使い魔契約
「さて。
まずは使い魔契約して、家に帰ってから躯体については考えようか。
名前はどうする?」
田端氏にPCのパスワードについての条件を言い渡し、レンタカーに戻って犬の霊に声をかける。
『・・・名前は無かったから。
なんでもいいよ』
ちょっと考えてから犬が答える。
う〜ん、適当に世話されていた場所だと名もつけないのか。
当然西田もゾンビにする為に買った犬に名は付けなかったと。
「一緒に飼われていた犬達からはなんて呼ばれていたの?」
犬は群れる動物だ。
お互いの認識する名称もどきな呼び方があると思うのだが。
『黒耳って呼ばれることがあったかな?』
ぽつんと犬の霊が答える。
あ〜確かにゾンビ犬の体はグレーっぽい毛皮に耳だけ黒かったね。
獣医に行って名前を呼ばれる訳でもないから、呼び名は別になんでも良いんだよね。
生きている場合は獣医の待合室で呼ばれれる時に変な名前だと微妙だが。
とは言え、生きていても碧が基本治療してくれるから去勢手術以外では獣医に縁はないんだけどね〜。
「う〜ん、そのまま黒耳って呼ばれるのと、ちょっと可愛くしてクミちゃんとかとどっちがいい?」
確か体を見たところオスだったけど、まあ別に霊に性別はさして関係ないし。
『黒耳がいい』
「了解。
じゃあ、使い魔契約しよう。
いつでも黒耳からの希望で契約解除は可能、契約対価は魔力。
ウチには生きた猫と、鼠と猫と犬の使い魔、及び幻獣が二方いるからそれなりに賑やかだよ。
時々鴉も来るね。
まあ、1人で静かにしていたかったら私の部屋の引き出しにでも入って寝てれば良いから、頼み事をした時以外は好きにしていて。
頼み事に関しても、断固として嫌って感じたら言ってくれたら別の使い魔に頼むから無理はしなくていいからね」
魔力をつなぎ、使い魔契約の条件を黒耳に伝える。
猫の霊って気儘に遊んでいたがることが多いけど、犬って遊ぶのも好きだけど仕事を任されるのも好きな子が多いから、多分引き篭もるよりは出て来て他の使い魔達と遊ぶか、私に仕事を要求する可能性が高いと思うけど。
『宜しく』
黒耳の合意と共に使い魔契約が成立して、リンクがきっちり繋がった。
「うっし。
家に帰ったら躯体について相談しよう。
取り敢えずはこれに入ってて」
聖域で拾ったそこそこ魔力の籠った石を差し出す。
源之助の遊び相手をメインに頼むなら縫いぐるみがいいけど、誰かを見張って貰ったりするなら小さい方が良いからなぁ。
まあ、暫くウチでリラックスして貰ってから決めるか。
中々ハードな生涯だったみたいだし。
「上手く行った?」
さっさと家に向かって車を走らせ始めていた碧が聞いて来た。
「うん。
黒耳って名前になった。
身体については家に帰ってから要相談だね」
クルミみたいにタブレットでネットを見るのが好きになったら手足が必要かな?
そっちに興味なさげだったら源之助と追いかけっこしやすい様な形がいいかも。
「しっかし、有能っぽい技能を持っていた癖に馬鹿な被害者兼犯人だったね」
高速に入りながら碧が呟く。
「確かに。
少しノイローゼ気味だったのかもね。
それなりに高いお金を払って退魔師に弟子入りしたのに一人前になれず、習ったことを活かすバイトとかも無いしでかなり肩身が狭い思いをしたんじゃない?」
まあ、あんなハイスペックそうなPCを買えたんだから、家が金持ちか、本人に金を稼ぐ技能があったっぽいが。
家が金持ちだったら弟子としての謝礼金を払えなくなるなんて無いかな?
親が退魔師の存在に懐疑的だった場合は何年も続く修行に資金援助を止めた可能性も高いが。
「コンピューター関連は強そうだったよね。
人間の霊って使い魔に出来ないの?
電子関連の精霊を探すよりずっと現実的にウチらのパワーアップが出来そうじゃない?
どうやら退魔協会のネットワークへ簡単に侵入出来たみたいだし」
碧が冗談半分に提案した。
「人間はねぇ。
欲とかプライドとかが邪魔するのか、使い魔にすると悪霊化する事が多いんだよねぇ。
そう言う契約じゃなくって、自発的に助けて見守ってくれる守護霊みたいな感じで残って協力してくれる分には悪霊化しないんだけど、そう言うのって親しくしていた親族以外だとまずやってくれないから」
守護霊との関係って契約じゃないからダイレクトな魔力の譲渡も出来ないしねぇ。
霊側の霊格の高さがそれなりに必要だし、こちらの感謝とか尊敬の念が上手く流し込めないと霊の方が弱っちゃうし。
どうもそう言う念に基づくエネルギーの譲渡は血縁がある方が上手くいくらしいんだよねぇ。
「そっか。
残念。
そのうちカリスマ祈祷師の関係でIT関連に強い人と伝手ができると期待しよう」
碧が言う。
生きている人間は必ずしも絶対に裏切らない訳ではないからなぁ。
興信所でも使う方が無難かも?
下手に個人に頼ると弱みとなって脅される可能性があるし。
「世の中難しいねぇ」