あれ?おかしい??
「そう言えばさ、黒魔術の適性持ちだったら記憶とかを読めるんでしょ?
なんで国なり退魔協会なりの調査員が、さり気なく接触して読み取らないのかな?」
実りの無かった1日を終え、退魔協会に占い師の客が告げられる不幸の確率について情報を求めた後に軽く夕食を食べ、源之助にオモチャを振り回していた碧がふと言った。
「言われてみればそうだよね。
混んだ電車の中とかで近付ければそれなりに機会がありそう。
さっと触れた程度じゃその時考えている事しか読めないと思うけど、悪事を働いていたらそれなりにその事を考えていそうだし。
私だったら怪しまれるだろうけど、プロならそのくらいあっさり出来て当然と言う気がする」
まあ、退魔協会の調査員は悪霊とか穢れ関係の調査員だから人間相手の尾行とか接近術はダメかもだけど、いくら平和ボケした日本でも国レベルだったらプロのスパイっぽい人員がいるだろうに。
「退魔師とかで情報機関とかに勤めてる人っていないのかな?」
ちょっと興味深げに碧が首を傾げる。
魔術が完全に隠蔽されている世界ならまだしも、超常の力は知る人ぞ知る公然の秘密なんだから、黒魔術の適性持ちを情報収集要員として引き込んでいて当然だと思われる。
それこそ、捕まえた他国のエージェントを尋問する時用に白魔術師も確保してあるんじゃ無いかなぁ?
白魔術師が意識を刈り取り、自殺しようとしたら延命して、黒魔術師ががっつり記憶を読めば必要な情報は抜き取れる筈。
「日本の歴史は長いんだから、特定の適性持ちなら記憶を読めるって情報はあると思うんだけどね〜。
そう言う便利な使い方の情報はそうそう失われないと思うし。
ただまあ、スキル持ちって他のスキルや能力に多少は耐性を持つから。
完全に気を許しているか、寝ている状態じゃ無いと読めない人もいるから、軽く接触して失敗したのかもね」
流石に薬を盛ったりぶん殴ったりして意識を刈り取ろうとすると、本当に未来見の才能があったら予見する可能性があるし。
電車で疲れたように寝ている人間は多いが、占い師だと疲れないのかな?
「失敗したんだったらスキル持ちって事だから本物の未来見なんじゃ無いの?」
碧が指摘する。
「・・・確かに」
そう考えると、今回の依頼ってちょっと不自然?
未来見が無いなら黒魔術の適性持ちで記憶を読める筈だし、あるなら未来見だと言う事で交渉すれば良い。
未来見ではなく白魔術の適性持ちで逆回復をしているにしても、何らかの才能持ちなら退魔協会から『訓練して一人前の退魔師になりませんか』って話を持ち掛ければ良いだけな気がする。
「私の回復術はもう知っているんだから、凛の能力のカマかけか、それとも日本ってそれだけ人材が居ないのか。
どっちのケースもイマイチ有り難くないね」
碧が顔を顰めながら言った。
「うげぇぇ。
最初に聞いた時はクソッタレな詐欺師の裏取りだと思っていたんだけど、もしかして私に対する罠??
空振りな日々が嫌になって容疑者の記憶を読んだら、国家公務員への強力な勧誘が待ってるのかな?」
マジで白龍様が私を碧の相棒として認めてくれて助かったよ。
退魔師として働き始めて1年弱だって言うのにもうヤバくなってるなんて。
前世で酷い目にあったから慎重にやって来たつもりだったけど、全然足りなかったようだ。
「う〜ん、まあ時期的にも今ってこないだの死霊術テロ攻撃への対応で一杯一杯だろうから、優先順位が低い案件をアウトソーシングして、ついでに便利な能力持ちを確定できたらラッキ〜って程度じゃ無い?」
ちょっと考えてから、碧が肩を竦めながら言った。
そっか、今って国は猫の手も借りたいぐらい忙しいんか。
だから猫の手候補ゲットの為に、一石二鳥な方法としてこの依頼を選んだのかな?
そうなると、下手をしたら呪詛や逆回復なんて殆ど使っていない可能性もあるのかも?
私へのカマかけだとしたら、それこそ私がうっかり記憶読みの能力を見せて国家公務員になれって圧力に屈したとしても、後から『騙された』って激怒しない程度には真実も混じっていて、完全なでっち上げでは無いと思うが。
今日のやりとりを聞いていた感じでは、かなり漠然とした話しかしていなかった。あれだけウェブサイトの口コミが良いって事は多分不運な方の助言はもっと確定的でかつ正確なんだろうと思うけど。
変なの。
不幸な知らせよりも嬉しい知らせを聞く方が喜ばれそうな気がするが・・・占い師なんぞに嵌るタイプって悲観的過ぎてプラスな話は中々信じようとしないのかね?
「ちなみに、こっちの世界の未来見ってどんな事が出来るかとか、知ってる?」
碧に聞いてみる。
前世の未来見は個人によって色々と違いがあったが、大量に命が失われる不幸な予見の方が視えやすいとは言え、それだけって訳では無かった筈。
それ程詳しくは無いけど。
個人的に知っていた未来見の女性は、孫が生まれるタイミングとかその性別を予見して色々とウキウキしながら準備していた。
浮かれ過ぎて自分が転んで捻挫するのは予見してなかったけど。
「未来見は国の中枢に関わる話だからねぇ。
詳しい事は知らないかな。
いつの世でも権力者を騙そうとする口の上手い詐欺師はいるけど、本物と偽物の見分け方法すら不明だからねぇ。
しかも警告を受けて行動しても、未来見のお陰で回避できたのか単なるでっち上げだったのかも大抵不明だし。
護國神社では複数の未来見を集める事で精度を上げる工夫をしているらしいけど」
それはそれで複数の未来見候補を集めた中にカリスマ性のある偽物が混じった場合、かなりやばいことになりそうな気がするけど大丈夫なのかね?
マジでそこら辺は黒魔術の適性持ちな国家公務員でも活用して、変なことを企んでいる人間がいないように定期的にチェックして貰いたいところだね。
未来見が出来るからって善人であるとは限らないんだし。
私は国家公務員になる気は無いけど、別の誰かには頑張って貰いたいな。