試してみた
腕を消毒液で拭き、ついでに新しく刃を出したカッターも消毒しておく。
さて。
カッターの刃の先っちょだけを入れる感じにゆっくり1センチほど引けば、ポーションのテストに良さげな小さな切り傷が出来る筈。
多分。
「あ〜、緊張する〜」
ギチギチに固まった指を一度カッターから外し、腕を振って解す。
「私がやろうか?
回復術の練習に良くやったから慣れてるよ?」
碧から意外な申し出があったが、今回は私のための実験なのだ。
碧に負担を負わせる訳にはいかない。
「いや、大丈夫。
痛みも消してるし、単に慣れてないだけだから」
前世も自傷は最後の転生する為と言う名目の自殺以外では禁じられていたから、やったことがないんだよね。
寒村時代は薪や山菜をゲットする為に森に入ったらそれなりに切り傷や擦り傷が出来たから、ポーションモドキのテスト対象なんて幾らでもあったし。
指をワキワキと動かして緊張を解し、もう一度腕にカッターを当てて痛覚を麻痺させながらゆっくり浅く切りつける。
新しいカッターだけあって刃がすっと殆ど抵抗なく肌を切り裂き、ゆっくりと血が傷から盛り上がってきた。
「よっしゃ。
碧、傷の状態を把握して、これから試作品を垂らして何か違いが起きたら教えてね」
スポイトで試作品1(聖域産ヨモギ、透明バージョン)を傷口に垂らす。
前世の記憶にある様な透明度と色になるまで色々と試行錯誤した。
出来上がってみるとなんかこう、頼りないぐらい色が付いただけの水っぽいが。
「おわ!?」
ポーションモドキが傷口に触れた途端、シュワシュワ〜と泡が出てきて思わず手が揺れスポイトから液が溢れた。
傷がない指先に掛かったが、幸い特に何も起きなかった。
そう言えば、前世のポーションってかけるとちょっと泡が出たっけ??
泡が収まった腕を見たら、傷が無くなっていた。
「マジ〜?!
本当にポーションじゃん!!」
碧が興奮した様に声を上げた。
「流石、幻想界直結な白龍さまの聖域。
マジもんのポーションが出来るとは思わなかった」
思わず痛覚を戻してついさっき切った部分を指で擦ってみるが、痛みもない。
「これって使用期間ってどの位?」
碧が好奇心満々で尋ねる。
「魔力が抜けちゃうから錬金術で作ったちゃんとした容器じゃないと5日程度って聞いた気がする。
だから魔物が多い地域では毎日ギルドで作って怪我をして帰ってきた連中に割安で売ってるって話だったし」
現世だと魔素が薄いからもっと早く抜けるかも。
マジで錬金術の才能が欲しかった。
魔術を隠して生きていくなら黒魔術もこっそり使いやすいし、錬金術もかなりの部分は現代の技術で代替出来るが・・・やっぱ錬金術で作る道具は違うからねぇ。
「5日!
短いねぇ。
収納の亜空間に入れてもダメかな?」
碧が尋ねる。
「収納持ちは珍しかったし仕事に困らなかったからちゃんと錬金術師製の容器を使っていたと思うけど・・・実験してみようか。
取り敢えず、これを収納しておいて、毎日効果を確認してみよう」
あとは、聖域から持ってきたヨモギ自体の魔力がどのくらい残るかだよねぇ。
私が魔力を注ぎ込む事で聖域で育っていた状態をキープ出来るんかね?
「じゃあ、こっちのドロドロ版も試してみようよ。
今度は私がやるね!」
すっかり楽しくなったのか、碧がさっと消毒液を取り出して腕とカッターを拭き、あっさり自分の左腕を切った。
慣れていると言っただけあり、手早いし無駄がない。
「さて・・・どうなるかな?」
スポイトでドロドロな緑の液体を取り出し、腕に掛ける。
特に何も起きなかった。
「う〜ん、ごくごく微量な治癒効果はあるけど、湿潤なんとかって言う湿ったバンドエイドの効果と変わらない程度かな」
じっと傷口を見つめていた碧が言った。
マジかぁ。
それなりに適当な薄らぼんやりした記憶からきた知識でやったのに、ちゃんと薄いのはマジもんのポーションになり、煮込み過ぎたのはポーションもどきにすら届かない劣化品になったのか。
同じ聖域の魔力を含むヨモギから作ったのに、意外すぎる。
「じゃあ、次は普通のヨモギだね」
聖域産と同じ様に加工したヨモギ液を再度切りつけた腕に垂らしてみる。
「・・・何も起きないね。
効果も聖域産のドロドロバージョンより更に無い。
水をかけるよりはちょっとマシって程度かな」
碧の判定はかなり残念だった。
ほぼ治癒効果はないとの事なので、そのままドロドロ版も掛けてみる。
「どう?」
「う〜ん、さっきのよりは多少効果はあるけど聖域産ドロドロのより少ないね。
やっぱ聖域産ってだけで治癒効果がある程度はあるんだね」
と言うことは、煮詰めると魔素が抜けて治癒効果が失われるって事なのかね?
まあ、それは兎に角。
次は1週間ぐらい普通のヨモギと聖域から持ってきたヨモギに魔力を注いで、それを使ってポーションが作れるかの実験だな。
取り敢えず、この傷は成功したポーションで治しておこうね。