歴史が編み出したヤバい秘技?
体育館ほどの広さの地下スペースを使って展開された魔法陣はほぼ完成まで構築させてあるが、時限式にする為に複雑な長細い魔法陣を入れ子の様に組み合わせた感じになっている。
お陰でどの術がどう完成していくかも分かりにくいし、何が起きるかを判断するのも難しい。
見知らぬ術なのだが、よく見ると所々に見知った紋様があるのでそれを元に全体像を推測していくような感じだ。
異なる言語の国で発展した術が、異世界の術と同じ紋様を部分的にでも使っているなんて不思議なものだ。
魔法陣の言語は次元を超えて共通らしい。
まあ、考えてみたら魔法と言うのは魔力を流して反応を起こすだけなのだ。
魔力の機能の仕方が同じなら、術の構築が共通なのもある意味当然なのだろう。
じゃなければこちらの国の呪詛とかを私が教わらずにも読み解けるのはおかしいもんね。
呪詛返しをする時に問題なく術を読み解けていることに特に疑問を感じていなかったが、大陸側の術に基づく死霊術の魔法陣(多分)を見て、初めて魔法陣の共通言語的な性格に気がついた。
ある意味、魔法陣や呪詛の組み合わせを工夫したら全世界共通な言語を作れるかも?
発動しちゃったら変な術が起きたり呪詛が掛かったりしちゃうので、不完全な魔法陣にする事に細心の注意を払わなければならないが。
呪詛の方が普通の術よりも語彙が豊富って言うのがなんとも皮肉な事だよね。
それはさておき。
タブレットにフリーハンドでメモ書きしながら各紋様の機能を解き明かしていく。
鼠(多分)の位置は魔力の補給な場合と、単に紋様を繋いで完成させる為の血の供給源の場合と二通りあるようだった。
まあ、殆どの魔力は壁際に転がっている死体から搾り取って既に得ている様だが。
ある意味、このまま放置しておいても周囲の瘴気が増えて溜まっていけばそのうち勝手に術が完成しそうだ。
鼠は確実に決めた時間に術を発動させる為のタイマー的なものなのだろう。
「どう?」
写真を撮り終わった碧が聞いてきた。
「多分だけど、まずそこの右端の檻の動物が殺されたら呪詛の術が完成してこの部屋全体の生き物を殺す。
そんでもってそれで他の術が完成して・・・ここの真上のスペースに置いてあるマーカーの周囲にいる人間を呼吸困難で死なせる呪いが起動して、その死を使って死体を動かす死霊術が起動して、そのゾンビが夜が明けるまでひたすら出会う人間を殺して回るみたいだね」
幸い、ゾンビ映画にあるようにゾンビに襲われたら変なウィルスに感染して被害者もゾンビになると言うわけでは無いのでゾンビの数は増えないが、この体育館サイズの地下室の大部分を使った魔法陣の上にいる人間が全てゾンビになるのだ。
レセプションで人がひしめいていたらそれなりの人数になるだろう。
しかも、前世と違ってこちらではゾンビの対応方法は広く知られていない。
特攻効果のある白魔術師や、術をキャンセルできる黒魔術師がいないなら四肢を全部切り飛ばすか、死体を燃やす必要がある。
銃で撃っても腕や足を吹き飛ばさない限り意味がないので、多数のゾンビが若者が遊び回っている夜の渋谷に溢れ出たりしたらとんでも無い数の被害者が出ても不思議はない。
「うわ。
エゲツないね。
でも、呪詛でそんなにあっさり人を殺せるの?」
確かに1人や2人の下準備に使われた死と、10個以下のケージに閉じ込めた小動物の死程度で体育館半分程の広さに詰め込んだ人を殺せるとなったらかなりの効率だ。
「なんかねぇ。
私も知らなかったんだけど、少量で致死的な効果のある毒素を死体から生成してばら撒く術みたいのがあるよう?
既に下準備して魔法陣の一部に練り込まれているから、3階分の高さの距離ぐらいだったらマーカーを使った術でそれを転移出来ちゃうみたいね」
これって大陸側の何千年もの殺し合いの歴史の中で研ぎ澄まされてきた秘技ってやつなのかね?
マジでこの部分は日本の裏社会に流れない方が良いんだけど・・・まあ、下準備の部分は見えている魔法陣の術とは別だから、大丈夫かな?
マジであっちの国って危険だね。
ある意味テロ攻撃で人を殺し放題じゃん。
まあ、一度だったら偶然で済むけど流石に何度もやったら他の国からそっぽを向かれるから、こう言う術は多用できないと期待しよう。
「よし、特に気を付けておかなきゃいけないような術はないと思うから、この部屋を全部浄化しちゃって!」
下手に黒魔術師が術をキャンセルする為に手を出すより、碧に力技で浄化させる方が安全っぽい。
さっさと後は任せて、新宿と東京駅を確認したい。
ここの術を設置した術者はヤバ過ぎる。