もっと自助努力で頑張ってよ
「藤山さんって回復術が使えますよね?
回復させる事が出来る人間はその逆も出来ると聞いた事があります」
青木氏が真剣な顔で碧を見ながら言った。
「甥御さんの手か足の骨を折りたい程度だったら適当にそこらへんのごろつきを雇って襲わせれば良いのでは?
やり過ぎちゃって怪我が想定以上に酷かったら、適当に一部治すぐらいはしてあげても良いですけど」
碧が提案する。
「出来れば、確実に会社に暫く行けない状態にしたいので、水疱瘡とか風疹に掛かるように出来ませんか?
インフルエンザだと最近は症状を抑えられる薬があるので、本当ならば出社しちゃ行けなくても発熱していなければ出てこいって言われて行ってしまいそうなので」
思い詰めた様な顔で青木氏が言った。
まあ、インフルエンザって風邪のちょっと酷いバージョンって印象だからねぇ。
医者にどう言われようと一週間真面目に家で休むかどうかは微妙だろう。
とは言え、症状をがっしり抑える薬って初期の時に投与されなきゃいけないんじゃなかったっけ?
そんなブラックなところで働いていたら、高熱で倒れるまで気付かずに無理をするせいで特効薬を使えない状態になるんじゃないの?
それとも今では酷くなってからでもガッツリ症状を抑えられる薬が出てるのかな?
碧のお陰かここのところめっちゃ健康で、最近は風邪すらひかないのでそこら辺の情報は疎くなってるんだけど・・・どうなんだろ?
「水疱瘡は罹ったことがあるなら帯状疱疹になって下手をすると後遺症として神経痛が残るし、風疹はうっかり妊婦に移したら胎児の命に関わるのよ。
人に病気を願うなんて危険だから、睡眠導入剤でも盛って『目が覚めない』って事で救急車でも呼んではどうかしら?
眠った後に2日ぐらい目覚めない様にする協力程度ならしても良いけど」
碧が譲歩する。
と言うか、怪我ならまだしも病気って逆回復で齎せるの?
都合よく病原菌とか腫瘍が体内にあるならそれを育てたりも出来なくは無いだろうけど、それだって下手をしたら薬剤耐性菌になったりして、ヤバくね??
そう考えると、病気系の逆回復に特化した白魔術師って実は疫病をもたらす悪魔のベルフェゴールみたいな存在になれそう。
下手をしたらアンデッドの軍隊を率いる死霊魔術師よりも人を殺せそうだ。
確か、黒死病で中世ヨーロッパの人口の3分の1かそこらが死んだとかで、死者数は何千万代だったって話だから、前世のどこかの国を一つ滅ぼすのよりも死者数は多そうだ。
「何かもう殆ど洗脳状態で、ドクターストップが掛かっても法律で禁じられているとでも言うのでない限り無理に会社に出社しそうなんですが・・・」
青木氏が困った様に言い募った。
いや、そこら辺は頑張って説得しなよ。
「2日ぐらい眠りから醒めない様にしたら、原因不明だけど危険かも知れないって事で医者側が退院を許さないでしょ。
卒中か何かかって色々検査をされまくってお金が掛かるかもだけど、ついでにブラックな状況で働き続けて酷使された体の不調が分かって良いでしょうし。
その間に近所の労働監督局にチクって誰か話を聞きに行かせれば、少なくともドクターストップが掛かっているのに無理矢理退院して会社には行こうとしないんじゃない?」
イラっとしてきたのか、ちょっとぞんざいに碧が応じる。
2日寝ればある程度疲労も回復するだろうし、本人だって2日間目覚めなかったって聞いたら『ヤバいかも??』って危機感を持つだろう、
それでも頑固にブラックな会社へ行こうとするならもうそれはどうしようも無いんじゃない?
救われたいと思わない人間は救えないのだ。
本人の意思を無視して無理やりにでも会社を休ませたいなら、誰かを雇って襲わせるべきだね。
安易に他者の便利な能力に頼るべきじゃあ無い。
じゃなきゃ会社の方を手を回して潰すとか。
色々と伝手のある青木氏だったら、そんなブラックな労働環境じゃ無いとやっていけない会社なんて案外とあっさり潰せるんじゃ無いの?
それとも、現時点で潰す手配をしているところでそれに甥が巻き込まれない様に隔離しようとでもしてるのかね?
だったら諸悪の根源たる会社のトップを襲撃させて足止めして、その間に労働監督局にでも調査に入らせたら良いんじゃ無いかね?
強欲なアホだったらそれなりに資産を溜め込んでいるだろうから、ちゃんと被害者(社員)に賠償できる様、金を持ち逃げできない様にすべきだと思うね〜。
どちらにせよ。
あまり碧に頼り過ぎずに頑張れ!