一箇所じゃ無かったか
やっぱ碧の浄化は美しい。
前世では白魔術師は滅多に神殿から出てこなかったから、悪霊の浄化なんて言う下っ端の魔術師でも出来る作業を請け負う事もほぼ無かった。
だから白魔術師の浄化なんて見た事なかったのだが・・・そのうち、機会があったらこっちの他の白魔術師の浄化も見てみたい。
白龍さまの愛し子たる碧だからここまで浄化の祝詞が清々しく美しい効果を持つのか、それとも白魔術師なら誰でも同じなのか。
是非とも知りたいところだ。
ある意味、白魔術師なら誰がやってもここまで美しいかもと思うとなんか微妙な心境だけどね。
白龍さまに愛でられる程に心根が美しい碧だから浄化も特別って言うなら普通に『凄いね〜』って感心できる。
だが、単に『白魔術師としての適性がある』と言う理由だけでこんなに違いが生じるとなると、なんか黒魔術師と言う適性そのものが薄汚れて劣ったモノの様に思えてしまい、『黒魔術師に生まれ、何度転生してもその適性が変わらないお前はどれだけ努力して己を磨こうと薄汚れているんだ』って世界に言われているみたいで・・・切ない。
まあ、ちょっと僻み根性が滲み出た被害妄想だけどさ。
少なくとも死霊術の悪臭が『臭い』と感じられるだけまだ大丈夫そうだとも分かったし。
それはさておき。
死霊術と呪詛を組み合わせた大規模殺戮用呪詛はこれで解除されたと思うから、外に出ても悪臭がしなかったら新宿に行こう。
あっちの方が東京駅近辺より夜の人出が多いはず。
碧の祝詞が終わり、ゆっくりと深く鼻から息を吸ってみる。
「うん、悪臭が消えた。
ここは大丈夫っぽいね」
渋谷に来てから、碧の結界の中でランチを食べた時間以外ずっと苦しんできた悪臭が消えて、ずっと感じていた微かな頭痛から解放された様な気分だ。
「終わりましたか?」
田端氏が声を掛けてきた。
「ええ。
もしかしたら時限式な毒ガスの噴射装置とかがある可能性もゼロではありませんが、これで少なくとも術による危害は起きないと思います。
ちなみに、新宿と東京駅の方では何か見つかっていますか?
何も解除されていないなら、別の術が仕組まれていないかを確認する為に一応そちらにも行きたいんですが」
ヘリコプターを使うのに田端氏の同行が必要だろうが、死体を放置して行けるのかな?
ダメなら電車で移動するが。
死体から離れて立ち上がりながらゴム手袋っぽいのを外した田端氏が頷き、ポケットから携帯を取り出した。
「確かにその方が良さそうかも。
ヘリをこっちに呼んで、その間に上に来た応援部隊に引き継ぎをしておこう」
応援部隊なんて来てたんだ?
考えてみたら、いくら解除したからって今晩このままここでレセプションをするのはどうかと思うから、レセプションの方は急遽別の場所に移すのかね?
どうせなら隣駅辺りまでずらした方が確実だと思うけど。
携帯で何やらやり取りしている田端氏と1階まで戻り、15分程度の待ち時間の後に別のお偉いさん用エレベーターで屋上に上がってヘリコプターに乗り、我々はあっという間に新宿の某百貨店の上に来ていた。
新宿は大きいからなぁ。
駅の周りをぐるっと回るだけでも最低1時間ぐらいは掛かりそうだ。
まだ2時前だが・・・タイムリミットが夕暮れだったらヤバいかな?
つうか、あの魔法陣の時限装置としておいてあったケージのタイマーを調べるべきだった!
「田端さん、あの地下室にあった鼠か何かが入ったケージのタイマーって何時に設定されていたか、確認しました?」
私らは入り口から殆ど入っていないが、死体を確認するついでに田端氏が調べていないかな?
「いや、私も時間が無かったので確認していないが・・・もうそろそろ現場検証班が到着している筈だからちょっと聞いてみよう」
エレベーターに近づきながら田端氏が携帯を取り出した。
昔はエレベーターの中って携帯が使えなかったけど、最近は意外と通じるところが多いんだよね。
他に利用者がいると通話が丸聞こえになるし迷惑だから大抵は降りて会話するけど。
ヘリポートからのエレベーターはお偉いさん用なのか他に利用者はおらず、丁度一階に着いたぐらいのところで田端氏の通話が終わった。
開いたエレベーターのドアからブワッと悪臭が雪崩れ込んでくる。
あらら。
「夜の9時に起爆するよう設定されていた、と」
携帯をポケットに入れながら田端氏が言った。
そっかぁ。
出来れば夜中の3時の方が良かったけど、考えてみたらそんな時間になったら出歩いている人が殆ど居ないからダメだよね。
他の二箇所のタイムリミットが似たような時間か、もう少し遅い事を期待しておこう。
「どっちの方向か、分かります?」
白龍さまに尋ねる。
『あっちじゃの』
渋谷のヘリポートから出た時より悪臭が弱いけど、これって術の規模が小さいって言うより距離があるからなんだろうなぁ・・・。