予防は難しいよねぇ
「ニュースで煽り運転の話とか、アクセルとブレーキを間違える高齢者の話とか見るけど、ああ言う危険な運転者って本当にいるんだねぇ」
ロクデナシ迷惑運転者にしっかり否が応でも行動を修正する様な条件付けを刻み込んで車に戻った私に、先に戻っていた碧が売店で買ったらしきミルクシェークを差し出してくれながら言った。
「マジでびっくりだね。
なんかこう、どうして平和で飢えない現代日本でああ言うロクデナシが発生するのか、不思議でしょうがないんだけど」
前世では貴族や王族の特権意識は、それが社会全体を動かす統治構造の一部だったので拗らせるのも不思議は無いところもあった。
魔物も居るし基本的人権なんて無い、厳しくて人があっさり死ぬ社会だったから刹那的に暴力を振るう人間がそれなりに多かったのもある意味当然な結果と言う気もしたし。
現世だって、これがアフリカの方とかでまだ脳の成長が終わっていない様な幼い頃に武装集団に捕えられて少年兵として強制的に人殺しを始めさせられた人間なんかは情緒的部分の成長が抑圧されるか何かで精神構造が歪むらしいから、人を傷つけるのを楽しむ様な人間になってしまうのもしょうがない場合もあるのだろう。
だが。
生温くて平和でそう簡単に人が死なない現代日本でもああ言うロクデナシが居るとはねぇ。
なんかこう、人類のクソッタレさって環境によって齎されるものでは無く、本能的と言うか本質的な物っぽくてちょっと嫌になる。
さっきのロクデナシだって別に家族に幼い頃に虐待されたとか言った感じの同情するべき記憶はざっとスキャンした範囲では無かった。
だったらもっとまともな人間になっても良さげなものなのに。
「なんだっけ、働き蟻って観察していると1割か2割か忘れたけど一定の割合で怠ける個体が居るんだけど、働き者な蟻だけを纏めるとその割合分ぐらい怠けるのが新たに出てくるんだって。
人間も一定の割合で腐るのタイプが自然発生するのかも?」
碧が車をバックさせて駐車場から出しながら言った。
一定の割合で怠ける人間がいるのはありそうな話だけど、一定の割合で腐るのはなぁ。
怠けるって言うのは余力を残すとも言えるから、常に全力疾走しないのは集団の生存の為にプラスだと思う。
だけど腐る人間って人類の存続の為には特に必要ないと思うんだけど。
「流石に人間で腐っているのを排除したら残りの真面な人間の一部が腐るかの実験は出来ないからねぇ。
何とも言えないけど、車に関しては買うことになったら絶対にドライブレコーダーを前後に付けよう。
今日みたいなタイプはどうもそう言うのを見てターゲットを選んでいる感じだった」
ついでに今日のクソッタレドライバーをネットで『煽り運転者』って晒してやりたいけど。
とは言えネットとかの使い方がそこまで上手い訳ではないから、下手な事をやって逆恨みされて相手にウチらまで追跡されたら面倒だから、やらない方が良いんだろうなぁ。
相手の車の番号も写っているから、晒したらそれなりに個人の特定は出来ると思うけど。
「中に乗っている人間が私ら女性だけって分からないように、窓にミラーシートみたいのを貼った方が良いかもね。
その方が直射日光で暑くなるのが抑えられるかもだし」
碧が頷きながら更に提案する。
「確かに。
って言うか、考えてみたら中で寝る事も考えるなら窓にカーテンでも付けないと、夜に灯りをつけたら中が丸見えになるよね」
どっかの旅館やホテルに部屋をとってお風呂を共有し碧がバンの中で源之助と寝るとしたら、流石に夜でも寝巻きで歩き回る訳にはいかないから車の中で着替える必要がある。
そう考えると、真っ暗闇で着替えるのは難しいから照明が必要だ。
ランプそのものはソーラーパネルとモバイル電源を使う為に適当なクリップ式のライトでも買っておけば良いとは思うが、ミラーシートって確か中が明るいと外から見えちゃうよね?
「お〜、確かに。
それに日中も直射日光が当たる側の窓はカーテンを閉めた方が良いだろうし。
まあ、まだ先の話だけどね」
しっかし。
車が対象になったせいか、注意を向けられていると感知できる魔道具カードが機能しなかったなぁ。
それとも碧があの魔道具カードを持っていたら反応したのかな?
車みたいに大きな物に認識阻害の術を掛けるのは大変で直ぐに魔力が枯渇しちゃうだろうし、何と言っても公道を走っている車が他者に認識されないなんて危険すぎるから認識阻害は元よりダメだが・・・変なクソッタレに目を付けられない様にするにはどうしたら良いんかね?