急ごう
「見取り図を持ってきた!」
田端氏が声を上げながら部屋に入って来た。
「じゃあ、すぐに下に行きましょう。
なんか変な仕掛けがあるっぽいので」
コンビニ弁当を袋にしまい、立ち上がる。
あの鼠で術を完成させ、一気に一階辺りにいる人間を殺して更にそのエネルギーで被害者を増やし、ゾンビにして朝まで殺戮を繰り返す様にでもするつもりならば毒ガスや銃撃者は用意されていないかも知れないが、まずは魔法陣をしっかり確認してどう言う形で術が稼働するか調べる必要がある。
術の流れを確認した後にこの建物の地下全体を碧に浄化させれば悪臭は何とかなるし、呪詛混じりな死霊術も消える可能性が高い。
そうなったら毒ガスとかの仕掛けに関しては警察なり公安なり自衛隊なりに確認させれば良いだろう。
早く終わったら新宿か東京駅に行ってそちらにも同じ様な仕掛けが無いか、調べる時間もあるかも知れない。
「下なのか?」
見取り図を捲って下に行くルートを探す田端氏を置き去りにして、取り敢えず非常階段の方へ向かう。
これで一番下まで行けなかったら見取り図を確認すれば良い。
「後ろ暗い連中って地下とかが好きでしょう?
現実的に、地下のスペースの方が常時的には使われていなくて邪魔が入らないでしょうし」
碧が指摘する。
地下はビルの管理スペースというか、非常用発電機や変圧器とかが置いてあるスペースが多いらしいから、事務所や会議室として使われている地上階よりも怪しげな術を準備するのに向いているだろう。
というか、この術って絶対に既に何人か殺してるから、人目のあるところでは絶対できないと思う。
地下にだって人目があるとは思うが、非常用発電機の置き場所とかの方がお金のやり取りの結果として使われている事務所や時間貸されている会議室より人除けの術を使うにしても隠し事のハードルが低い。
一般用の非常階段を降り終わったが、やはり霊視で視えた魔法陣まで辿り着かない。
角度的に、もう一階下かな?
「もうちょっと下っぽいですが、従業員用の階段はありませんか?」
田端氏が広げている見取り図を覗き込みながら尋ねる。
「こっちにある扉の先に階段がある筈なんだが・・・」
奥に進み、右側の壁にある扉の傍で田端氏が首を傾げながら立ち止まった。
認識阻害の術か。
あまり露骨にそう言うのを破れるって知られたく無かったんだけど、流石に田端氏を他のところへ追いやってから術を解除する暇もないね。
しょうがないので壁際の結界に手を当て、魔力を逆流させて術を壊す。
「あれ??
なんで気付かなかったんだ?」
突然目に入った扉に田端氏が首を傾げていたが、それ以上突っ込まずに扉を開けて中を覗き込んだ。
「うわ、臭!!!」
扉を開けた瞬間に碧が顔を顰めて鼻を摘んだ。
「血の臭い?それとも汚物の臭い?」
はっきり言って死霊術の悪臭がきつすぎて、私には他の匂いが分からない。
血の臭いが直接するとしたら死体も転がっている可能性がある。
「両方・・・かな?」
碧が階段の下を覗き込みながら言った。
電気が点いていないので、入り口の扉の上にある非常灯の仄かな光だけでは何も見えない。
壁際を探したらスイッチがあったので押してみたら、眩しい程の白い灯りが突然ついた。
「うわ!」
かなり大きな面積の床に何やら赤黒い線がいたる所に塗りたくられ、あちらこちらに細長い箱が置かれている。
そして壁際に動かない塊が複数。
あれって服を着せたマネキンじゃあ・・・無いよねぇ。
「線を踏まなければ、中に入っても大丈夫か?」
田端氏が確認して来た。
「あちこちに置いてある箱にも近づかない方が良いでしょう」
最終的にはどけた方が良いが、多分なんらかの手段で中に入っている生き物を殺す仕組み付きな筈。
だとしたら動かす際にうっかり仕掛けを動かして鼠(?)を殺してしまったら術が完成してしまうかも知れないので、碧が部屋を浄化するまでは触らないのが一番だ。
「浄化しちゃう?」
碧が鼻と口の周りを袖で覆いながら聞いて来た。
「ちょっとまず術を読み解くから、その間にこっから写真で詳細を記録しといてくれる?」
魔法陣を描いた材料次第だが、血と呪詛を混ぜ合わしているのだったら碧が浄化したら線が一部消える可能性が高い。
他の場所の解除の参考にする為にも、まずは写真を撮っておくべきだろう。
変な知識を残さない方が良いと思うから、全てが終わったら『うっかり』削除することを強く推奨するが。
まあ、大陸の死霊術の術がこちらで知られていないなら、対応策を練る為に知識は残した方が良いかもだが・・・白魔術師に浄化させるのが一番と割り切って、下手に研究しようとして日本の裏組織の人間に知識が流れるリスクは取らない方が良いだろう。
田端氏が記録を撮っていたら情報が残ってしまうが。
何にせよ、急いで読み解いてさっさと碧に浄化させるのが正解だね。