リスク回避
「何とも言えず、漠然とした話だったね。
病気や呪い鑑定には役立ちそうだけど、大規模テロとかの警告を出せるのかな?」
占い師を突撃後、家に帰ってお茶を淹れながら碧が首を傾げて言った。
「どうだろうね?
自分や占いをする相手が死ぬ範囲内にいたら視えるかもだけど、護國神社の中に引きこもっていたりしたら駄目かも?」
なんかこう、人物鑑定の4次元版みたいな感じだったなぁ。
4次元目の『時間』もある程度視えるせいで未来に起きる事も多少はわかるけど、基本は現状の鑑定っぽい印象だった。
まあ、碧の信頼を裏切ったら私の将来が深く暗いって言っていたから、それなりに先が視えてるのかもだけど。
「考えてみたら、確かに次から次へと占いを見てもらいに来た客が死ぬ未来が見えたらヤバい災害やテロがあるのが分かりそうだけど、安全な神社にいたら異変に気付かない可能性も高そうだね。
だとしたら、国も無理に未来見が出来る人員を護國神社に集めるんじゃなくって、ヤバい予見が出た時の連絡先を渡して、テロ攻撃とか災害の情報を提供したら報酬を払う感じにする方が良さそう」
碧が指摘した。
テロや災害感知にはそれが一番だろうけど、占い師が当たると評判になると他国や裏社会の犯罪組織とかに狙われる可能性もあるからなぁ。
「自分が誘拐されそうな運命をどのくらいちゃんと予見して避けられるかによるかもね〜。
ちゃんと自己防衛出来るなら世間の中で自由に占い師として普段は生活して、非常時にだけ国を助ける未来見として活躍すれば良いけど、自分に襲い掛かる危機を予見できないタイプだったらちょっとやそっとの護衛をつけてもそのうち誘拐されちゃいそうじゃない?」
「あ〜。
それこそ下手な国に誘拐されたりしたら、命が危ないような現場に常駐させてカナリア代わりに使うとか、未来見の能力を解明する為の非人道的な実験に使われたりとかしそうだね」
碧が溜め息を吐きながら同意した。
自国民ですらどうとでも解釈できる適当な法律を作って適当な言いがかりで投獄・処刑したり、政党に都合の悪い宗教や民族の連中は支配権を主張している国土の中に何百年も前から住んでいようが国民扱いせずに文化そのものを滅ぼして消し去ろうと邁進したりしている連中なのだ。
他国から攫ってきた能力者なんて、マジで実験動物扱いして使い潰すのが当然な扱いをされそう。
まあ、今でこそ良識の代表者とも言いたげに人権とか環境保護とかを主張している欧州だって、第二次世界大戦中は何の罪のないユダヤ人を大量虐殺していたし、日本軍だって中国人を実験とかに使って虐殺していたという話だ。
2000年とか3000年の人類の歴史から考えると80年なんてほんのちょっと前の話なのだ。
そう考えると人間の本性なんてピラっと一枚『良識』の皮を剥いたら中は似たり寄ったりなんだろうね。
日本の政府や犯罪組織だって、メディアや有権者の目が無いところだったら自国民であろうと何をしているか分かったものではない。
「そっか、誘拐されて潜在的敵国や犯罪組織に攫われて悪用される危険があるから国も真面目に未来見を探すのか。
でも、凛の闇が深く暗いかもってなんか失礼しちゃう」
碧が少し憤慨したように言った。
「便利な能力を持っていると狙われる可能性が高いし、何か起きた時に報復できる範囲も広がるからね〜。
マジで白龍さまの天罰バリアが無かったら、私はヤバかったかも。
自分1人が貧しいとか食うのに困るって程度だったらささやかに力を使って生きていくと思うけど、家族や友人の命や生活をネタに脅されたり、警告として殺されたりしたらそれなりに振り切れちゃうリスクはありだからね〜」
それこそ、こないだのゾンビ大量虐殺テロを前準備ほぼ無しで実行出来るのだ。多分。
黒魔術師って一番絶望させちゃいけない人種だよね。
比較的幼い時点で家族から引き離されて国が囲い込んでいた前世は、ある意味正しい対処法だったかもと思わないでもない。
ただ、囲い込んだ黒魔術師を使っていた王族がクソッタレ過ぎていたのが私や被害者にとっては非常に不幸な事だったけど。