勝ち組
「そんじゃあ、汗疹!」
碧が私の腕に手を当てて、適当に唱える。
汗疹って背中とかブラで汗がたまる胸の下の辺とか、肘の内側とかに出来る事が多いんだけど、普通に前腕にも出来るんだねぇ。
流石一流白魔術師。
腕の良い回復師の恨みを買うのは絶対に避けろって前世では密かに言われていたけど、確かにこう何でもありなのを見るとちょっと怖いかも。
ある意味、こう言う『怖いかも』って言う印象を濃くしたのが黒魔術師に対する前世の一般人からの印象だったんだろうなぁ。
白魔術師の一般的なイメージは癒しを担う回復師だったのに対し、黒魔術師のイメージは死霊術師とか色々歴史でやらかした極悪魔術師だからねぇ。
実際の対面した時の危険度は変わらなくても、イメージが違いすぎる。
それに1対1だったら白魔術師の方が黒魔術師よりも危険なぐらいだけど、大量虐殺となったらアンデッドの軍を率いて国を滅ぼした事もある黒魔術師の方が圧倒的に危険だし。
とは言え。
歴史には何も詳細は残っていないけど、国を滅ぼすだけの熱意と情熱を賭けて恨んだってことは・・・その滅ぼされた国が黒魔術師にそれなりに酷いことをやったんだろうとは思うけどね。
それはさておき。
「じゃあ、この符に魔力を込めて発動すれば良いんだね?
ちなみに患部に当ててないとダメかな?」
碧の作った符の試作品を手に取り、確認する。
どうせならどんな風に変化が起きるのか自分の目でも見てみたい。
「多分近くで『ここを治す』って思いながら発動させれば大丈夫な筈。
ダメだったらもう一枚あるから、やってみて」
碧がちょっと首を傾げながら言った。
そうだよね、患部に当ててなきゃダメだったらぐちゃぐちゃな傷口とか、物理的にタオルとかを押し当てて出血を抑えている場合なんかに微妙に困るだろう。
と言う事で、汗疹の斜め上ぐらいに符を構え、魔力を通して発動する。
すうっと優しく風が撫でたような感覚が流れ、次の瞬間には汗疹が綺麗さっぱり無くなっていた。
「凄い!!
一発じゃん!
でもこれってお守りにする場合はどうやって使うの?
常時起動にしていたら直ぐに魔力切れになるよね」
自分用には是非とも何枚かこの符を確保したいが、碧の収入源としてはどうやって使うのだろうか?
「肌に微細な癒しの力を流し続ける事で汗疹にならない様に出来るんじゃないかな?
ニキビもアクネ菌を肌が駆逐できる様に調整するつもり。
だからまあ、ニキビ体質の人だったらしょっちゅう買い替えなきゃいけないかも」
碧が肩を竦めながら言った。
「なるほど。
でも、だとしたら特に肌に問題が無い人間が持っていたら、めっちゃ綺麗な玉肌になりそう。
普通のお守り価格で売り出したら勿体無いかも。
一週間ぐらいの有効期限な勝負用を普通のお守り値段で売り出して、長期用のはもっとずっと高くしたら?」
効果のある基礎化粧品の値段を考えたら、普通のお守り価格で売ったら却って『安かろう悪かろう』で効果を疑われそうだ。
「あ〜確かにね。
まあ、常時展開させた時の効果とかを試していかなきゃだから、売り出せるのはまだ先になると思う。
ちなみにそう言えばさ、心頭も滅却すれば火もまた涼しくって言うじゃん?
凛の黒魔術系の術でもこう暑さとか寒さをなんとかできる方法は無いの?」
碧がどっかの漫画で聞いた事がある様なセリフを口に出して聞いてきた。
「いやいやいや、人間の体が暑さを感じて汗をかくのは体温を適当なレベルに保つ為の自己防衛手段だからね?!
それを知覚できなくして汗をかかない様にするのは確かに可能だけど、やったらヤバいよ!
それこそゾンビが滅茶苦茶な力を振るうのと同じで、自分の体へのダメージを無視して真っ赤に熱せられている鉄板を押し曲げたり、打ち抜いたりって言うのも不可能じゃあ無いけど、ダメージは来るから。
汗疹防止目的で汗をかかない様にするのは可能だし、その際に暑く感じないようにするのも出来るけど、やったら熱中症で倒れる」
寒さの方も感じないようにできるが、下手をしたら凍傷なり低体温症での昏倒だ。
白魔術師だったら体の新陳代謝を弄って体温調整が出来なくは無いらしいが、実は一番良いのは元素系の魔術師なんだよねぇ。
火系の元素系魔術師だったら直接熱をコントロール出来るから、暑さや寒さを好きなように調整できてマジで快適に過ごせる。
魔力さえ保てば。
だから真夏や真冬に出張する時は火系の魔術師が同行者として凄く人気だった。
魔力回復ポーション代だけで快適に過ごせるからねぇ。
まあ、王宮魔術師だから魔力回復ポーションは経費扱いで費用請求できるからこそ可能な無駄遣いだけどね。
そう考えると、現世では火系の魔術師なんて全然使い道無くて可哀想〜とちょっとザマァ気味に考えていたが、夏と冬を快適に過ごせるって点では勝ち組だな。