迷惑なんだけど
「なんか、さっきから後ろの車が変な感じに密接してない??」
ここのところ色々とポーション試作品を試しつつ亜空間を広げたりお守りを作ったりしていたが、今日はバンを借りて諏訪へ向かっている。
碧が回復符を探す予定もあるので一泊二日するから源之助も一緒だ。
7月になってそろそろ夏休みの連中が増えてきたのか前回よりも高速が混んでいる気がするのだが、それとは別に何やら変なのに目をつけられたらしい。
「やっぱそう思う?
これって煽り運転なのかな?」
碧がバックミラーにちらりと目をやりながら答えた。
源之助の様子を確認するためにちょくちょく振り返っているのだが、さっきから同じ車が妙に近くに張り付いて見えるんだよね。
「後ろに張り付かれてもブレーキしにくい程度でそれほど実害は無いんだけど、もしもこれで衝突されたらウチらのせいにされるのかな?」
碧が聞いてきた。
「急ブレーキを踏まなければ、後ろから衝突する方が不注意で有責になるんじゃない?
どう考えてもあれって高速で適切な車間距離じゃないし。
でも、事故ったらそこら辺の証明とかウザそうだね」
レンタカーなせいか、多分ドライブレコーダーが付いていないっぽいし。
自分たちで車を買ったら是非とも付けておかないとだね。
取り敢えず、タブレットで直ぐ後ろを執拗についてくる様子を記録しておくか。
「なんだってこんな嫌がらせされてるんだろ?
別にどっかで強引に割り込んだとかしてないよね?」
「多分?
特に割り込みしたつもりは無くても、それこそサービスエリアで何か買いたかった最後の商品を先に取っちゃったとか言う感じの逆恨みだってあるかもだし。
どうしようか?
後ろから衝突されて源之助に何かあったら困るんだけど」
碧がチラチラとバックミラーを見ながら言った。
「次のサービスエリアに入って、着いてきたら相手が車から出てくる前に眠らせて、記憶を読んだ上で消しておこう」
いくら相対距離がほぼ一定でも、高速で動いている車の中の人間に力を使うのは無理だ。
抵抗力の無い一般人だったらサービスエリアの駐車場で車の横を歩くぐらいの距離まで近づけば力技で眠らせるのは出来るし、眠らせちゃえばちゃちゃっと記憶に干渉するのも表面的な事だったら可能な筈。
「・・・そうだねぇ。
下手に前に出られて危険運転されても面倒だし、サービスエリアに入ったら直ぐ後に着いてくる状況の方が対処しやすいか」
碧が頷き、丁度見えてきたサービスエリアの看板を見てウィンカーを出して車線を変えた。
前をブロックされた場合ってサービスエリアに入っても多分次のサービスエリアとかで通るのを待たれそう。
ニュースで見る様な迷惑運転のせいで事故に遭ってしまった被害者が、サービスエリアに行ってお茶でも飲んで一息ついて迷惑運転車と離れようとしなかったとは思えないし。
それとも、単にウィンカーを出したのをバックミラーで見て同じ事をされたのかな?
でも、前が嫌がらせでゆっくり運転されているんだったらウィンカー無しでギリギリのタイミングでサービスエリアに入る道へ曲がるのだって可能だよね?
・・・どう言う流れで事故になるのか、もっとしっかりニュースで見ておくべきだったな。
碧がスピードを上げたり下げたりしても執拗に後ろの車が車間距離を危険なぐらいに短くして張り付いているのをタブレットで記録していたら、やがてサービスエリアに近づいて中に入った。
やはり後ろの迷惑車も一緒に着いてくる。
取り敢えず、収納に入れてあったこちらに注意を向けていると探知できる魔道具カードを起動してポケットに入れた。
駐車したところ、怪しい車は運転席側で助手席側は車の影になっている。
SUVが幾つか停まっているし、これだったら気付かれずに近づけるかな?
「碧が車から降りて、トイレに向かっている振りをしてくれる?
あっちの運転手にこっそり近づけないか、試してみる」
あっちも直ぐに車から降りてきたら微妙だが、男だったら女性がトイレに行くのに着いて行く事はないだろう。
「オッケー。
ダメそうだったら念話で何処に向かったら良いか、連絡して」
碧が頷き、車から降りる。
何度か車で出たけど、こんな変な目に遭ったのは初めてだなぁ。
暑くなると茹って頭がおかしいのが増えるのかね?