『秘伝です』
「うげ、朝食の時間すぎてる!」
一応夜中の呼び出しの可能性を考えて3時まで起きていたので、レイトチェックアウトをリクエストして目覚ましを掛けずに寝た。
幸いにも呼び出しで起こされる事もなく、気持ちよく起きてざっとネットで調べたところ怪しげな事故のニュースも無かった。
国営ニュースのチャンネルも平和に何やら世界のニュースのまとめをやっていたので、日本で大事件は起きていないのだろう。
世界のニュースの内容そのものはかなり殺伐としていたが。
安堵のため息を付きつつ着替えて顔を洗い、朝食を食べに行こうとして問題が発覚したのだ。
「マジ?!
ここって朝食のバイキングが美味しいって話だったのに!!」
ばっと碧がテーブルの上にあった案内を手に取る。
「・・・レストランでの朝食は9時半までだって〜。
失敗した!!」
「ルームサービスはまだ大丈夫っぽいよ」
私らみたいな寝坊した人間用か、朝食メニューが11時まである。
まあ、軽めのサンドイッチとかを朝食がわりにしても良いんだけどね。
「お?!
これなんて美味しそうじゃない?!
フル・イングリッシュ・ブレークファストだって。
確か知り合いが旅行でイギリスに行った時に、夕食はかなり微妙だけど朝食は良かったって言ってたから、試してみよう!」
メニューを見ていた碧が声を上げる。
いくら名前が『イングリッシュ』ブレークファストであっても、イギリスのホテルやレストランで出た食事が日本のホテルで同じ様に再現されているかは非常に怪しいが・・・高いホテルなのだ。
極端なハズレは無いと期待しよう。
「うっし、電話で二人分、頼んどいて!」
その間に部屋をちょっと片付けておこう。
別に綺麗にベッドメイクしようがしまいが、使ったことに変わりは無いんでチェックアウト後に取り替えて洗濯するだろうけど、うら若き乙女(笑)が露骨に寝たままなベッドを他人に見せるのは微妙に恥ずかしい。
と言う事でルームサービスが来るまでに部屋を片付けてチェックアウトの準備をしていたら、食事が来た。
「うわぁ、豪華!」
丸いボウルみたいなシルバーっぽいカバーの下から出てきたプレートには艶々なスクランブルエッグとぶっといソーセージ、カリカリなベーコンにステーキか?!と言いたくなるほど分厚いハムが乗っていた。
豪華〜。
更にグレープフルーツ半分とオレンジジュース、紅茶のポット(碧はコーヒーサーバー)とクロワッサンや薄くカリッと焼かれた食パンの入ったバスケットまで来た。
こりゃ、朝食じゃなくってブランチだね。
朝昼兼用だとしても全部食べ切れるか自信がないけど。
パンはティッシュに包んで収納に入れて持って帰ろう。
これを起床後すぐに完食できるイギリス人って凄いな。
まあ、イギリス人だってサラリーマンとかは平日の朝は多くてもパンと目玉焼き程度だと思うが。
「美味しい!!
このホテルのレストランって泊まらなくても朝食だけ食べさせてくれるのかな??」
一口食べて、思わずホテルのウェブサイトを後で調べようと心に決めた。
流石に自腹で泊まるのは厳しそうだ。
今回に宿泊費も、ちゃんと国が出してくれると期待しよう。
田端氏の自腹だったりしたらちょっと申し訳ない。
「そう言えばさぁ、今回の依頼で魔法陣を読み解けるのをかなり露骨に見せちゃったと思うんだけど、これって退魔協会とか警察の上層部とかに話が行くと思う?」
クロワッサンにジャムを塗りながら碧に尋ねる。
「だろうねぇ。
どう考えたって田端氏には分からない情報を元に行動指針を伝えちゃったからねぇ。
まあ、ウチの秘伝と白龍さまから教わった秘技って事にして、全部『秘伝ですので』で開示できないって押し通せば良いよ」
碧があっさり肩を竦めた。
「良いのそれで?」
今回みたいな危険な事件の為に情報提供をしてくれって言われたら断りにくいが。
「そんなもん、どこの家でも技術はほぼ完全に秘匿してるんだから、藤山家と諏訪神社の氏神さまの秘伝だけを公開しろなんて命じられる謂れは無いわよ。
そう言う系の依頼が来たら断れば良いし。
凛は私が代表な事務所の所属になっているから、無理強いしようとしたら私への害意扱いになるよって脅せば大丈夫よ」
ソーセージを切ってふわっふわなスクランブルエッグと一緒にフォークに乗せながら碧が言い放つ。
そっか、こっちは家門の秘伝扱いで技術秘匿が許されるんだぁ。無敵な天罰デフェンスもある事だし、これなら大丈夫そうだね。
前世だったら王命が来たら拒否なんて出来ないし、嘘すらつけなかったから黙秘は難しかったんだよね〜。
「ちなみに、碧じゃなくって私が魔法陣を読み解いていた点に関してはどう説明する?」
藤山家の秘伝だろうが白龍さまからの知識だろうが、愛し子である碧の方が子供の頃から教わっている筈だ。
私が出張っていたのはちょっと不自然じゃないかな?
「私は肩凝り用のお守り以外は殆ど魔法陣なんて使わないからねぇ。
興味が無かったから勉強もまともにしてなかったって言えば良いのよ。
本当の事だし。
回復用の符も販売制限されるから、私が魔法陣とか符の作り方を真面目に学んでもあまり使い道無かったのよね〜。
G避けと言う偉大な魔道具の使い道が見つかったから、今は暇な時にでももう少し真面目に勉強しようとは思ってるけど」
肩を竦めながら碧が答える。
成る程。
使い勝手が微妙な私の能力だから魔法陣の勉強を頑張ったって言えば良いんだね。




