓶にいれて有効期限を伸ばした聖水を直接かける方が安上がりでかつ効果が高かったね。
普通の井戸水とかで使った安いポーションは目に見えるは効果ないって聞いたなぁ。
だから碧が魔力を注いだポーションなら効果がある程度あるだろうけど、私が作ったのは駄目じゃない?」
ヨモギに浄化効果があるなら話は別だが。
前世でも宗教とは関係なく浄化効果がある植物とか現象はあったから、現世だって効く植物があっても不思議はない。
「って言うか、浄化効果のある植物って何か知られている?」
古くから退魔業界に関わってきた旧家だったら何か伝わってないのかね?
「退魔師はあまり何も考えていない脳筋が多いから、霊力をぶつけてなんぼって感じがあるからなぁ。
もしかしたら菊とか蓮とか彼岸花とかに悪霊化を抑える効果があるかも知れないけど、効果が本当に『ある』って言う確定情報を聞いたことはないね」
碧が少し首を傾げて考えてから答えた。
そっか。
考えてみたら祖母のお墓参りに行った時も、花屋でお墓参り用の花束を頼んだら故人が好きだった花は何ですかって聞かれて、何か決まりがあるのかって尋ねても気持ちの問題ですから的な事を言われたもんなぁ。
「まあ、レイスもゾンビもスケルトンも出てこない世界だからね。
ちょっと悪霊が嫌がる花があっても誰も気付かなかったんだろうね」
前世では物理的に体がないレイスですら普通の人間で視認出来たから、レイスが嫌がる植物とか現象は目撃される機会が多かったし、襲われる側の一般人も必死で観察していた。
今世では霊感がない人間にはほぼ視認出来ない悪霊しか実質存在しないので、その悪霊が何かを嫌がっても一般人には見えない。
悪霊が見えている退魔師は退治するのに忙しいから悪霊の細かい行動なんぞに注意を払っていないだろうし、例え何かを避けているのに気付いても自分の能力で祓う方が早いし収入に繋がるということで無視しただろう。
そう考えると、対アンデッド特効がある物を開発できても使う人が居ないから、無駄だね。
「そっかぁ。
じゃあさ、凛の能力で超人的なスピードで動いて戦ったりって出来るの?
私の能力だと骨や筋肉を丈夫には出来るし、いざとなったら神経を麻痺させて痛みを感じないようには出来るけど、結局戦いにはあまり役に立たないんだよねぇ」
碧がふと思いついたように別の点を尋ねてきた。
「へぇ、骨や筋肉を強く出来るんだ?
羨ましい。
黒魔術師の能力だと動体視力を強めたり、反射速度を速くしたりはできるけど、筋力や骨の強度は瞬間的にしか上がらないから無理やり体を早く動かそうとしたりすると下手をしたら骨が折れたり腱を断裂したりするんだよねぇ。
まあ、相対的には相手の動きをじっくり見極められるから攻撃を避けるのは上手くできるけど、こっちから攻撃するのにはかなり限界がある感じ」
本当に武道を極めれば、こちらの力が弱くても急所をぐいっと上手い事一撃する事で相手を倒せるんだろうけど、そこまでは鍛錬する興味がないし、才能もイマイチだったからねぇ。
一応高校時代に合気道や薙刀を習った際に反射速度を上げての近接戦闘モドキの鍛錬は少しはしたけど、結局相手を倒すのは武術よりも魔術の方が楽だと言う結論に達した。
「ふ〜ん。
凛と私の能力を合体できたら無敵なスーパーヒーローもどきが出来そう」
碧が笑いながら言った。
「動体視力と反射速度を早める術を碧に掛けるのは可能だから、それで碧が体を強化して夜な夜な街をパトロールして不埒な人間に正義の鉄槌を下して回る?
認識阻害結界の魔道具カードも貸すよ?」
最近は半グレとか何とか言う、一般人を食い物にするようなタチの悪い人間も増えているらしいし。
「・・・いや、止めとく。
無敵のヒーローにはちょっと心が惹かれるけど、体を丈夫にすると慣れるまでは疲れる上に体重がやたらと増えるんだよねぇ」
ため息を吐きながら碧が辞退した。
体重が増えるのか。
それは大問題だね。