到着。
「取り敢えず、碧の部屋でお茶でも飲んで、源之助ちゃんを落ち着かせたら?
聖域と蔵に用事があるって言っていたけど、一泊二日なら時間は余裕があるでしょ」
藤山家に着いた我々に、碧ママがお盆に乗せた麦茶(多分。色で判断しているので冷やした紅茶の可能性もゼロでは無い)を手に声を掛けてきた。
おお〜。
助かる!
ミルクシェークって甘いせいか、なんか飲み物なのに妙に喉が渇くんだよね。
「ありがと。
そうだね、ちょっと休憩するわ」
源之助のキャリーケースや猫ハウスとトイレを運んでいて、私も碧も手一杯な状態で飲み物も受け取れなかったので碧ママが一緒に上まで上がってきてくれた。
「碧のバッグも取ってくるから、源之助と暫くリラックスしてて」
猫用トイレと強化ダンボールの猫ハウスを旧碧の部屋に下ろしてがっと麦茶を大きく一口頂き、碧に声を掛ける。
今日の私は比較的暇だからね。
聖域でのヨモギやミント、アロエ(育っていたら)の回収は明日行くことになっているので、今日の予定は碧が回復符を探すのと、夕方に佳さんの温泉に行くだけだ。
なので碧が蔵で探し物している間も源之助と遊ぶ予定。
今日のうちにミントを採取してこっちでポーションを試作する事も考えたのだが(実家にも内側が白いホーロー鍋はある筈と碧が言っていた)、基本的にポーションは私の汗疹対策とちょっとした好奇心の産物なだけなのだ。下手に前世の知識に繋がりやすいポーション作成なんぞと言う話題は例え信頼できる碧の家族にでもしたくはない。
これで他に治療手段がないと言うなら、もしもの時の為にポーションを碧のご両親に渡しておくのもありなのだが、回復符で足りるのに態々秘密の暴露に繋がりかねない情報を共有する必要はない。
時間経過による劣化の事を考えると、碧の作った回復符の方が機能性は高いしね。
もしかしたら聖域に置いておけばポーションもある程度長持ちするのかも知れないが、聖域でもそこまで極端に魔素が濃い訳では無い。
ポーションと言うのは聖域の魔素を濃縮した薬草に、魔力を注ぎ込んで作成する加工品なのだ。
錬金術による容器が無ければ聖域に置いても数週間程度で魔素が抜けて効果が無くなりそうな気がする。
それに、どんな状況で治療が必要になるか不明だが、『もしもの時』に聖域まで走って取りに行く余裕があるとはあまり思えない。それだったら碧の回復符を引き出しから取り出して使う方が絶対に良いだろう。
命に関わる様な大怪我だったら救急車を呼ぶだろうから、それを待たずに怪我人を放置して聖域までひとっ走りって訳にも行かないだろうし。
かと言って病院へ怪我人を搬送した後にポーションを取ってきて手術室で掛けたりしたら大騒ぎだ。
だから、ポーションって現世では汗疹対策ぐらいにしか使わないと思うんだよねぇ。
バンから碧と自分の荷物を持って行ったら、碧の部屋で碧ママが源之助相手におもちゃを振っていた。
最近は源之助も前より我を忘れて遊びに夢中になる事も減ったんだけど、意外と碧ママは猫と遊ぶのが上手いね。
これだったら明日は私たちが出ている間に時間があったら源之助の相手をしていてくれるかな?
まあ、日中だったら一緒に遊ばなくても昼寝していると思うけどね。
昔は碧が出掛けたら帰ってきた時に『寂しかったんだよ!!』と駆け寄ってきて遊べと要求した源之助だが(炎華によると留守番だとシロちゃんとかと遊ぶ事も多いが飽きるとすぐに寝るとの報告だった)、最近は帰ってきても昼寝中だと『おかえり〜』とでも言う様に片目を開けて耳をぴくっと動かす程度だ。
だから碧の匂いが染み込んでいるこの部屋だったらあまり気にせずにすぐに寝ると思う。
ただまあ、シロちゃんは連れてきてないので遊び相手がクルミだけって言うのはちょっと普段と違うかもだけど。
ぬいぐるみを使い魔にする技術って言うのもあまり知られていない(単に旧家ではぬいぐるみなんてありふれた物を式神の躯体にするのに抵抗があるのか、その技術が無いのかは不明)ので、人の出入りが多い藤山家に持ち込まない方が良いだろうと言う結論になったのだ。
碧がぬいぐるみを態々実家まで持って帰ってくると言うのも不自然だし。
小学生の頃でもぬいぐるみに大して興味を示さず、仕事で出張に行っていた碧パパからお土産に貰っても弟用に買われたボードゲームに興味を示して交換を申し出たって話らしいので、東京のマンションにあることですら両親の目にはちょっと場違いに写りそうだ。
「なんか源之助もお母さんに馴染んできたね。
ちょっとこのまま任せて、凛も一緒に蔵を見に来る?」
碧が麦茶を飲みながら提案してきた。
「良いの?」
戦国時代から続く旧家の蔵だ。
ちょっと興味はある。
「良いよ〜。
色々と物を動かすのにヘルプが必要かもだし」
なるほど。
労働要員なのね。