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隠密型分体

悪霊・・・はまだしも、普通の霊はあまり霊力や魔力の強い人間に自ら関わろうとはしない。

動物の霊なら声をかければ案外とあっさり応じるが、人間の霊はぼんやりしていて声を掛けても気が付かない事も多い。


そして白龍さまどころか炎華でも普通の浮遊霊にとってはエネルギー過多なので、彼らには絶対に近寄ろうとしない。


なので、ちょっとした霊への聞き込み用に私は合宿でゲットした石英を使って聞き込み用分体をクルミと作った。


退魔師として働くにしても、背景を知っておくといい時とかもあるだろうから、聞き込み需要はそれなりにあると思って藤山家での合宿の後に作り始めたのだ。


実物大よりちょっと大きいミツバチのオモチャに石英を埋め込み、認識阻害の術を掛けてある。

認識阻害がちゃんと機能していたらミツバチでなくても良いのだが、一応何らかの理由で人の目に映っても極端に違和感を持たれない様に飛んでいても即座に殺虫剤を吹き付けられないミツバチにしたのだ。


雀あたりも考えたのだが、あれが室内にいるのおかしい。

蝿とかだったら殺虫剤やハエ叩きで襲われる可能性がある。

トンボも室内にあまりいて欲しくはないし、季節感がかなり限られている上に、下手をしたら子供に狙われかねない。


その点ミツバチなら比較的無難ではないかと思い、昆虫フィギュアの店を回って適度なサイズでリアルっぽいのを探したのだ。


ちなみに研修中に退魔協会の中をフラフラと飛ばしたが、特に誰にも目をつけられた様子はない。

あまり興味深い暴露話も聞けなかったが。


それはともかく。

元が猫の霊であるクルミの分体なので、白龍さまの聖域でゲットした石英のお陰で魔力たっぷりでも脅威度は低く、そこら辺の浮遊霊は警戒しない。


なので不動産屋の青木氏に案内されながら、情報収集させる為にクルミの隠密型分体を呼び出す。


悪霊がいたところで、追加で構造的問題も無いとは限らないのだ。

問題点は全て調べておきたい。

まあ、猫や鳥の霊が人間が問題とするポイントを理解してくれるかは微妙な点なのだが。


猫好きだった人間の浮遊霊が彷徨いて居てくれたら一番情報を得やすいけど、流石にそんなピンポイントな希望はそうそう叶えられないだろう。


そんな事を考えながら、浮遊霊への質問のポイントをクルミに念話で説明しながら青木氏の後をついていったら、最初の建物が目に入って・・・思わず顔が引き攣った。


15階建ての新しいマンションだが、殆ど人が入っていないのかカーテンが掛かっていない窓が多い。

まあ、霊視の術を掛けなくてもうっすらと見える黒い瘴気を鑑みると、普通の人ならここに住んだら1、2週間で健康を害しそうだ。


「・・・流石にこの物件は退魔協会に依頼を出すべきでしょう。

例えファミリー向けの部屋にしても、一部屋の家賃でどうこうなる様なレベルの話じゃ無いですよね?!」

マンションの敷地に入ろうとすらせずに、碧が呆れたと言った様子で青木氏に宣言した。

一体どんだけ酷い因縁のある土地を使ったの??

流石にこれをお手軽価格で祓ったら退魔協会から睨まれるだろう。


「あぁ、やっぱりそうですか?

私もここに来ると首の後ろがひっきりなしにゾクゾクする感じなんで、売主にも退魔師を雇うべきと言っているんですけどねぇ。

分譲先の買主が内覧会で来る度に手付金放棄でどんどんキャンセルするんで、『折角だから引き渡し拒否の人が出揃ってから』なんて欲の張ったことを言っていたらなんか手が付けられない感じになっちゃって。

今では売主も寝込んじゃってますし・・・」


困りましたね〜という感じに頭を掻きながら青木氏が応じた。

売主は確信犯かい!

寝込んだと言ってもこの口振りなら意識はあるのだろう。

だったらさっさと退魔協会へ依頼を出しなさい。


取り敢えずここは問題外という事で次の物件へ。

こちらは4階建ての住宅地の中にある低層マンションで、外は中々良い感じだった。


『霊視!』

自らに術を掛けて見回すが、特に地縛霊や穢れは目に付かない。


『適当な浮遊霊にここの部屋の住民が何に関して文句を言っていたか、聞いてきて』

クルミに頼み、青木氏に案内されながら部屋の中を見て回る。


「綺麗なもんですね〜。

築何年ですか?」

碧が尋ねる。


「3年ですが、買主は購入後直ぐにシンガポールへ転勤になりましてね。

年末年始とかお盆とかに帰ってくる時だけ使っていたらしいですよ。

分譲用なので台所やお風呂場の設備もほぼ最新式ですし、いい部屋でしょう?」

自慢げに青木氏が答える。


「で、そんな素晴らしい部屋が何故私に勧められるんでしょう?」

碧がジト目で青木氏に尋ねる。


「なんか夜中に怪音がするらしいんですよ。

お陰で買主も面倒になって最近は実家に泊まっているとかで。

取り敢えず本社に戻ってきて本腰を据えて調べられるまでは貸し出そうとなったんですが・・・皆さん変な音がすると言って数週間で出て行ってしまうんです」


『あそこの壁の向こうから音がするんにゃって』

ミツバチ版クルミが聞き込みから帰ってきて報告する。


ふむ。

壁の向こう、ね。

霊障だったらそう言うだろうから、構造欠陥か他の住民が原因かな?


「夜中って何時ぐらいですか?」


夜の9時程度だったら残って確認もありだが、それより遅いなら嫌だな。

まあ、最初から何も言わずにクルミの分体を残して行って調べさせるのがいいか?


「日によって違うらしく、大体23時ぐらいから明け方まで。

音がしない日もあるらしいです」

眉をハの字にしながら青木氏が答える。


「これって多分霊障ではなく、構造欠陥か他の住民の立てている音ですよ。

原因が分かって解決できた場合でも、我々に安く貸してくれるんですか?」

碧がズバリ尋ねた。


そうなんだよねぇ。

構造欠陥にせよ住民にせよ、原因が解明出来たら我々ではなく、不動産屋が間に入って問題を解決するだろう。

そうなったら我々に安く部屋を貸すインセンティブは無くなるんじゃない?




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